まだ残暑が続いていますが、次第に朝晩はひんやりしてくる今日この頃。夏物から秋物へ、クローゼットを見直すタイミングでもあります。上着が必要となるこれからの時期にオススメしたいのが、オン&オフ兼用ジャケットです。

ひと口にジャケットと言っても、その種類やデザインは千差万別。まず、ここではビジネスシーンでも違和感なく溶け込みながら、週末もリラックスして楽しめることを念頭に、スタイリスト石川英治さんと検討してみました。

オンオフ使える理由①風合いのあるコットンのグレンプレイド生地

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Photo:星武志

無地のネイビーやグレーのビジネススーツを、週末カジュアルに取り入れようとすると、どうしてもちぐはぐな印象になりがち。そこでまず注目すべきは、生地選びなのです。

上の画像のようにコントラストを抑えた柄物というのがポイント。ネイビーとブラックが入り混じった「グレンプレイド」(※1)なので、遠目からは無地のように見えるのに、近くで見ると細かな柄が認識でき、遊び心が演出できるのです。

(※1) プレイド=plaidとは、スコットランド発祥の格子柄のこと。ここ日本ではひとくくりにチェックと呼ばれていますが、厳密に言えばチェックは碁盤の目のように等間隔で構成された格子柄のことを差します(ギンガムチェックやグラフチェックなど)。欧米では、異なる縞が交差する格子柄はプレイド(より英語本来の発音に近いのはプラッド)と呼ぶのが一般的です。  

そもそも「グレンプレイド」とは、スコットランドのアーカート地方にある峡谷(=グレン)で生まれたことから「グレナカートプレイド」と呼ばれ、かのウィンザー公爵エドワード8世が好んで愛用したことから、「プリンス・オブ・ウェールズ・プレイド」という別称でも知られています。王室をはじめ数多くの英国紳士に愛されてきた由緒正しき柄なので、ビジネスにおいても通用します。また、今季セレクトショップなどで注目されているトレンドのひとつ、「英国調クラシック」という流れに沿った柄でもあるので、まさに一石二鳥。

またビジネススーツなどで一般的な、表面が均一で艶やかな梳毛(そもう)素材(英語ではウーステッドと呼ばれます)のジャケットは、どうしてもドレス感が強く、かしこまった印象になりがちですが、こちらは風合いのあるコットン素材。それゆえジーンズやチノパンといったカジュアルアイテムとも違和感なく合わせられます。真冬にはコートを重ねれば充分なので、真夏以外の3シーズンに対応。長期スパンで付き合えるので、初秋に買い足すアイテムにはもってこいです。

オンオフ使える理由②本格的な作り込みによる正統派であること

昨今は肩パッドや芯地を取り払った、簡易的な作りのカジュアルジャケットが数多く見受けられますが、きっちり大人っぽく見せたいのであれば、やはり正統派の作りによる1着を選びたいもの。今回選んだバナナ・リパブリックのシングルジャケットは、その点でも万全といえます。定番の襟であるノッチドラペルに2ボタン、後ろの裾の切り込みが真ん中にあるオーソドックスなセンターベントという、現代的で汎用性の高いデザインだからです。

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Photo:星武志

袖口は本格的な本切羽(※2)仕様で、ポケットの周囲や裏地の切り替え部分もていねいにトリミング処理されています。襟裏はラペル(※3)を立てたときにも型崩れしないようメルトン素材で補強し、脇下には汗止めをあしらうなど、普段見えないところまで、きっちりと伝統的なテーラー技術を投入しています。それでいて2万円台という良心的な価格も、スケールメリットを生かした同ブランドならでは。

(※2) 本切羽(本開き)とは、腕まくりができるように袖口がボタン留めされた作りのこと。そもそもスーツやジャケットは注文服であり、本切羽であることはテーラーの腕前を示すものでもあります。それに対して既製服の多くは、切羽見せ(開き見せ)という筒袖にボタンを縫い付けて簡略化したものが主流。その理由は袖丈を短くしたいときに便利だからです。本格的な仕立てであることを主張する本切羽ですが、袖丈を詰めるのが困難かつ高額になりがちなので、購入時には腕の長さにぴったり合うものを選びましょう。

(※3)ラペル(英: lapel)は、洋服のカラー(上襟)に続く身頃の折り返し部分のこと。

また、肩幅を広めにとり、胸元とウエストに少しゆとりを持たせたシルエットも秀逸。ヒップが半分以上隠れる腰丈なので、落ち着いた雰囲気です。ちなみに過度にスリムで丈が短いジャケットを選んでしまうのは厳禁。こうしたシルエットはあくまで遊び着であり、ビジネスにおいては場違いで軽薄に見えるだけです。礼節をわきまえた大人にふさわしいのは、こうしたオーセンティックな作りとデザインを踏襲した1着であるべきです。

オンオフ使える理由③伝統的なスタイルでありながらも今っぽいこと

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Photo:星武志

前述した通り、こちらはシングルの2ボタンというデザイン。本来のトラッドのお約束であれば、中掛け3ボタンとなります。さらに3つのパッチポケット(※4)は、どちらかというとカジュアルなディテール。どうしても正統派を意識しすぎると、ガチガチで古臭い印象に。このジャケットが今の気分にぴったり合うのは、こうした本来のお堅いルールを“少しだけハズしている”ところでもあるのです。

(※4)まずジャケットの中でもっとも汎用性が高く、トラッドとされている「中掛け3ボタン」を覚えておきましょう。その名の通り、前合わせに3つのボタンがあり、そのうち真ん中のボタンを留めて着用するデザインのこと。一番上のボタンはラペルの折り返し部分(段返りとも言います)に付けられ、普段このボタンは使いません。次にポケットですが、一般的にスーツにはフラップ付きポケットが一般的で、簡易的なパッチポケットはスポーツジャケットなど、カジュアル用途のジャケットで好まれています。胸ポケットまでパッチポケットにした仕様は、特にアメリカントラッドやアイビーの着こなしに効果的。

バナナ・リパブリックは、1978年にアメリカ・カリフォルニアで創業し、1983年にGAPの傘下になりました。創業当時に流行していたサファリ・ルックのイメージを引き継ぎながらも、カジュアル・ラグジュアリーという新しいカテゴリーを生み出したことでも知られています。同ブランドが目指したのは、あくまでも普段着=リアルクローズでありながら、上質さとエレガンスを感じさせること。今でこそ、低価格で素材も作りもしっかりしたブランドは数ありますが、その先駆けとも言えるのがバナナ・リパブリックなのです。

最新のメンズ・ファッションのトレンドを意識した英国出自のグレンプレイド、手入れがしやすくカジュアルにも使いやすいコットン素材、手の届きやすい価格帯でありながらしっかりとした作り込み。英国生まれのドレスクロージングのお約束を守りながら、アメリカブランドらしいパッチポケット、ほとんど意味のなくなった段返り部分のボタンを排した2ボタンにすることで、より幅広い着こなしに対応し、今っぽく見せることに成功しているのです。

ビジネスで着こなすコツ:素材感を揃えたジャケパンで大人の「こなれ感」を出すべし

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Photo:星武志

それでは実際の着こなし例を紹介していきましょう。こちらはチノパンを合わせたアメリカントラッドな着こなしです。上下の素材感を揃えることで生まれる「こなれ感」、そして程よく力の抜けた感じにご注目。どちらかというとカジュアルに見えがちな着こなしを引き締めるのは、首元のレジメンタイと足元の革靴なのです。汎用性の高いストレートチップを選び、ベルトは靴と色合わせするのが基本。

「クラシカルな小物を合わせれば、王道のジャケパンスタイルがぐっと引き締まります。無地の紺ブレよりもグレンプレイドというのが今季らしさを演出してくれます」(石川さん)。

余計なデザインや外しではなく、ここでは信頼感を高めてくれる小物が重要な役割を果たしてくれるのです。

ジャケット価格2万5000円(バナナ・リパブリック)、その他スタイリスト私物

カジュアルで着こなすコツ:色数を絞ったスポーツミックスで「軽快さ」を出すべし

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Photo:星武志

「リジットもしくはワンウォッシュの濃紺デニムを合わせ、上下を同系色で揃えればカジュアルでも落ち着いた雰囲気にまとまります。こここでもやはり、コットンで素材感を合わせるというのがポイントですね」(石川さん)。

インナーにはアイビールックに欠かせない、杢グレーのスウェットパーカをチョイス。クルーネックではなくジップアップのフーディーを選べば、表情のあるVゾーンにまとまります。今回はレザーの黒スニーカーを合わせていますが、もちろん白でも構いません。いずれにせよ注意すべきは、いわゆるハイテク系を選ばないこと。こちらのようにワントーンでまとめられたシンプルなローテク系を合わせて、裾を9.5分丈でロールアップするのが鉄板です。

ジャケット価格2万5000円、その他スタイリスト私物


今回ご紹介したように、仕立ての良い正統派のジャケットを1着増やすだけで、仕事も週末もグッと大人っぽく、こなれた着こなしが可能になります。

今季のメンズクロージングのトレンドでもある英国テイストを、気負うことなく取り入れられるという点も見逃せません。仕事用スーツを新調するよりも気軽で、週末にしか着ないカジュアルアウターを買い足すよりもずっとハードルが低いはず。しかも、バナナ・リパブリックという上品なイメージが定着している米国ブランドでありながら、3万円を切るというプライスも背中を押してくれることでしょう。

Photo: 星武志

Source: バナナ・リパブリック