BIZREACHが運営するウェブメディア「BIZREACH FRONTIER」では、FinTech、VR/AR、人工知能など、最先端の分野にチャレンジし、いま、ではなく未来、「次の時代の当たり前」になるサービスや技術を作らんとする日本の企業を紹介しています。
ライフハッカー[日本版]では、毎週その中から1本の記事をセレクト。前人未踏の領域へとチャレンジする日本企業をご紹介していきます。
今そこにある社会問題を解決する、ソーシャルビジネスの可能性
バングラデシュの実業家ムハマド・ユヌスは、1983年にグラミン銀行を創設。マイクロクレジットと呼ばれる、貧困層を対象とした低金利の無担保融資によって地域の貧困問題を改善し、2006年にノーベル平和賞を受賞した。以来、社会的な利益追求や問題解決を目的とする「ソーシャルビジネス」が、世界的な広がりを見せている。
こうしたなか、新しくソーシャルビジネスを起こそうとする人に、創業時に最大3000万円の投資をする社会起業家創出プログラム「SEED(Social Entrepreneur's Endless Dreams)」を立ちあげ、大きな注目を集めているのが株式会社ボーダレス・ジャパンだ。
この制度は、同社がプラットフォームとなり、ソーシャルビジネスを立ち上げようという社会起業家に投資を実施。創業資金やその後の投資はもとより、成功に不可欠なマーケティングやマネジメントについても同社が全面的にバックアップし、最短で新しいソーシャルビジネスを立ち上げていこうというものだ。
ビジネス経験のある実力者と認められれば、すぐに創業資金が提供され、会社を設立、事業を開始できる。社会問題解決の強い意志はあるもののビジネス経験が乏しい者は既存事業で経験を積んだ後、自ら事業を立ち上げるという選択肢もとることができるプログラムになっている。同社の創業メンバーである鈴木雅剛代表取締役副社長は、「SEED」について次のように語る。
「現在、バングラデシュの貧困層に雇用を生み出す革工場や、ミャンマーでのオーガニック農業など、国内外で10のソーシャルビジネス事業を展開しています。しかし、会社設立からここに至るまでに、およそ10年という時間がかかりました。一方で社会問題の解決は、当事者にとっては一刻の猶予もない課題です。そこで、私たちがこれまで蓄積してきたビジネスのノウハウと、必要な事業資金を提供することで、新しいソーシャルビジネスをよりスピーディーに創出し、最短で問題解決を図ることがSEEDの目的です」
また鈴木氏は、これまでの取り組みの経験から、どんなに能力のあるビジネスパーソンでも、一生のうちに創出できる事業の数は、20か30にすぎないと指摘。その一方で、世界の社会問題は数えきれないほどある。
それらを可能なかぎり解決するためには、社会起業家の数を1人でも多く増やし、異なる種類のビジネスをより多く立ち上げ、拡大することが必要だ。そして、それを実現する手段の1つが「SEED」であると強調する。
最大の目的は大きな「ソーシャルインパクト」を生み出すこと
ソーシャルビジネスは、新しいビジネス概念であり、その定義や考え方は、いまだ確立されていない。それでは、ボーダレス・ジャパンの考えるソーシャルビジネスとは、どのようなものなのか。鈴木氏は、「私たちの事業は、社会問題に直面している当事者たちの状況を具体的に定義することから始まります」と話す。
「私たちは、それを『ソーシャルコンセプト』というのですが、例えば一般的なビジネスであれば、誰に、何を、どのようにして利益を上げるかというビジネスコンセプトを定めます。ソーシャルコンセプトでも同じように、誰が、どんな状況で、どのような困難や問題に直面し、それをどのように解決できるのかを明確にするのです」
そのうえで、個々のソーシャルビジネスの最大の目的は、「ソーシャルインパクト」を生み出すことだという。これは貧困問題で置き換えると分かりやすい。例えば、ある人が貧困状態にあり、月1000円の収入しかないとする。この人がもし何らかの方法で1万円の収入を得られれば、当事者の貧困問題は一時的に解決する。
しかし、根本的な解決にはならないだろう。月1万円という収入を持続させるのと同時に、その後の収入の向上も求められるからだ。持続的な貧困問題の解決を1人から10人、10人から100人、100人から1000人へと次々にスケールアップし、規模の拡大によって問題解決を最大化することが、ボーダレス・ジャパンが定義し、目的とするソーシャルインパクトなのだという。
「ソーシャルインパクトを生み出し拡大するために重要なのが利益率です。その事業によって、どれだけの利益が上げられるか。俗な言い方をすれば、どれだけもうかるか。これはとても重要なポイントです。なぜなら、その事業の規模が拡大するほど、社会問題から抜け出せる人の数も増えていきます。だから、高い利益率の事業をできるだけ早く拡大していく。それによって、大きなソーシャルインパクトを生み出しながら継続させて、社会問題を解決していくのです」
社会にソーシャルビジネスを根付かせるため、1000事業・売り上げ1兆円規模を目指す
ソーシャルビジネスは社会貢献度が高いだけでなく、同様に事業を軌道に乗せるまでの難度も非常に高い。その要因の1つが「社会起業家=NPO」という先入観にあるのかもしれない。ソーシャルビジネスというと、いまだに「ボランティア」といったイメージが根強くあるという。
また、ボーダレス・ジャパンが取り組んできたこれまでの事業では、規模の大きさや話題性といった点で、バングラデシュでのビジネスが注目されることが多かった。このため、同社のソーシャルビジネスの対象は、海外専門と思われることが少なくない。しかし、鈴木氏は自社の展開するソーシャルビジネスについて、「国や地域を問うてはいない」と強調する。
「例えば、直近の課題として、日本国内における"母子家庭の相対的貧困"があります。これを解決するために、現在、シングルマザーのためのハウジング事業を計画しており、これを日本全国で一気に展開していきたいと考えています。また、これらは構想段階なのですが、養護施設の若者を対象にした人材系の事業や、障害者が健常者と同様に個人の能力を発揮できる工場の建設など、日本国内における社会問題解決のための新事業の構想も数多くあります」
現在、ボーダレス・ジャパンは、韓国、バングラデシュ、台湾、ミャンマーにオフィスを構えてソーシャルビジネスを展開している。これに加えて、シリア難民の抱える社会問題を解決しようと、シリア難民が多く定住しているトルコでのオフィス開設を進めているという。ここでも、トルコの社会起業家やシリア人の若い起業家を募集し、難民問題の当事者たち自身による、社会問題の解決を目指していくという。
現在展開しているソーシャルビジネスの数は10。従業員は国内外合わせて約700人、2016年度のグループ全体の売り上げ予想は30億6000万円となっている。新たな雇用を創出し、ビジネスとして成立させている点でも十分に称賛に値するが、鈴木氏は、グループの中長期ビジョンとして「1000事業・売り上げ1兆円規模」を掲げているという。
「ここ数年、社会貢献とビジネスを両立したいと考える人が増えていることを強く感じます。しかし、現実には、社会貢献とビジネスが明確につながり、その成果を実感できる仕事や企業は決して多くありません。だからこそ、苦しんでいる人たちの問題を解決し、ビジネスとしてきちんと利益を上げ、自分たちもよりよい生活を送れることが大切になってくるでしょう。加えて製品やサービスを提供した顧客にも喜んでいただける、こうした『三方よし』の成果を生み出せるのがソーシャルビジネスなのだということを、私たちがしっかりと実現して伝える。そうすることで社会問題解決に携わる人の数をも増やし、問題解決のスピードを上げたい。そのための1000事業・1兆円という目標なのです」
ボーダレス・ジャパンで活躍している従業員を見ると、非常にアグレッシブに事業を興し、チャレンジを続けていることに驚く。新卒で入社し、半年もたたないうちに単身海外に渡って事業を立ち上げた女性従業員や、同じく新卒で入社して以来、毎年のように事業を立ち上げている男性従業員も在籍する。
日本におけるソーシャルビジネスの概念を覆すほどのバイタリティーをもって、ボーダレス・ジャパンのメンバーたちは、あらゆる社会課題に向き合い、解決の糸口を探り続けている。
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(ロバーツ町田)