Inc.:ほとんどの会社は社員を採用するときは、対面式の採用面接を行っています。しかし、その方法で本当に適切な人材を採用できるのでしょうか? そうでもなさそうです。

なにせ面接される人の81%が採用面接中に嘘をつくのですから。

これは、社会心理学者であり『The Best Place to Work』という著書もあるRon Friedman氏が提供している数字です。

Friedman氏に言わせれば、こうなる理由は簡単で、面接される人が嘘をつくしかない状況を会社が作り出しているせいです。

たとえば、私がある会社の採用面接を受けているとしましょう。あるスキルを備えているかどうか面接官に聞かれたとき、そのスキルが自分には無いことを正直に言うと採用されないのは明らかです。この場合、私に残された唯一の選択肢は、遠回しに話しながら将来上司や同僚になる可能性のある人に間違った印象を与えることです。その結果、雇用主は常に耳に心地よい不誠実な回答をされて、それを甘いキャンディ食べるように喜んで真に受けてしまうのです。

面接官の脳にはバイアスがかかる

さらに追い打ちをかけるようですが、考えてもみてください。たとえ応募者が100%正直に回答したとしても、果たして面接官は目の前の人物を正確に評価できるでしょうか?

私たちは他人を見てその人のスキルセットを評価するとき無意識にバイアスをかけています。魅力的な女性、高身長の人、深みのある声で話す人と面接するときは恐らくそうなります。Friedman氏によれば次のことが実証されています。

  • 外見が良い人はそれほどでもない同僚より有能で、知的で、資格要件を満たしていると評価される傾向があります。しかし、客観的にはまるで根拠がありません。
  • 高身長の人は低身長の人よりリーダーシップがあると評価されがちです。女性に関しても同じ結果になりますが、男性ほど身長は影響しません。さらに、あらゆる年齢で身長と給料には明確に関連があることが数十年にわたるデータで明らかになっています。
  • 深みのある声や低音で話す人は意志が強く、倫理的で信頼に値すると見られがちです。

こうした要因によりどうしても評価が偏ってしまい、面接の仕方にも影響が出てしまうことが研究で実証されています。

Friedman氏によれば、面接官が候補者を外交的なタイプだと思いこむと「グループのリーダーをした経験について話してください」といった質問をします。

しかし、候補者が内向的なタイプだと思い込むと「グループのリーダーをするのは苦になりませんか?」というように少し違う質問をするかもしれません。

どちらの質問も同じ話題を扱っていますが、候補者に対する面接官の思い込みによって質問の枠組みが違ってくるので、候補者は面接官が抱いた第一印象やバイアスを確定するような回答をしてしまうことになります。Friedman氏はそれは望ましくないことだと語っています。

解決策:ジョブ・オーディション/トライアウト

Friedman氏は、生の対面式面接をするという人事プロセスをやめて、その仕事に就いたときに行う作業と同じことをする「ジョブ・オーディション」を実施すべきだと主張しています。

これは道理にかなっています。音楽家や歌手はオーディションを受けなければなりませんし、俳優もそうです。採用側は腰を下ろして用意された質問を矢継ぎ早に投げかけるのではなく、応募者が演技したり歌ったりパフォーマンスをしているところが見たいのです。それと同じ理由で、有望な候補者にはオファーレターにサインする前にオーディションを受けてもらうのが理にかなっているのではないでしょうか?

たとえば、営業を採用したい場合、候補者に面接官やそのチームのメンバーにその会社の製品の売り込みをしてもらうのです。

ウェブデザイナーを採用する場合は、候補者にウェブサイトをデザインしてもらいます。

どちらの場合も、面接官の第一印象は、候補者が採用側の用意した質問にいかにうまく答えるかより、仕事をしているところを見て決まります。行動面接に関しても同じことが言えます。

面接でなくオーディションにすると、人材採用に対してはるかに優れたアプローチができて、募集職種にも企業文化にもフィットする人材をそろえた職場にすることができることをFriedman氏の研究データは裏付けています。

ケーススタディ1:Menlo Innovations社

ミシガン州に本拠地を置くこのソフトウエア開発会社は、応募者に一切質問しない「エクストリーム面接」と呼ばれる採用面接を実施しています。応募者がオーディション会場に到着すると、同社CEOのRichard Sheridan氏が「これからすることは、みなさんの履歴書に書いてあることの確認ではなくて、みなさんが我が社の企業文化にフィットするかどうかを確認するための最善策です。」と口火を切ります。

実際の職場と同じような環境にするために、一度に50人の候補者を招いきれ20分間2人1組のペアを作ります。Menlo社では2人1組で仕事をするようになっており、2人で1つのコンピューターをシェアして、アイデアを出し合うときは1個のマウスを2人の間でやり取りするからです。

この方法により、応募者はMenlo社で行われる典型的な仕事の種類をいくつか実演することになります。2人1組のペアが一緒に仕事をしている間、採用側のスタッフはそのやり取りを観察します。20分経つと、全員パートナーを変えて新しい仕事をスタートします。観察する側も別の人間に交代します。さらに20分経過すると、3回目のパートナーチェンジになります。

このオーディションプロセスを通して、候補者は、自分がペアを組んでいる相手の良いところを最大限に引き出し、相手をできる限り優秀に見せることができるかどうかが評価されます。

Menlo社の企業文化はオープンスペースで仲間と協働することで成長しています。そのため、Sheridan氏は、「幼稚園レベルのスキル」を最大限に実演して他人とうまく遊べる候補者を求めていると言います。

これほど狭い場所に置かれた非常に協働性の高いスペースで働く場合、企業文化に適合することが第一の必須条件です。このオーディションは、社員が全員一致で入社させたいと思う候補者でなければ入社できない仕組みになっています。

エクストリーム面接が終わると、次は終日の有給オーディションになり、候補者は2名の社員と一緒に実際の顧客案件に対応します。そのオーディションに来てもらう候補者はMenlo社社員がみんなで決めます。

この終日オーディションで勝ち残った候補者は、最後に3週間の有給試用期間に挑戦することになります。

ケーススタディ2:Automattic社

WordPressの社員は、「Webをより快適な場所にすべきだ」と思っています。同時に、採用面接も「トライアウト」を用いて改革すべきだと思っています。

多数の退職者が出た後で、同社CEOのMatt Mullenweg氏は何かが壊れていることに気づきました。彼はHarvard Business Review誌に次のように書いています。

私たちは、候補者の話し方やレストランでの振る舞い方のような実際の仕事のパフォーマンスには何ら関係の無い側面を面接時に見て明らかに影響を受けています。なかには面接にとてつもなく強い人がいて、話す相手をすべて魅了してしまいます。しかし、仕事がそういう魅力と無関係な場合、入社後どれだけ良い仕事をしてもらえるかその面接技術からはまるで予測できません。仕事と同じで、面接も生産性を伴わない「パフォーマンス」になり得るのです。

さて、最終面接まで勝ち残った候補者は全員3週間から8週間、契約ベースで会社で働くことになります。採用されたら一緒に働くはずの人たちと一緒に実際の作業をするのです。

目標は、こうした候補者が製品を完成させることでもなければ、一定量の仕事をこなすことでもなく、その候補者を採用したら本人にとっても会社にとっても相互に利益があるかを素早く的確に評価することです。

話をわかりやすくするために、Automattic社は候補者の希望職種がエンジニアであろうと財務責任者であろうと時給25ドルを標準額として支払います。

候補者も採用側も相手の品定めをすることができるので、これはうまいやり方です。顧客サポートのポジションに応募している候補者は顧客に直接話をすることになり、エンジニア希望者は実際のコードを書くことになり、デザイナーはデザインします。これにより、候補者は仕事の実態がより明確にわかり、多数がこのプロセスの初期に自ら辞退するので、採用側も応募者もずいぶん時間を節約できます。

トライアウトは、「候補者がどれだけ自発的にモチベーションを持てるか、文書によるコミュニケーションがどれだけうまくできるか(最近はリモートで働く人が多いので、インスタントメッセージングへの依存度が高いからです)、ミスを犯したときどのように対処するか」を会社が確認するのには効果的です。

最後のステップはMullenweg氏との面接ですが、それは意表をつくやり方で行われます。彼は次のように説明しています。

私はテキストチャットかインスタントメッセージングを通して面接を行います。自分が面接する人の性別も人種もわかりません。画面上の言葉しか見えません。これは先入観をさしはさまない点で通常のプロセスの2倍の効果があります。私が求めているのは、主に情熱と企業文化への適合性です。最終面接に残った人の95%は採用のオファーを受けます。これは、我が社のアプローチが効果的であることの証でしょう。

まとめ

従来の面接が姿を消すのは実際にはまだ先のことでしょう。しかしトライアウトやオーディションにより面接プロセスを短縮することは、欲しい人材を間違いなく採用するには必要なことです。最初の履歴書審査の段階から時間を短縮できますし、社員が「名演技者」と面接するために離席するせいで会社の生産性が低下することも回避できます。

The Job Interview Will Soon Be Dead. Here's What the Top Companies Are Replacing It With | Inc.

Marcel Schwantes(訳:春野ユリ)

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