人は誰でも複雑なことを考えたくありませんし、複雑になればなるほど判断は難しくなります。人は択一の決断より10の選択肢から1つを選ぶ方が苦手です。苦手な判断が結果として先送りになることもあります。

選択肢が同じ列に並んでいるとは限りません。仕事をしつつ家庭のこまごまとしたトラブルにも対処し、かつ投資についても判断を下す、というのも実は選択肢が多すぎる1つのパターンかもしれません。物事をできるだけ単純化することは大切です。

一方で単純化は必ずしもよい結果になるとは限りません。行動ファイナンスの世界ではヒューリスティックと呼ばれますが、私たちは判断が難しくなると「それっぽい結論」を簡単に導き、納得してしまう傾向があります。そして、それがベターな結論とは限りません。

たとえば、最近得た新しいトピックスに引きずられたり、セールストークで指摘された一見するとお得な情報に意識がひきずられてしまいます。

あるいは今行わない行動について保守的な判断をしたりします。保守性ないし行動維持バイアスと呼ばれたりしますが、「そのまま」が一番ラクと判断してしまいます。

あなたの判断すべき「シンプルイズベスト」はどこにあるのでしょうか。今回のマネーハック心理学では「単純に考える正しいやりかた」について考えてみたいと思います。

4つのお金に関する「正しいシンプルな思考法」

シンプル1:相手は話を大きくしていないか(必ず起きるとはいえないことを強調していないか)

話を強調したり大げさにすることで、決断を迫っていることがあります。たいていの場合、売り手にアドバイスを求めることは「背中を押す」効果はあれど「思いとどまる」効果は期待できません(売り上げがゼロになるのは売り手にとっては面白くないので)。

たとえば、65歳まで生き残る可能性は91.5%です(出典:厚生労働省 平成27年簡易生命表)。女性に限れば94.2%にもなります。さらにその後の女性の平均余命は24年にも及びます。「65歳までに死ぬ可能性に備える」ことと「65歳以降の長生きする可能性に備える」ことは後者のほうが確率として高いし重要ですが、私たちは「現役時代に死ぬ可能性」にばかり備えています。

生命保険がまさにそれです。確かに若くしてガンになったり、若くして夭逝するリスクには備えなければなりません。しかし、CMの強い印象に引きずられすぎることで、「未来の不確実性に備える」という点にバランスが偏ってしまうのです。

投資商品の新商品発売時に、セミナー等でその業界が有望であるとセミナーで強調されるのも、似たパターンといえるでしょう。

シンプル2:必ず生じる費用はどれか考えてみる

相手が儲ける「取り分」がどこにあるかは、一度考えてみるべきです。聞けるものなら相手に聞くべきですし、そこで情報をオープンにしてもらえないなら、これは問題ありと考えるべきです。

注意してほしいのですが、金融機関が儲けることが悪、というわけではありません。金融機関も商売をしているわけですから、一定の費用を徴収することは当然の権利です。会社の維持費、社員の給料などがこれにあたります。

しかしその儲けが納得のいく費用かどうかは考えてみるべきです。もちろん、納得感がなければどんな儲けの可能性も乗るべきではありません

評論家のオススメ銘柄を調べたり、ネットの評判を調べるのが投資の最初ではありません。株や投資信託を買うとき、「自分が必ず払うコスト」を考えることが、投資の最初の検討事項なのです。

生命保険、投資信託、株式取引、住宅の購入と住宅ローンの設定など、あらゆるお金の取引については、費用について考えてみましょう。相手が説明できないなら、取引はそこでストップです。

シンプル3:「キャンペーンがなければ買わないもの」には手を出さない

金融商品にはキャンペーンがつきものです。「新入社員の口座開設キャンペーン」「ボーナスキャンペーン金利」などはいつも私たちを引きつけます。それはグッズに始まり、金利の上乗せや手数料のキャッシュバックまでさまざまです。

しかし、キャンペーンが設定されているので買う、という人はそのスタンスについて一度疑ってみるべきだと思います。言い換えれば「キャンペーンがなければ買わなかったもの」かもしれないからです。

「おまけ」の存在は、基本的に売買の判断から除くべきです。金融商品においてはその意識を強く持つほうがいいと思います。お菓子やソーセージの10%増量、あるいは週末の割引キャンペーンは食べてしまえばなくなるモノですが、金融商品はこれと同じではないのです。

そして、キャンペーンのほとんどは一過性であり、売り手が長い目で見て得をするように設定されています。「初年度年会費無料」は2年目から費用を取るわけですし、「初回金利1%(3カ月定期)」というのは実際には0.25%(3カ月は4分の1年だから)しか金利をもらえません。キャンペーン直後に中途解約するとペナルティになるケースもあります。

ボーナス時にキャンペーンをしているのも、私たちがたくさんお金を持っているタイミングこそ彼らのビジネスチャンスだからかもしれません。

キャンペーンはむしろ疑ってみたほうがいいでしょう。

シンプル4:「投資初心者向け」のようなキャッチコピーは信じない

キャッチコピーやCMに惹かれて好印象を持ち、口座を開いたり金融商品を購入することはよくあります。現実的には金融商品と接する大きなきっかけの1つにもなっています。マスコットやアイドル、有名俳優の演技をみて好印象を持つケースは多いと思います。営業トークも商品購入の理由となっていることがしばしばです。

「単純に考える」という意味では、CMほどシンプルにポジティブメッセージを伝えてくる手法はありませんが、ここはむしろ「その単純さに要注意」です。

単純に考えるなら、むしろこのように考えてみましょう。「CMはいいことしか言わないに決まっている」と。

あるいはこういうシンプル発想もあります。「これだけCMを売って有名俳優にギャラを払えるほど儲けまくっているのだな」と。

基本的に「初心者向けの商品」などありません。初心者のお金もプロのお金も株式市場では同じに扱われます。ゴルフのハンディキャップのようなものはありません。もし誰かに投資を代わってもらえばその分の手数料が生じます。

あなたが「よく分からないけど初心者でも大丈夫だろう」と思っているうちは、その金融商品を買ってはいけません。少しでも悩んだ場合は金融商品のセールス現場で即決することを避けてください

一度、売り手から離れて冷静になって考えてみるだけで、不要な取引から逃れられるはずです。

最後にもう1つ:「買わない」という選択肢で自分は不利になるか?

最後にもう1つ、考えてみてほしいことがあります。それは「買わない」という選択肢がある、ということです。

買わないことで「儲け損なう」ことはあるかもしれません。しかし買わないことで「確実に損をせずにすむ」ということも間違いありません。

あなたの前にいえる金融機関の人は、あなたに「買わない選択肢もありますよ」というより「買わないと儲け損なうかもしれませんね」という側の立場にいます。

あなたが素人的に個人的見解を述べるほど、相手は相づちを打ちながら、契約することをやんわりと勧めてきます。実際にはあなたの見解など運用成績の何の保証にもならないというのに。

4つのシンプルな発想を紹介してきましたが、最後にもっともシンプルなアドバイス「買わないという選択肢もある」というアドバイスを足して、「お金に関する5つのシンプルな発想法」としたいと思います。