あなたは「疲労感がまったくない自分」を覚えていますか?

肩がこる、腰が痛い、などは最も多い悩みです。なんとなく胃腸の調子が悪いことが続いたり、眠れなかったり、朝もだるくて起きれない…など、病院にお世話になるほどではないけれど、体調が今ひとつ、といった不定愁訴のバリエーションは様々。若い頃は疲れを体力でカバーしていたこともあったかもしれませんが、30代以降ともなると「疲れていない人」を探すのは困難なことだと思います。また、最近では10代や20代の若い人でも、疲れから回復できないという悩みを持つことは少なくありません。

本来、人間には身体が自然にバランスを取ろうとする力「自己調整力」が備わっています。身体の内側のセンサーが、今の身体状態を読み取り、元に戻ろうとする力。そのセンサーが鈍ってしまい、自己調整力を上手に発揮できないのが、「疲れ」の原因です。そしてセンサーが働かない理由は、私たちが「身体のつながり」を忘れてしまっているからなのです。ではつながりを取り戻すにはどうしたら良いのでしょうか?

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「つながり」を感じれば疲れはとれる(著:藤本靖、発行:学研プラス)
Image: 学研出版サイト

今回は「身体のホームポジション」という独自の理論を展開するロルファー/ボディーワーカー 藤本靖さんが上梓した「『つながり』を感じれば疲れはとれる」(学研)から、「身体に意識を向けるだけ」で疲れがとれる方法をご紹介します。

「身体のつながり」を忘れている現代人

スマートフォンやパソコンなどデジタルツールを使っているときの自分を客観的に見たことはありますか? 試しに、今この文章を読んでいる状態でご自身の身体全体に一時停止をかけてみてください。首が前に出て、猫背になっている、肩が不自然に上がっていかり肩になっている。お尻が椅子から滑り落ちそうなような姿勢をとっている人もいるかもしれません。こうやって自分自身を見直してみると、いかに不自然な姿勢で、身体のあちこちに負担をかけているかわかるはずです。また、そういうときに身体の内側で何が起こっているかを想像したことはあるでしょうか?

人間の身体の内側には、私たちを生存させているたくさんの臓器が存在しています。それらの臓器は、主に身体の体幹部や頭部などの限られた場所に収まっているわけです。身体が重力に対して素直に無理なく存在しているときは、臓器も適切な場所に収まっています。

しかし、日常生活の中で習慣的に無理な姿勢をとっているとき、私たちの肺や胃、腸の位置もひしゃげて苦しい状態に陥っている可能性があります。そうやって圧迫された内臓は、血流が滞ってしまい、存分に本来の働きをすることができません。血流には、老廃物や二酸化炭素を取り去り、豊富な栄養や酸素を臓器や細胞に供給する重要な役割があり、隅々まで血液が行き届くことは身体の各部位の体温を温かく保つことにも役立ちます。

これは「身体全体のつながり」を示すほんの一部です。私たちの身体は本来、すべてが必然的な形で繋がっています。その連動なくして、私たちの健康な生命は成り立たないのです。しかし、頭と腕、手先さえあればほとんどのことが成り立ってしまうデジタルツールに席巻された世の中では、「身体全体のつながり」を意識することが非常に少なくなっています。

「肩こりだから肩を揉んでもらう」というのは、「部分」だけを場当たり的にケアしたにすぎません。「自己調整力」を働かせるためには、全身の連携が大事です。私たちの身体の「つながり」に着目し、それらが動きやすい状態を身体に思い出させていく必要があるのです。

全身をつなぐ「筋膜」

最近では「筋膜」という言葉を耳にする機会も増えているのではないでしょうか? 筋膜は、全身を包むスパイダーマンスーツのようなものだと考えると、わかりやすいかもしれません。あるいは、鳥肉をさばいた時にピンク色の肉と皮の間に白っぽく半透明の膜のようなものがあるのを見たことはありませんか? あれも筋外膜という筋膜の一種です。

「『つながり』をとり戻すために重要なのが『筋膜』です。筋膜とは、その名の通り筋肉を包み込む膜のこと。筋肉のほか、内臓、骨、血管、神経などのパーツを丸ごと包んでいる薄皮のようなものです」(P32より抜粋)

筋膜はあらゆる臓器を包んでいます。そうして身体の各パーツは、筋膜で包まれることで保護され、安定して動くことができるのです。また、パーツ同士のつながりを作り、連動させることも筋膜の働きです。この筋膜が、「つながりをとり戻す」ための大切な鍵となります。

「筋膜は自分で動かすことはできませんが、センサーが高密度にあります。ですから、『そこに筋膜がある』ということを感じればいいのです。具体的には『触れる』という方法が有効です。」(P33より抜粋)

「触れる」と一言で言っても、皆さんが想像する圧加減は様々かもしれません。実は「筋膜」のセンサーを働かせるために、過度な圧や揉みほぐしは必要ありません。本当に「そっと手をあてるだけ」で良いのです。強いほぐしに慣れている身体には心もとなく感じるかもしれませんが、強い圧を好むのは身体のセンサーが鈍っていることも原因の一つ。添加物が満載の味の濃い食事に慣れた人が、有機野菜をシンプルな味付けで食べた時に物足りなく感じるようなものです。

自己調整機能は何歳になっても取り戻せる」と藤本先生は言います。自己調整機能を取り戻す鍵である筋膜のセンサーを働かせためには、まずは意識して見ること、そして触れてみることから。このシンプルな方法で、自分の身体感覚を取り戻していきましょう。

身体のつながりを取り戻す、5つのグループ

身体は筋膜によってすべてつながっている。これはまぎれもない事実です。しかしそれだけでなく、身体の機能ごとの単位である「器官系」によって、つながりを分類する方法があります。本書では「器官系のつながり」を5つに分けています。それらの器官系のつながりを意識して感じることで身体感覚のセンサーを活性させ、身体の自己調整力を取り戻すことができるのです。

例えば、脳と脊髄のオタマジャクシのようなつながりを意識すると、露出した脳と言われる「眼」の疲労やアタマの使いすぎによる「脳神経系」の疲労をケアすることができます。消化器系全般のトラブルにアプローチするために必要なのは、口から食道、胃腸、肛門までの一本の管のつながりであると感じる「消化器系」の意識。肩こり腰痛、倦怠感など、無意識にとっている不自然な姿勢が蓄積した症状を全身のバランスを整えたい方は「筋骨格系」のつながりを取り戻すことが大事です。また、冷え性や血圧に関するお悩みがある方には、心臓と血管のつながり、つまり「循環器系」を感じて全身の血液循環を良くすることがおすすめです。

今回着目するのは、「呼吸器系のつながりを取り戻す」ことです。生きるのに不可欠な酸素を取り込み、不要な二酸化炭素を排出する呼吸器は「外と内の“つなぎ役”」であり、他の4つのグループにも影響を与える生命活動の基本なのです。

藤本先生が提案する「呼吸器系のワーク」の中から、呼吸器系の要である「肺」を取り囲んで保護している肋骨を意識することで、呼吸を深くする方法をご紹介します。

呼吸から身体のつながりを取り戻す

「呼吸というと、口や鼻、胸やお腹、それぞれバラバラに意識を向けがちですが、実際は口と鼻から入った空気は気管を通って肺まで行き渡ります。ですから、酸素と二酸化炭素の出入口である鼻や口から気管、肺までを“まるごと”呼吸器として感じることが重要です。」(P36より抜粋)

ここで鼻から息を吸い込んで、口から吐いてみましょう。呼吸の吸い込みやすさ、あるいは吸い込みにくさは感じましたか?そして、口や鼻が肺に空気が入る通路である感覚はなんとなく実感できたでしょうか? しかし「呼吸の深さ」は、単にそれらを出入りする空気だけではなく、肋骨や横隔膜などの動きから生み出されていきます。肋骨は左右12対、計24本あり、呼吸を行うために肺が伸び縮みしようとする時には、これらすべての肋骨が適切に連動することが必要なのです。そして、この肋骨を意識して呼吸を行なうことで、筋膜が連動して動き、内側からほぐれて肩こりや首のだるさなどが、ふわっと楽になります。下部の肋骨と上部を意識した呼吸法で、肩こりを緩めましょう!

■肩が楽になる! 肋骨呼吸

  1. まず下部肋骨呼吸です。胸より下の位置にある左右の肋骨を探しましょう。みぞおちに手を当て、そこから左右に手のひらを移動していくと、下部肋骨に触れることができます。
  2. 左右の下部肋骨に優しく手を触れたまま、自然な呼吸を行います。わざわざ頑張って深呼吸しなくても大丈夫です。
  3. 肋骨が膨らんだり、しぼんだりする感覚、上下に動くような感覚、身体の横側に呼吸が入る感覚を味わいましょう。
  4. 次に上部肋骨呼吸です。上部肋骨は鎖骨の上まで来ています。右手の平で左の鎖骨に触れ、肩に指先が軽く触れるように置いてみましょう。
  5. 上部肋骨に手を触れたまま、その場所に呼吸が入ることをイメージしながら、自然な呼吸を繰り返します。
  6. 今度は左手のひらで右の鎖骨にふれ、同様に右の上部肋骨に呼吸が入ることをイメージしながら自然な呼吸を繰り返します。

いかがでしたか? 呼吸によって内側から身体が動く感覚、そして上半身が緩む感覚を感じられたのではないでしょうか? しっかり呼吸が動いてくれば、自律神経系が副交感神経優位になり、気持ちが落ち着くなどの相乗効果もたくさん得られるはずです。お仕事の合間に、ちょっと手を触れて呼吸をするだけで、身体の自己調整力をアップする方法。ぜひ一日に何度でもお試しください! 本書には「身体のつながりを取り戻す方法」がたくさん提案されていますので、そちらもぜひやってみてくださいね。

「今を生き抜くためのセルフケア術」過去の記事はこちら:

デジタルデトックスのすすめ...今を生き抜くためのセルフケア術

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小松ゆり子/パーソナル・セラピスト

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音楽、カルチャー、リラクゼーションを融合する「relacle」「CHILL SPACE」スーパーバイジング・ディレクター。南青山のプライベート・アトリエ「corpo e alma」を中心にセラピー・セッションやセミナー活動を行う。東洋的な押圧とロングストロークやストレッチングを多用し、植物や鉱物の力をフュージョンさせたオリジナルメソッド「VITAL touch therapy」を提唱し、密度の濃い「パーソナル」なスタンスでオーダーメイドの施術を行っている。約12万人以上を動員する音楽フェスティバルSUMMER SONICで10年連続セラピーブースを展開するほか、新宿のシェアオフィス「HAPON」でのオフィスリラクゼーション、アパレルブランド「かぐれ」でのセラピーや講座など他業種とのコラボレーションも多数。現代人が都会でバランスを保ちながら生き抜く知恵やプリミティブな五感を取り戻す方法をさまざまな角度からナビゲートする。

Source: 学研出版サイト

Image: g-stockstudio/Shutterstock