「みんなのクレジット」という金融商品がちょっとしたトラブルになっています。これは投資家の少額のお金をとりまとめ、ソーシャルレンディングをするという触れ込みで、フィンテックのひとつとして注目されていたものです。

ソーシャルレンディングというのは個人の少額の資金を大きくとりまとめ、ネットを介してお金を借りたい個人や企業に貸し付け、その利益を個人に還元する仕組みです。投資型クラウドファンディングとよばれることもあります。しくみそのものは違法というわけではありませんし、ソーシャルレンディングを行なっている会社は国内にいくつもあります。

しかし、「みんなのクレジット」については3月24日に証券取引等監視委員会が金融庁へ行政処分を行なうよう勧告、以降業務停止命令が出され、改善の見込みがたたず業務がストップした状態です(金融商品取引業務)。8月には東京都からも貸金業にかかる業務停止命令が出ています。

証券取引等監視委員会の資料などから明らかになった内容によれば、実際には投資資金が本来の貸付先に回っていなかったどころか、特定のグループ企業に貸し付けられていたことがわかっています。さらに、その資金は別の投資家への償還金に回されており自転車操業状態になっていたほか、キャッシュバックキャンペーンのお金としても投資資金を回していたうえ、社長の個人的な債務解消のために用いられていた状況が指摘されています。

3月24日時点での出資金額は17.6億円を集めていたようです。今のところ業務再開のメドがたたないどころか、お金を預けた投資家のお金がどこまで保全されるかもわからない状態になってきています。6月までは報告があった償還や配当について、7月分からはまったく情報開示がなされていません。

こうした金融商品トラブルは毎年数件は発生し、後を絶たないわけですが、できるだけトラブルから回避したり損失を小さくする方法はないものでしょうか。

今回のマネーハック心理学は今回のケースを参考にしつつ、「わからないものを信じない」というテーマで考えてみたいと思います。

お菓子を買うのと金融商品を買うのは、構図がまったく違う

お金にかかるあらゆる情報は鵜呑みにしてはいけません。これは大原則です。あらゆる情報は疑ってみる目線が必要ですし、信じないくらいの気持ちがほしいところです。

というのは、「信じない」場合のダメージがモノを買うのと大違いだからです。新商品の食べ物や新発売の家電品などは、失敗したとしてもそこで終わりにすることができます。極端な話「信じなくてもいい」のです。

数百円で買えるお菓子や新作のカップラーメンの味が最悪であったとしても「これははずれだった」と捨ててしまえば、そのためにかけたお金だけがムダになるだけでおしまいです。その数百円で別のモノを買えたかもしれませんが、生活が困るわけではありません。

しかし金融商品というものは性格が異なります。10万円で買った金融商品を「はずれだったな」と捨てて0円というわけにはいかないからです。

金融商品そのものは消費の目的ではありません。金融商品は基本的に資産を増やして、将来何か別の「モノ」を買うための費用にしたいと考えて購入するものです。「投資をして得られた1000万円を使って定年後に旅行に出かける」とか何か使い道があるわけです。

だからこそ、金融商品は紙くずにしてはいけません。その預け先投資先については慎重に判断する必要があるわけです。

お金にかかるあらゆる情報は信じないくらいがいい

お金に関する情報はたくさんあふれています。基本的には「本当かなー」と疑惑の目を持ち続けるくらいがちょうどいいでしょう。それでも営業トークを受けたり、セミナーで上手な話を聞いていると「これは確実かも」と思い始めてしまうからです。

立場によりますが、以下の立場を認識するだけで、情報を疑う目を持つことができます。

・発行者の情報:金融商品を発行する団体、金融機関のウェブページ、広告、パンフレットなどに書かれていることがどれほど魅力的であっても割り引いて考えることが大切です。そもそも、そこに魅力的でないことが書いてあるほうがおかしいわけですし、都合が悪いことは基本的に書かれていないと考えるべきです。

また、ウソをついている人のウソを見分けることはほとんど困難である、ということも考えておきましょう。なぜなら本人はウソをついていることを自覚して全力でウソを隠すパンフレットを作成し、募集説明会を開催するからです。

都合が悪いことを正直に書いている場合、それは法律がきちんと規制をしているからだったりします。

・投資した人の情報:ネットでブログを検索し、投資した人の感想のようなものを探す人がいますが、これもあまり当てにはなりません。褒め言葉を探している人が、たまたまうまくいったことだけ書いている人の褒め言葉を見つけたとしても、きちんと疑ってチェックすることは困難です。

自転車操業状態になっている投資商品の場合、最初に契約した人は自転車操業がゆえに後から契約した人のお金で配当をもらっており、「ちゃんと高利回りはもらえています」と書いていたりします。むしろ「個人の感想」はあてになりません

これは金融商品を発行する団体のウェブページに書かれている「お客さまの喜びの声」コーナーも同様です。喜ばないお客さまの声はそもそも非掲載なのですから。

さらにひどい場合、企業からお金をもらい、ステマでブログを書いている人もいますから、個人ブログについては情報としての保証は期待しないほうがいいでしょう。

・メディアの情報:メディアの情報には「事実」と「憶測」がありますので、読み方には注意が必要です。「憶測」は2つのタイプがあり、褒めるタイプの憶測記事と注意喚起するタイプの憶測記事があります。新しい商品をやたらと褒める記事はむしろ一歩引くくらいがおすすめです。逆に注意喚起をしてきた憶測記事は、実は何らかの確証がありつつまだ形にできていないことがあり、手を引く判断材料のひとつになるかもしれません(少なくともそういう記事を見て「いや、私だけは信じている」と意固地にならないほうがいいでしょう)。

また「広告」についてはきちんと切り分けて読むことが必要でしょう。普通に広告出稿されているものはもちろんですが、新聞や雑誌やウェブでみかける「記事広告」は要注意です。これは実質的には広告であり、発行者の都合のよい情報だと考えるのが適切です。

・第三者的立場にある専門家の情報:経済評論家、ファイナンシャルプランナー、などのコメントも評価が難しいもののひとつです。まず、広告内にある専門家のコメント、発行者主催のセミナーでの講演などは、広告的バイアスがないはずがありませんので、あまり参考にならないと考えるくらいがちょうどいいでしょう。

無名な人は信じず、著名な人なら信じるというのも危ない発想です。一時期、芸能人がブログなどでステマをやって商品PRをしていたことが問題になりましたが、著名な人が自分が所属している組織の利益になる話をしている場合などは正直あまり信頼がおけません。投資商品を販売する会社の役員をやっていたり、勤務先の業務内容とからんでいる場合などは、ちょっと距離を置くといいでしょう。また、本業と関連した話をしつつ、適切な話をする専門家もいるので、結果として「悪を見分けにくくする」ことになっています。

信じられないとき、信じられるものはあるのか

さて、ここまでくるとほとんど哲学的な世界で「信じられる者は自分しかいない」となっていきます。信頼に値するものはあるのでしょうか?

たいていの人は役所の規制というのを嫌がりますが、お金の問題についてはむしろ規制の存在が皆さんのお金の安心を確保してくれます。また検査や監督が厳しいほうがコストがかかる要因にはなるものの、一定の規制や監督があることで安全性は高まります。普通の人が普通に投資をしたいのであれば、投資信託(公募型)ETF(上場投資信託)が不適切業務の可能性がきわめて低い金融商品です。

まず投資信託の場合、資産の保全体制に信託銀行が介在しているため、運用会社がお金を持ち逃げしたりウソの会計をして数字をごまかすことがほとんど不可能です。法律がかなりガチガチに縛っているので、運用結果の報告は高頻度で開示されます(基本的に毎日一度時価が開示される)。利益隠しもほとんど不可能です。

むしろそんなことを実現した投資信託(公募型)があったら、業界の度肝を抜くことでしょう。

一方、入ったお金を支払いに回す自転車操業状態、あるいは実際には資産が空っぽになっている状態の発見が遅れる商品をズバリあげるなら「匿名投資組合」「私募投信」があげられます。

みんなのクレジットやワインファンドは匿名組合の方式を採っていましたし、AIJ投資顧問会社は海外に設定した私募投信に投資一任勘定の契約を加えることで実態を隠していました。

匿名組合や私募投信のすべてが悪いわけではないのですが「悪いやつが隠れていたとき、みつけにくい」ということは知っておいたほうがいいでしょう。

そして「誰が悪いかどうかはなかなか見分けがつかない」のです。そもそもそういう輩は粉飾を全力で行なうからです。しかも、悪いやつほど、あなたの欲望を忠実に突いてきます。「確実な高利回り」と「元本は安全」を同時に掲げる場合はまず疑ってかかってください。そして「わからない」と正直に認められる無理に手を出さないでください。

もうひとつ、最後のアドバイスは「手を出すなら少額で」です。あなたの全財産をよくわからないけどおいしい話に突っ込むのと、10万円くらい手を出すのは、もしものときのあなたの人生が大違いです。

次にやってくるのはどんなトラブルか分かりません。しかし「買わない」ことであなたは確実に詐欺から逃れることができるのです。

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Source: 金融庁 1, 2, 東京都