「他人を気遣うこと」を子どもに教えるにはどうすればよいのでしょう。相違や対立、敵意に満ちたこの時代、両親や教師はこのように思い悩んでいるかもしれません。
私は発達心理学の専門家であり、子どもが早い時期から他人の気持ちに注意を払うことを知っています。子どもは、他人にどう対応するかを決断するとき、相手の気持ちを積極的に考慮しているのです。
それはつまり、子どもは早い時期から他人に同情するということでしょうか? そして、他人を思いやるということを子どもに教える方法はあるのでしょうか?
同情とは?
他人を気遣うこと、つまり「同情」は、相手の不運な状況や心の状態を理解することから始まります。多くの場合は、困っている人をかわいそうに思うという感情を伴います。
同情と共感は異なります。共感は「感情の伝染」に近いものです。他人が泣いているのを見たとき、自分も泣きたいような気持になるのは「共感」です。相手の苦悩に圧倒されていると言っても良いでしょう。
一方、同情は共感と異なり、いくらか距離感があります。そのため、圧倒されるというよりは、たとえば助けたり、何かを共有したりといった具体的な社会行動に出ることになるかもしれません。
人は、とても早い時期から他人を気遣い始めます。例えば赤ん坊は、ほかの赤ん坊が泣くと、気遣いの基本的なサインとして、自分も困っているような反応を見せます。ただし赤ん坊の場合、自分が他人とは別の存在であることを完全に理解していない可能性もあるでしょう。つまり、ほかの赤ん坊と一緒に泣くのは、単なる感情の伝染かもしれないということです。
いずれにせよ、これらは気遣いの初期の形です。年齢が高くなると、より高度な同情を示すようになります。泣いている赤ん坊のために自分も泣くだけでなく、赤ん坊の苦悩を和らげる方法を考え始めるのです。
こうした同情的な対応は、他人が置かれている状況を認知的に理解できるようになって、初めて可能になります。同情とは、他人の苦悩を悲しむだけではありません。同情は行動を導くものです。
どうすれば子どもは共有するのか
では、同情に基づく向社会的行動は、子どもの年齢によってどのように変化するのでしょう?
私はこの疑問を解くために、子どもたちがどのように共有するかを調べてみました。まず、4歳と8歳の子ども160人に素敵なステッカーを6枚ずつ配りました。次に、架空の子どもの写真を見せ、その子にステッカーをあげても良いと伝えました。
子どもたちに見せた写真は複数あって、4つの状況や境遇に分かれていました。大きく分けると、「困っている」子どもと、「困っていない」子どもです。困っている子どもの写真には次のような説明がついていました。
彼女(彼)はおもちゃを持っていません。彼女(彼)は悲しんでいます。
困っていない子ども、あるいはどちらでもない子どもの写真には、次のような説明がついていました。
彼女(彼)は君と同じ4歳(8歳)です。
実験の結果、子どもたちは、困っている子どもに、より多くのステッカーをあげる傾向があることがわかりました。また、8歳の子どもたちは、困っている子どもと平均70%のステッカーを共有していました(困っていない子どもと共有したステッカーの割合は47%)。4歳の子どもたちが困っている子どもと共有したステッカーは、わずか45%でした(困っていない子どもと共有したステッカーの割合は33%)。
8歳の子どもたちは、困っている子どもに3分の2以上のステッカーを差し出し、4歳の子どもたちは半分足らずしかシェアしませんでした。それはなぜでしょう?
よく考えて共有
この疑問の答えは、相手の立場で考える能力にあります。他人を気遣うことに加え、他人の状況を理解することも、「助ける」「共有する」といった行動を促します。これらは、他人の状況を気に掛けた行動です。
例えば、私が実施したこの研究では、8歳の子どもたちは4歳の子どもたちに比べ、自分のステッカーを手放してまで、悲しそうに見える子どもやおもちゃを持っていない子どもと、より多くのステッカーを共有しました。相手の状況にかかわらず同じ数のステッカーを共有したわけではありません。
つまり、子どもは早い時期から同情を示しますが、「相手の立場で考える能力」を身に付けると、より高いレベルの同情を示す傾向があるということです。相手の立場で考える能力とは、「他人は自分と異なる欲望や知識、感情を持つこと」、そして「それらが相手の視点から生まれるということ」を理解する能力です。
例えば、野球がしたい子どもは、友達が異なる欲望を持つこと、もしかしたらフットボールがしたいのかもしれないということを理解できます。あるいは、友達が両親の前でほほ笑んでいても、実はもらった誕生日プレゼントが本当にほしいものとは違っていて、落胆を隠していることを理解できます。
最近、過去40年間に12カ国で行われた76の研究をまとめた論文が発表されました。
この論文では、過去の諸研究に参加した2~12歳の6432人を対象に、他人の立場で考える能力と、向社会的行動の間にはどのような関連性があるかを調べています。その結果、他人の立場で考える能力が高い子どもは、「なぐさめる」「助ける」「共有する」といった向社会的行動をより多く示すことが判明しました。
さらに、2~5歳の未就学児と6歳以上の子どもを比べてみた結果、この関連性は年齢が上がるにつれて強くなることもわかりました。
つまり子どもたちは、文脈情報を利用できるようになればなるほど、いつ、どのように、他人を助けるかを選択できるようになるのです。同様の結果は、私の研究でも示されています。8歳の子どもたちは、写真の子どもの情報を考慮したうえで、同情の程度に従って、共有すべきか否かの決断を下していました。
子どもの思いやりを強化する方法
問題は、子どもが他人を思いやるよう促すことができるかどうかです。そもそも、子どもは他人が置かれた個別の状況を頭に入れ、相手を助けるための最善の方法を考えることができるのでしょうか?
他人を思いやる能力は、私たち人間の重要な特性です。同情は個人を結び付け、社会の一員としての協力関係を強化します。これは発達心理学の研究で実証されていることです。例えば、175人の子どもを長期にわたって追跡した研究では、7歳のときに高いレベルの同情を示した子どもは、9歳に達するころには、友達により受け入れられ、他人とより多くのものを共有していたという結果が出ています。
従って、小さな子どもの思いやりを強化するには、「帰納的推理」と呼ばれる方法が効果的だと言えるでしょう。具体的には、社会的交流の際に、子どもの行動がどのような結果を招くかを、親や教師が強調するということです。例えば、子どもが友達からおもちゃを取り上げたら、次のように質問してみましょう。
もし友達におもちゃを取り上げられたらどんな気持ちになる?
この質問を投げ掛けられた子どもは、自分の行動が他人の考えや気持ちにどのような影響を及ぼすか、思いを巡らせることになるでしょう。それが思いやりの強化につながります。
発達心理学の専門家であるBrad Farrant氏の研究チームは、「親のしつけ」と「助ける、気遣うといった子どもの行動」の関係を調べ、同様の結果を導き出しています。
Farrant氏の研究では、4~6歳の72人が調査の対象になりました。調査の結果、母親が子どもに他人の立場で考えるよう働き掛けると、子どもたちは助ける、気遣うといった行動をより多く示すことがわかりました。例えば、ある子供が別の子供に「いじめられた」とき、相手の立場で考える能力を育てようとする母親は自分の子供に、なぜそのようなことが起きたかを考えさせていたのです。
「他人を助け、他人と共有すべきだ」と言葉で言うことも、社会の良き一員になる方法を教える1つのやり方です。しかし、他人の要求や気持ち、欲望についてよく考えてみるような方向で子どもと話し合えば、さらに1歩前進し、子どもが思いやりを育むきっかけになるでしょう。
Here's how to raise a child to be sympathetic | The Conversation
Tina Malti & Ju-Hyun Song(原文/訳:米井香織/ガリレオ)
Image by Seita (Shutterstock).