Inc.:「Ericsson」「Skype」「Spotify」などの名前は聞いたことがあるでしょう。ストックホルムではこれら以外にも多くの新しい事業が育まれていて、有名になる日を今か今かと待っています。

ヨーロッパで急速に成長している企業ランキング「2017 Inc. 5000 Europe」によると、スウェーデンの首都であるストックホルムには、急成長中の134社が拠点を構えています。3年間の収益成長率で見ると、トップ10社のうち半数の5社がストックホルムの企業でした。

その一例を紹介すると、グローバルな腕時計メーカーである「Daniel Wellington」は2015年には1億5580万ユーロ(約187億円)を売り上げ、ゲーム開発企業の「Star Stable Entertainment」は、2012年から2015年の間に収益を3000%以上伸ばしています。

いったいスウェーデンには何があるのか、不思議に思いませんか? そこで、ストックホルムの起業のエコシステムを盛り上げている4つの要因について考えてみたいと思います。

1. 教育水準の高さ

事業立ち上げの拠点として有名になる場所はどこも、環境が整っているとアナリストは指摘します。

ペンシルバニア大学ウォートン校でグローバル市場参入を研究するZeke Hernandez准教授は、「ロケーションが起業家にリソースを提供します」と述べています。

とりわけストックホルムは、スウェーデン政府によって人的資本への大規模投資が行われているので、起業家にとっての「開業条件」がそろっているそう。

現在ステファン・ロベーン首相が率いるスウェーデンは、長期にわたり社会主義政府を掲げています。これは、労働者は教育と医療の助成を受けられることを意味します。そのためこの地では、スウェーデン王立工科大学や近郊のヨーテボリにあるチャルマース工科大学などからの技術労働者の供給が多くなっています。

ヘルナンデス准教授はさらに、「Volvo」「Ikea」「H&M」「Ericsson」などの大企業が、優秀な中間管理職を育てていることも指摘しています。

2. インターネットインフラが普及している

スウェーデンは歴史的に、テックの進化への適応が早い国です。90年代前半には、ストックホルム市がパーソナルコンピュータを購入する住民に減税を行いました。スウェーデンは現在、ユーロ圏においても非常に接続が進んでいる国の1つで、欧州委員会のデータによると、2015年時点で9割以上の世帯がインターネットアクセスを有しています。

このように早い段階からテックへのサポートと関心があったことが、ベンチャーの成長を促しました

たとえば、141年の歴史を持つスウェーデンの電話事業者である「Ericsson」は、2016年には2230億SEK(約2兆8000億円)近くの収益を上げています。最近では、ビデオ会議のスタートアップ「Skype」は2005年に26億ドル(約2900億円)で「eBay」に買収され、その後、2011年にはMicrosoftに85億ドル(約9500億)で買収されました。

3. 祖国への恩返しの気持ち

スウェーデン企業が世界に進出するにつれ、その創設者たちは国内スタートアップのエコシステムに資本を投じています。

「お金が循環しています。これは、一部の企業が新事業に資金を提供しているためです」とウォートンのヘルナンデス准教授。

Skypeの共同創設者であるニクラス・ゼンストローム氏は、2006年に投資会社Atomicoを立ち上げました。主に、欧州のスタートアップを対象に投資を行う会社です。これまでの投資先としては、決済処理の「Klarna」や、最新の電話発信者IDサービス「Truecaller」などがあります。先月、AtomicoはEUのスタートアップに資金を投じるため、7億6500万ドル(約850億円)を調達したと発表しました。

4. 政府規制が緩い

スウェーデンの税制は、特に中国や米国と比べると、企業に有利にできています。法人税は22%であり、アイルランドの12.5%に比べると高いものの、米国の最高率である35%に比べると低くなっています。

ストックホルムに拠点を置く「Cabonline Group」のトーマスCEOは、自社の法人税ライセンスの取得は非常にスムーズで、「スウェーデンはこの分野における規制が非常に緩いので、事実上やり方に制限はありません」と述べています。同社は、輸送会社にテックプラットフォームを販売しており、2015年には600万ユーロ(650万ドル)の収益を上げ、「Inc. 5000 Eropeリスト」で第6位に付けています。

成長の余地

それでも、スウェーデンはその他の方法による起業家支援に失敗したと指摘する人もいます。

ストックホルムとニューヨーク市に拠点を置くEコマースサイト「Tictail」の創設者であるCarl Waldekranz氏は、優秀な人材を惹きつけるための自社株購入権プログラムを小企業が設置するのは難しいと言います。「私たちが今後、持続可能な成長を続ける企業を生み出せるかどうか、私は心配しています」と同氏は述べています。

How a Country the Size of North Carolina Became a Global Startup Hub | Inc.

Zoe Henry(訳:堀込泰三)

Photo by Shutterstock.