2016年11月1〜2日に開催されたMicrosoft Tech Summitは、エンジニアや開発者向けに最新テクノロジーや業界の動向などを伝え、語り合う大テックイベントです。同イベントでは、近い将来、私たちの仕事現場を変えるであろう、さまざまなテクノロジーの実用例が紹介されていました。今回は、その内容をお伝えします。

実用志向のバーチャルリアリティ・ヘッドセット「HoloLens」

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日本Microsoft代表取締役・平野拓也氏によって日本でのプレオーダーが発表されたミックスドリアリティ・ヘッドセット「HoloLens」。

基調講演では、日本Microsoft代表取締役・平野拓也氏より「ミックスドリアリティ・ヘッドセット『HoloLens』のプレオーダーを日本国内で年内に開始する」との発表があり、大きく場を沸かせました。

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HoloLensを身につけ、オフィスを歩きながらSkype通話をしている様子。左奥にはグラフも表示されている。

「ミックスドリアリティ」とは一種の拡張現実(AR)であり、HoloLensはSkypeなどのビデオ通話アプリケーションや補足情報などを風景の上にホログラムで表示するという製品です。VRヘッドセットと見た目は似ていますがゲーム機ではなく「かけるPCディスプレイ」とも言うべきものであり、それによって可能になる新しいコミュニケーションやリアルタイムに得られる情報はオフィスでも自宅でも活躍するはずです。

以下の写真はSkype通話で作業のコツを教えてもらっているところですが、現実の視界にホログラムの矢印が表示されており、話だけでは伝えられない情報を伝えることができます。HoloLensの実用志向が感じられます。

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排水管の修理方法をSkype通話をしながら教わっているところ。言葉だけでなくグラフィックでやり方を示してもらえるなら、相手の伝えたいこともよく伝わるはず。

普及するAI技術が業務を効率化する

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Microsoft Tech Summitの基調講演に登壇した日本Microsoft CTOの榊原彰氏。

また基調講演では、日本Microsoft CTOの榊原彰氏から「AIの民主化」という言葉が飛び出しました。この言葉が意味するのは「みんなが安価にAIが使えるようになる」ということです。講演の中で紹介されたトピックスの中で、それを象徴していると感じたのがWindowsのAIアシスタント「Cortana」です。

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Cortanaが手書き文字を認識し、株価情報やリマインダー起動ボタンを自動的に表示している様子。

WindowsのAIアシスタント「Cortana」は高い文字認識能力を備えるようになりました。これによってSurfaceシリーズで利用可能なスタイラスペン(Surfaceペン)はさらに実用的になりました。たとえば、Windowsのふせんアプリでは、以下のようなことが可能になっています。

  • 日付を認識:日付を書き込むと、リマインダーの起動ボタンが自動的に表示される。
  • 手書きのURLや電話番号を認識:Cortanaが手書き文字をリンクを貼ってくれる。
  • 株価などの自動検索・表示:チェックしておきたい株の銘柄を記しておくと、現在の株価を自動的に表示してくれる。

手書きはレイアウトが自由ですし、書くことで記憶に残りやすいとも言われており、タイピングとは違った良さがあります。しかし、書いたものをPCで管理しようとするともう一度タイプしなければならないという問題がありました。ところが、AIアシスタントが手書き文字を認識してくれるようになったことで、手書きとデジタル化の恩恵を両方受け取ることができるようになったわけです。個人的にはあまり多くないと感じる「デジタル手書き派」ですが、多くの人が利用するWindowsに搭載されたCortanaがサポートするようになったことで、今後は1つの仕事スタイルになっていくかもしれません。

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MicrosoftのAPIを利用してチャットBOTを開発しているところ。

このようにMicrosoftは人工知能の認識に関するテクノロジーを蓄積していますが、そうした技術はAPIやVisual Studioのテンプレートとして利用可能になっているのだそうです。開発者はそれらを利用することで、低コストに人工知能に用いられるテクノロジーを応用したBOTなどを作成できるのです。このような形で人工知能の技術を普及させていくことを榊原氏は「AIの民主化」と表現したと考えられます。

「民主化されたAI」は私たちの仕事を効率化するでしょう。それがわかりやすいのが、基調講演で紹介されていた銀行の窓口案内BOTです。

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適切な銀行窓口を案内するBOT。

「こんにちは」と話しかければ挨拶を返し、銀行を訪れた人が行くべき窓口を教えてくれます。このBOTは音声認識のAPIを利用して作成されているため、応用することで類似の業務を遂行できるBOTを簡単に作ることができるというわけです。

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「踊って」というお客さんの要望にまで応えてくれるチャットBOT。

プログラム次第では業務にまったく関係ない「踊ってほしい」というオーダーに応えられるようにすることも可能であり、少ない開発コストでより人間らしいBOTを作ることができます。そして、窓口案内のようにAIができる業務はAIに任せ、人間は人間にしかできない、高度な業務に集中することができるようになるでしょう。

Skypeがオフィスの電話に取って代わるときは近い

会社のデスクの上には必ずある「電話機」ですが、みなさんはどれくらい利用されていますか? 筆者は連絡といえばメール中心、率直に言ってあまり使っていません。総務省の統計によると、この10年間で電話での通話時間は半分になったそう。外部との打ち合わせをボイスチャットで行うことも一般化しており、感覚的にも納得がいきます。

ここでふと思うのが、「大して使わないのに、回線料などの設備費を支払ってまで会社に電話を設置する意味があるのか?」ということ。

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オフィスに設置されている電話をぶった切った、日本Microsoftのプリセールスエンジニア・冨澤聡氏。

オフィスの電話は大いなるムダ!

そう言い切るのはMicrosoft Tech Summitのセッションの1つに登壇した日本Microsoftのエンジニア・冨澤聡氏。冨澤氏は「Cloud PBX」というクラウドで内線電話の交換機能などを提供する法人向けサービスの開発に携わっています。

冨澤氏は、社内電話という"文化"は廃れ始めており、電話設置にかかる費用がムダになっていると指摘。それに代わって、クラウドで社内外の電話を取り次ぎ、ボイスチャット(Skype)で通話するほうが実情に合っており、コストカットにもつながると語りました。

冨澤氏が述べた「電話設備をクラウドに置き換えるメリット」はおおまかに以下の2つです。

  • どこでも利用可能:インターネット経由で通話をするため、電話機のあるオフィスの外からでも利用できる。
  • 老朽化対策不要:クラウドで電話交換を行うならば、社内に電話設備を維持する必要がなくなる。

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Cloud PBXが提供する機能。業務を行う上では必要十分だと思われる。

オフィスの電話をあまり使わない筆者としては、設備コストを抑えられる上に、普段からよく使っているSkypeに通話を一本化できるのは非常に便利そうだと感じました。

冨澤氏氏が語るようなクラウドによって統合された電話システムを利用する会社はまだ1%もないそうですが、すでにボイスチャットが生活の中に溶け込んだ今、近い将来には一気に導入が進むのではないかと思われます。個人的には大歓迎ですね。

今回ご紹介した製品やサービスは、いずれもすでに利用可能だったり、近い将来利用できるものである点で注目度は非常に高いと言えるでしょう。これらによってオフィスに変化が起きるのは、明日のことかもしれないのです。

本記事ではお伝えできませんでしたが、セキュリティ関係やソフトウェア開発の具体的なノウハウを紹介するセッションも用意されており、多くの技術者たちが集まっていました。ITの最新動向が気になる方は、来年は参加されてみてはどうでしょうか。

Microsoft Tech Summit|Microsoft

(神山拓生)