先日、政府は2017年度から公共料金や備品経費の支払いを全面的に電子決済にすることで、30億円の人件費削減が期待できるという発表をしました。

電子マネーやクレジットカード、ネットバンキングの普及により、私たちは現金だけではなく、時間と手間のかからない電子決済を活用する機会が増えていますが、それは企業や法人にとっても大きなメリットがあるようです。

そこで今回、現金決済から電子決済へとキャッシュレス化が進む中で、ビジネスにおいて、企業や法人にとってどういったプラスがあるのか、金融・決済の専門家である宿輪純一(しゅくわ・じゅんいち)氏に聞いてみました。

2020年に向けて進む社会のキャッシュレス化

syukuwa-14.jpg宿輪純一:1963年生まれ。帝京大学経済学部教授・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・博士(経済学)。麻布高校・慶應義塾大学経済学部卒。87年富士銀行。98年三和銀行に転職。06年合併で三菱東京UFJ銀行(企画部経済調査室等)。15年現職。財務省・金融庁・経産省・外務省、全銀協等の委員会に参加。主な著書に『決済インフラ入門』(東洋経済)、『通貨経済学入門(第2版)』(日経新聞)『金融が支える日本経済』(共著:東洋経済)などがある。

── 2020年に向けて、政府はキャッシュレス化の環境整備を進めていますが、その理由は?

宿輪氏:東京オリンピックに向けた環境整備を進める理由として挙げられるのは、まず海外から大量に訪れるであろう外国人への対応です。クレジットカード等の電子決済が主流になれば、外貨を両替したり、ATMから日本円を引き出す手間が省けます。多額の現金を持ち歩く必要もなくなるので、支払いに関する不安や問題を解決することができるでしょう。

諸外国と比べて日本ではいまだ現金による支払いが主流となっているので、東京オリンピックを契機に電子決済の普及を推し進めようという狙いもあると思います。

── 個人消費において、電子決済の比率が海外と比べて低い理由はなんですか?

宿輪氏:電子マネーやクレジットカードが普及していても、銀行など金融機関のATMには行列ができています。海外の先進国と比べて、日本人は現金を好むのです。

しかし、社会人はもちろん、大学生でも電子マネーやクレジットカードを所有しスマホで決済ができる時代なので、電子決済に抵抗感がある人が少なくなってきているのも事実です。決済端末などのインフラがリテールをはじめとした企業へさらに整備されていけば、個人消費の分野では電子決済の普及はさらに進んでいくでしょう。

── 電子決済を浸透させるために必要なことなんでしょうか?

宿輪氏:利用者側にとっての「コスト」と「利便性」と「安全性」の確保と、先ほどの話の通り、電子決済を可能にする決済端末=インフラの普及が必須だと思います。

── では、日本の"企業"におけるキャッシュレス化の現状はどうでしょうか?

宿輪氏:経費精算などが顕著ですが、個人消費以上に現金の支払いが多いのが現状です。個人消費に比べて、企業におけるお金の出入りや管理は圧倒的に複雑なので、コスト管理の面でも電子決済化を促進すべきですし、政府が2017年度から経費などの支払いを全面的に電子決済化する意義は大きいわけです。

海外と比較した日本の中堅企業の経費決済方法

【日本の中堅企業】

現金53%、クレジットカード10%、電子決済(クレジットカード除く)7%、小切手16%、そのほか14%

【アメリカ】

現金13%、クレジットカード29%、電子決済(クレジットカード除く)18%、小切手16%、そのほか6%

【ドイツ】

現金15%、クレジットカード24%、電子決済(クレジットカード除く)27%、小切手13%、そのほか20%

*アメリカン・エキスプレス世界7カ国中堅企業調査(2014年)より

コスト削減など、企業の新しいあり方をつくり出す電子決済

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―― 電子決済が普及し、消費者がまったく現金を使わなくなった場合、企業にとってもメリットが大きそうですね。

宿輪氏:そうですね。まず、小売店の立場で見るならば、商品を売って代金を現金で支払われた場合、それを銀行に入金しなければいけません。しかし、クレジットカードや電子マネーでそれがすでに電子化されていたら、現金の管理をしなくていいわけですよね。現金の対応というのはいろいろと手間がかかるので、電子決済の普及がどんどん進んでいった方が、企業にとっても人件費などコスト削減になると思います。

やはり、金融というのはそもそもお客様の代行業なんです。現金の管理をクレジットカード会社等が代わりにやってくれるわけですから、それはすごく楽ですよね。

── なるほど。では、企業が現金決済から電子決済へシフトするメリットは?

宿輪氏:これからの日本企業は、収益性の追求も大事ですが、コストをいかに削減するかに注力すべきだと考えています。その意味で、間接部門である決済業務はどんどん縮小させることが大事です。

先ほど話に出た、交通費や出張費、交際費などの経費精算を例にしてみましょう。

まず、社員が現金で支払った領収書、後払いの請求書、経費をまとめた精算書を作成して提出。それを担当者が支出内容に問題がないか、精算する金額に間違いがないかをチェック。そして、社内の承認を経て、立替精算の場合は、社員へ現金などで支払いを行います。この一連の作業は、経費精算を申請した人数分行わなくてはいけないわけで、対応するために相当な人件費と労力が必要となります。

しかし、こうした経費支出を電子決済で行ったらどうなるでしょうか。たとえば、法人用のクレジットカードですべての支払いを行ったとします。すると、担当者は領収書とクレジットカードの利用明細を照合するだけで経費処理の多くの作業は終了。現金での支出がないので、煩雑な作業が減り、効率化が図れるだけでなく、大幅に人件費と労働時間の削減が期待できます。

経費精算は企業の規模に関係なく発生することなので、大企業はもちろん、人材活用の効率化が求められる中堅企業でも積極的に導入していくべきだと思います。

── 経費精算以外で電子決済を行っている企業の事例はありますか?

宿輪氏:積極的に電子決済を導入している企業は、経費精算や備品購入などを行う経理・総務部門にはじまり、次に本業の部門へと進めています。たとえば、商品や部材の仕入れなど企業間取引です。国内はもちろんですが、製品コストを下げるために海外から仕入れる場合、支払い方法を法人用のクレジットカードを利用しているケースもあります。

そうすることで支払う側は海外送金と比べて手数料を格段に減らすことができ、事務手続きも簡便になります。また、一方の入金される側もクレジットカード会社が間に入って代金回収を保障してくれるので取引が安心なのです。業種によりさまざまですが、企業が電子決済の活用を本業の部分まで広げることができれば、財務面での効率化も図れると思います。

── では最後に、電子決済のこれからについて一言お願いします。

宿輪氏:個人も企業も現金での支払いや決済は、どんどん減っていくでしょう。家計でも経理・財務でも同じですが、現金はいくら計算しても合わないことが多く、トラブルの大きな原因になります。

電子決済にすれば、手間が減る、コストが減る、無駄な手数料が減るわけですから、導入に関しては"Why not?"なんですよ。


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(文/香川博人、写真/大崎えりや)