敏腕クリエイターやビジネスパーソンに学ぶ仕事術「HOW I WORK」シリーズ。今回はオンラインストレージサービスを世界的規模で展開するDropbox社の敏腕人事部長、アーデン・ホフマン(Arden Hoffman)さんの仕事術です。
テクノロジー第一主義のシリコンバレーですが、誰もが最高の仕事ができるインフラを作るのは決して簡単な作業ではありません。Dropbox社でその枠組みを作り続けてきたアーデン・ホフマンさんは、社内作業の仕組みの構築や新しい人材の採用を通して同社人事部を主導しています。
Google、ゴールドマン・サックス、その他の有名企業での勤務を経て、2014年からDropbox社の人事部長を務めるアーデンさんは、仕事に関してはすべてシンプルにしておきたいタチです。Dropbox社にはまさにぴったりの人材です。今取り組んでいる作業や周囲の人たちに意識を集中していれば、本当はそれほど多くのアプリやガジェットは必要ないはず、と主張するアーデンさんの仕事術をご紹介しましょう。
居住地:カリフォルニア州サンフランシスコ 現在の職業:Dropbox社人事部グローバルヘッド 仕事の仕方を一言で言うと:整然と 現在の携帯端末:iPhone 7 Plus 現在のPC:MacBook Air── まず、略歴と現在の仕事に至るまでの経緯を教えていただけますか?
私のキャリアはPCWorld Magazineでテック・ジャーナリストとして働くことからスタートしました。90年代初めにカリフォルニア大学バークレー校でリベラルアーツを専攻して、テクノロジーに興味があったのです。ジャーナリズムの世界に入りたかったのでテック・マガジンに入り、最初は編集アシスタントとファクトチェッカーをしていました。
そのうちに人事系のことに興味が拡大していき、キャリアビルディングやチームに影響を与える方法を追求するようになりました。ペンシルバニア大学ウォートン校に行ったのは、MBAを取得して、リーダーシップの育成を勉強したりマネジメントのやり方を変えたかったからです。その後、大手銀行やクレジットカード会社で大変革の渦中にある人たちに的を絞ったコンサルティングをしました。コンサルティングの後は、ゴールドマンサックスに入社。タレント開発部のヴァイス・プレジデントとゴールドマンサックス大学のヴァイス・プレジデントを務め、13のグローバルビジネスにグローバル・トレーニング・ソリューションを提供しました。
話を少し早送りすると、Google社の人事業務部グローバルヘッドを経て、2014年にDropbox社に入社。人事・採用部門のグローバルヘッドとしてチームビルディングや企業文化の構築に尽力しています。
── 「これがないと生きられない」というアプリ・ソフト・ツールは?
私の場合、これ無しでは生きていけないというアプリは、Spotify、Amazon Fire/Prime、NYタイムズ...といったところです。とにかくシンプルであることが条件です。気が散る原因となるものを取り除き、社員や有意義な会話に集中すべきだと思うからです。そのためには、注意力散漫の原因になるものはできるだけ減らして、実際につながりを持つようにすることが大切です。
── 仕事場はどんな感じですか?

やっぱりと思われるかもしれませんが、私の仕事場には最小限のものしかありません。モニターをたくさん周りに置く必要は無く、ラップトップが1つあれば生産的でいられます。私の理想の仕事場は、みんなで協働できるラウンジ的なスペースです。Dropbox社のオフィスには多様な作業スペースや個室があり、個人的な話や対面式の会話ができるようになっています。私も集中する必要があるときは、仕事の場所を変えたくなり、たいていはカフェでヘッドフォンをつけて仕事をします。
── お気に入りの時間節約術やライフハックは何ですか?
私のベストな時間節約術はToDoリストが長くならないようにすることです。そのために、ものすごく早起きしてメールのチェックで1日をスタートさせ、作業もプロジェクトも素早く行い、なるべく早く自分の皿にのっているものをなくすようにしています。すぐに対処できるものを放置しておくことはしませんし、メールにもリアルタイムで返信して常に物事を進捗させています。先延ばしはしません。
── あなたは人事組織を向上させるためにデータの分析を推奨していると聞きました。その効果について教えてください。企業文化を向上させるにはどのようなデータを利用するのでしょうか
私のアプローチは、人事組織の向上にフォーカスするのではなくて、会社全体として向上することが目標です。できる限り包括的に実態をとらえるには、質的データと量的データの両方使う必要があります。ます、1対1の面談、離職データ、社員に対する意識調査、採用データ、その他の多様なチャンネルを通して手に入れたデータを分析することで組織の現状をつかみます。
Dropbox社のリーダーたちはこのデータに深い関心を抱いています。このデータは社員の実態を教えてくれるだけでなく、チームの生産性を高め、高い士気を保ち、開かれた対話を奨励し、最高の人材を採用するためにこれから向上させるべき点を浮き彫りにするからです。さらに、このデータのおかげで、ビジネスリーダーは細部までよく見えるようになるので、強くて幸福な企業文化を長期的に維持するため考えるべきことがわかります。

── 愛用しているToDoリストマネージャーは何ですか?
以前はシンプルに紙とペンを使っていましたが、Dropbox Paperが私のToDoリストの管理の仕方を変えました。タスクに済の✔をつけると報われた気分になりますし、Paperはすべてを確実にトラッキングし続けるにはベストな方法です。私は自分のチームのメンバー毎にToDoリストを持っていて、各人と定期的に仕事をしています。Paperは本物のメモ帳と似ています。すでにお気づきかもしれませんが、私は何でも整然とシンプルにしておくのが好きなんです。
── 携帯電話やPC以外で、「これがないと生きていけない」というガジェットはありますか?
多分ほとんどの物がなくても生きていけると思いますが、音楽はあった方がいいと思います。音楽があるおかげで1日をやり遂げられますし、職場でも家庭でも移動中でも自分の曲のコレクションを常に流していられる状態が好きなんです。Spotifyは最高の音楽アプリです。それからニューヨークタイムズのアプリなしの生活もあり得ません。このアプリは、私の場合、ニュースを仕入れたり最新情報を常にキャッチアップしていくための駆け込み寺です。
── 仕事中は何を聞いていますか?
仕事中は常に音楽を聞いています。その方が思考がスムーズに流れるからです。ジャズ(特にジョン・コルトレーン)とクラシックが仕事中の定番です。でも、新しいアルバムがリリースされると、それを少し聞きます。今は、ニーコ・ケースのアルバム、『The Worse Things Get, the Harder I Fight, the Harder I Fight, the More I Love You』です。
── 今、何を読んでいますか?
今読んでいるのはLouise Erdrich著『The Round House』です。部族のコミュニティとその強さや文化的伝統、回復力を扱った美しい小説です。それから、音楽好きが高じて、『ブルース・スプリングスティーン(米シンガーソングライター)の伝記』も読んでいます。その日の終わりにどんな気分になるかわからないので、たいてい同時に2冊用意しておくことにしています。
── 日常のことで「これはほかの人よりうまい」ということは何ですか?
一切の雑音を排除して、仕事であれ、自分が今話している相手であれ、家族や友人と過ごすことであれ、1つのことに意識を集中させることに本当に長けています。マルチタスキングはしないので、情報が過剰に入ってきて混乱することもありません。このアプローチは、自分が今一緒にいる人や目の前の作業に意識を集中させるのに役立ちます。あと、タコスとワカモレ作りを極めようとしています。
── どのように充電していますか?仕事のことを忘れたいときはどうしますか?
いつもは、水泳、ヨガ、フィクションを読むこと、ハイキングで充電しています。ほとんどが自分独りですることで、完全に集中しなければできないことです。泳いでいる最中にテキストを送信したりすることはできませんから。たまにはフットボールの試合を見ますが、私が応援しているチームはどれも今年は成績が振るわないので、リラックスするというよりイライラすることもあります。
── 睡眠習慣はどのような感じですか?夜型ですか、朝型ですか?
朝は5時半に早起きします。普通は8時間睡眠で、寝つきは良い方です。
── 今日あなたがされたのと同じ質問をしてみたい相手はいますか?
たくさんいすぎて困るぐらいです。もしまだ生きていたとしたらノーラ・エフロン(Nora Ephron。米脚本家・映画監督)。レイチェル・ブルーム(Rachel Bloom。米コメディ女優・脚本家)。サマンサ・ビー(Samantha Bee。カナダのコメディアン)。エイミー・シュマーのコメディ・ショーの主任脚本家のジェシー・クレイン(Jessi Klein)。どれも私の好きな女性コメディアン、女優、脚本家です。
── これまでにもらったアドバイスの中でベストなものを教えてください
私が常に取り入れているアドバイスが2つあります。
1. 他人に感謝してその気持ちを相手に伝えること
2. その人の弱点でなく強みに基づいたコーチングをすること
── そのほかに読者やファンに伝えたいことがあればどうぞ
たくさん質問してください。好奇心を持ちましょう。わからないことがあっても心配しないでください。わからないことに気づいたら質問すればいいのです。それから、相手を断ち切る必要があるときは、「NO」と言っても構わないんですよ。
Andy Orin(原文/訳:春野ユリ)