私はストックホルム在住の35歳、自動車部品メーカーÖhlins Racing ABで働く設計・開発エンジニアです。3歳の娘の教育、妻の女性としてのキャリア、自身のワークライフバランスを考慮し2016年3月にスウェーデンへ移住しました。
年功序列や終身雇用が現代の日本社会とマッチしていないと感じるようになり、また、お父さんの仕事に家族が付き合うのではなく、家族の幸せのために国境を越えて仕事を選べる世の中になるべきだと考えています。
そこで、今回は私が実際に経験した海外企業へ転職するための具体的ステップを紹介します。自動車業界のエンジニアに限らず、"資格の要らない専門職"かつ"言葉が主体でない職業"すべてに当てはまる話だと思います。

1. CV(職務経歴書)を人材斡旋会社に送る

CVとはCurriculum Vitaeの略で、ラテン語で「人生の物語」という意味になり、職務経歴書のことです。海外企業への転職を希望するなら、CVを用意し、いつでも提出できるようにしておきましょう。すぐにCVを出せるようにしておかないと、ライバルに一歩二歩出遅れてしまいます。
転職は必ずしも自分のペースでできるとは限りません。通勤時に電車でスマホをいじっていて良い求人情報に出会う場合もあります。私もそんな風にスウェーデン企業の求人と出会い、とりあえずCVを送りつけたのを覚えています。
「一生を左右する転職だからじっくり考えないと...」はNGです。終身雇用が一般的ではない海外では、転職活動は日本よりも気軽でスピードも速く、求人もすぐに埋まってしまいます。求人を見つけてからCVを書いていてはまず間に合わないのです。一度書き上げてしまってからアップデートしていくほうがいいでしょう。
CVには決められたフォーマットはなく、自分の好きなように書けます。「CV 書き方」で検索すれば多数出てくるので、それらを参考にご自身で書いてみて下さい。
CVを書くうえでの注意点
注意すべき点は、日本企業によくある、自社の不思議な横文字の肩書をそのまま記載しないことです。名刺の裏側に記載された英語表記の肩書をそのまま書いても、世界中どこでも通じるとは限りません。
たとえばエンジニアと言ってもさまざまな種類がある訳ですが、私の場合は機械工学が専門なのでMechanical Engineerとなります。ホンダ時代は自動二輪の車体設計が専門だったのでMotorcycle Chassis Engineer、BMW時代は品質保証エンジニアだったのでQuality Engineerと記載しました。必ずしも社内での呼称と一致させる必要はありません。管理職であればManagerという表記が一般的で、N人の部下がいる等具体的な数字を用いることも大切です。とにかくシンプルに表記しましょう。
英語に関しては、English: Fluent(スムーズに話せますの意味)とでも書いておけばOKです。TOEICが何点というのを書くのはやめましょう。海外企業へ転職する上でTOEICを受ける必要はまったくありません。欧州の人たちはそもそもTOEICの存在すら知りません。言語能力もSkype面接で評価すればいいだけであり、わざわざ点数化する必要などまったくないのです。
また、エンジニアであれば普段から横文字を多用していることと思います。たとえば私の専門である自動車業界では、Suspension、Tyre、Spring、Damper、Bolt、Nut、Screw等は英語でそのまま通じます。後はそれっぽく文章を組み立てられれば問題なく働けます。求職者に求められているのは完璧な英語ではなく、まずは職務を全うできることです。仕事を進める上でネイティブ並みの英語など、エンジニアであればまず必要ないでしょう。つまり文法なんてどうだって良いのです。現に私が普段使っている英語は中学校で習う単語の組合せが大半です。

2. 求人探し
日本のリクルート社のように、転職をサポートしてくれる会社(人材斡旋会社)は世界中に存在します。彼らをJob agentと言い、日本に支社を持っている海外のJob agentも少なくありません。有名な会社としては、Michael PageやRanstadがあります。ただ、彼らのマーケットは日本国内がメインなので注意が必要です。
(1) 興味がある国の人材斡旋会社を当たる
海外企業の求人情報を見たければ、当たってみたい求人会社のURLの"jp"を自分が興味のある国に置き換えましょう。スウェーデンなら"se"、ドイツなら"de"。たったこれだけです。 手順は以下の通りです。

人材斡旋会社「Michael Page」でスウェーデン国内の求人を探す場合、「Michaelpage.se」で検索すればスウェーデン版のサイトが出てきます。

実際にアクセスしてみた結果がこちら。これでスウェーデン国内向けの求人を探すことができます。表示言語を英語に切り替えられるならラッキーです。トップページで業種やエリアを絞って検索ができます。

スウェーデン国内で"Engineering & Supply Chain"で検索をした結果、Volvoを初めとした求人が出てきました。
(2) LinkedInで求人を探す
また、転職活動SNSであるLinkedInも活用しましょう。
ポイントは現在の居住地を自分の興味のある国に設定してしまうことです。LinkedInは登録してある職業や地域に合わせてユーザーに最適な求人情報を提供してくれます。

筆者のLinkedInのキャプチャ画面がこちら。居住地をスウェーデンに変えた途端に、求人情報がすべてスウェーデン国内のものに変りました。どの求人も英語で書かれていますが、所在地から分かるようにどの求人もスウェーデンの会社のものです。
よい求人を見つけたら担当者とサッサとコンタクトを取り、迷わずCVを送りましょう。
先ほど述べたように、海外での転職活動は日本と比べてかなり気軽なものです。それに倣って、まずは気軽に応募してみましょう。相手が興味を持ってくれたら本格的に考えれば良いのです。ここではスピードが重要です。
3. 面接

人材斡旋会社経由で応募した場合、CV通過後に3つの面接が待っています。
面接といっても、日本ほどかしこまった雰囲気ではありません。形式にはこだわらず、コーヒーを飲みながらでも良いのでアピールしたいことを伝え、聞きたいことを確実に聞きましょう。私も1次面接をSkypeで受けましたが、その後ろで娘が走り回っていたぐらいです(笑)。
人材斡旋業者を通した場合は、表に書いた通り、大きく分けて3段階に分かれるでしょう。
以下、それぞれの面接での留意点を書いておきます。
(1) 1次面接 (Skype)
この面接では、人材斡旋業者が相手となります。この業者はあなたの将来の上司と契約を結んでおり、多数の応募があった中から、2次面接に相応しい人物を絞り込むのが仕事です。要は予選です。
この面接での留意点は以下の通り。
- 転職の動機:なぜ海外なのか、どうしてその国なのか
真っ先に聞かれる質問です。面白がって応募しているわけではないことを伝えるためにも、合理的な背景と目的を分かりやすく説明する必要があります。私の場合は、後ろで走り回っていた娘を捕まえて膝の上に載せ、「この子の教育のためで、日本へ戻る予定はなくスウェーデンに永住するつもりだ」と力説しました。また、スウェーデンでは専業主婦は2%しか存在しないため、"夫が転勤するにあたって妻や子どもを黙って追っていく"というのは一般的ではないことを踏まえ、妻がどのようにしてスウェーデン社会で活躍をしていくのかを語りました。
つまり、転職をする本人だけでなく、家族全員が移住後にどのようにしてその国に順応していくのか、具体的なプランを示さないと説得力がありません。雇う側はすぐに辞められてしまうことを恐れています。働く本人は問題なくとも、家族に問題が出て緊急帰国するというのは駐在員であってもよくある話なのです。 - 今までのキャリア・専門性
相手は職務経歴書に基づいて色々と質問をしてきます。何を成し遂げてどんな業務表彰をもらったとか、数値的な指標を用いて誰でも分かるようなエピソードは予め1つ2つ用意しておきましょう。
ポイントは、自分がその会社のビジネスに対して具体的にどんな貢献ができるかを提案することです。私の場合は、募集要項から自分が置かれる立場を想定し、あらかじめ売上比率等を分析し、勝手に成長戦略を考えた上で自分が与えられる価値が何なのかを提案しました。
海外ではこのような積極性と共に個性を示さないと評価をしてもらえません。
(2) 2次面接 (Skype)
1次面接をクリアできれば、相手が将来の上司となるだけで1次面接と聞かれる内容は変わりませんが、それぞれの質問により具体性が増してきます。
ここでの留意すべき点は1次面接での点に加えて以下の通り。
- いつ最終面接に行けるか、いつから働けるか
2次面接が始まるまでに、最終面接を見据えて休暇を取る時期を調整しておくことが大切です。2次面接の際に、最終面接の候補日を先方にいくつか提示できたほうがスムーズに話が進むでしょう。
いつから働けるかもイメージしておきましょう。私の場合は、買ったばかりのマンションを売却しないといけなかったので、不動産屋と相談してどれくらいの期間で売れそうなのか予測を立てました。
家が売れるまで契約書にサインはできないと主張しても構いませんが、それだと最悪の場合、家が売れた後に会社から「やっぱり雇えなくなった」と言われるリスクが出てくるでしょう。海外の企業には(少なくともスウェーデンの企業には)、"内定"という文化は存在しません。契約書にサインをするまではお互い断る権利も持っているというか、そもそも何も始まっていないのです。 - 最終面接時の旅費について
日本人的感覚だと、「旅費を出してもらうと後で断りづらい」と思ってしまいがちですが、ここはきちんと請求するべきです。日本の会社だって面接にかかる交通費を支給しますし、人事部の年間予算に比べれば、一家族分の旅費など微々たるものです。航空券、ホテル、レンタカー代は予め自分で見積もっておき、出してもらえるのかは2次面接の段階で交渉を済ませておきましょう。
(3) 最終面接

いよいよ現地へ飛んでの面接となります。ここまででお互い知りたいことはだいたいカバーできているはずなので、最大のテーマは「給与の交渉」になります。また、「現地に住めるかどうかの見極め」ができる機会でもありますから、家族も連れて行くべきです。長い間その土地で暮らせるかは、家族全員で確かめる必要があるでしょう。
この段階での留意点は下記の通り。
- 最低でも4日間は必要
1日目:移動
2日目:面接(この間、家族は街や学校、その他施設を巡り、暮らしていけるかを検証)
3日目:暮らしていけるかの検証(今度は家族と一緒に)
4日目:移動
初日か最終日を土日に合わせれば3日の休みでOKということです。 - 給与の交渉
これがメインの議題となります。まず、「今、日本でXX円もらっているので...」という主張の仕方は厳禁です。物価から税制まで、何もかも異なるので何の意味もありません。
私の場合は、「妻がしばらくは学業に専念するため、98%が共働きのスウェーデンでシングルインカムとなる。リッチな暮らしをするつもりはないが、エンジニアに見合った給与+我々の事情を加味してXXスウェーデン・クローナの収入が必要」と要求しました。また、事前にスウェーデンの各産業別平均給与や、スウェーデン人の親しい友人にいくらもらっているかを聞いておいて、私の要求が現実的な金額であることも確信を得ていました。
加えて、私のように日本からの移住となる場合、引越し代等を求職者か会社のどちらかが負担することになります。しかし、この部分のコストを誰がどれだけ負担すべきかも、前述の旅費の件のように、この機会にはっきりさせておくべきです。 - その土地で暮らしていけるかの検証
欧州の企業には"総務部・課"というのが存在しないのが一般的です。日本企業の駐在員ではないので、住宅から何からすべて自分で手配することとなります。もちろん会社にサポートをお願いすることもできますが、全面委託は不可能ですし、文化的にそれは受け入れられません。家の探し方を聞き出し、まずは自分で探す努力をしましょう。
片方が会社で面接やオリエンテーションを受けている間、残された家族はボーっと待っていてはもったいないので、将来住むこととなる土地の周辺事情を探っておくべきです。実際に私も3日目より家族と合流し、上司の子どもを就学前学校(スウェーデンでは幼稚園・保育園の区別なし)に一緒に迎えに行かせてもらい、施設内の見学もさせてもらいました。また、その後は上司宅で夕食に招いてもらったのですが、スウェーデン人の生活ぶりを少しでも見て取れたことは移住後の生活をイメージするうえで良い材料となりました。
採用が決まれば、後はVISA(多くの場合、日本人は就労許可のみで良い)の申請等を行い、引っ越すだけです。

まとめ

欧州と日本のビジネス文化でもっとも異なる点はProactive(先を見越して行動する)なところでしょう。何事も積極的に自分の判断で進めていくのが欧州流のProactiveなスタイルです。
1つの会社で長年勤め、昇進の機会をずっと待つのは彼らの文化ではありません。転職に限らずさまざまな場面において、自分で考え自分で判断する癖を身に付けておかないといけません。そしてProactiveな考え方は欧州企業に採用されるためにも必要不可欠な要素と考えてよいでしょう。
