あれは2003年、高校の商法のクラスで、課題論文に取り組んだときのことです。私は『ハリーポッターと賢者の石』のストーリーと契約に関する法律を上手に組み合わせて、40ページほどの論文を書き上げました。我ながら完璧な仕上がりだと思いました。しかし、そのあとに何が起きたかはご想像のとおりです...。

論文を提出してから数週間が経ったころ、授業が始まる前、先生が私を呼びとめ、ひそひそ声で何かを言ってきました。どうやら、私がいかに天才なのかを伝えようとしているようでした...。先生はとてもゆっくりとした口調で「アンドレア...。私には理解できないんだ。君の論文は、今まで読んだ中で最も不可思議で、最も不可解だ...。今までいろいろおかしな文章を読んできたが、それと比べても君のは...」先生の声はだんだん小さくなっていきました。「ハ、ハリーポッターのやつですか?」私はかすれた声で問い返しました。

先生は明らかにハリーポッターを読んだことがなく、混乱し、少し怖がっているように見えました。私はとても恥ずかしい気持ちになりました。

誰もが恥ずかしいという感情を知っています。そして、多くの人が、恥ずかしさを感じると、顔と首が赤くなります。私は、恥ずかしさを感じやすい人間の1人として、人はなぜ恥ずかしくなるのか、どうすればそうなるのを防げるのかを調べてみました。

恥ずかしい感情は恐怖反応である

恥ずかしいという気持ちは、人前でとるべきだと思っている行動と、自分が実際にとった行動が食い違っていたときに引き起こされる自己意識的感情です。つまり、社会から求められているように振る舞えなかったときや、望ましくない注目を浴びてしまったときに、恥ずかしさを感じるのです。環境も重要です。たとえば、自宅でしても恥ずかしくない失敗が、家の外だと恥ずかしく感じることもあります。

顔が赤くなるのはなぜか?

この現象は、強力な闘争・逃走反応によるものです。私たちの心は恥ずかしいという感情を脅威だと受け取ります。顔と首の血管には、社会的脅威に反応するという特異な機能があります。私たちが何か恥ずかしいことをすると、化学伝達物質アデニリル酸シクラーゼの作用で顔と首の血管が膨張します。また、アドレナリンが分泌され、新鮮な血液と酸素が体中に送り込まれるようになります(もちろん顔と首にも)。顔が赤くなるのは、恥ずかしさを感じたときだけではありませんが(罪悪感や照れなどを感じた時も赤くなる)、一番大きな要因と言っていいでしょう。

火に油を注ぐ人たちがいる

こんな人と出会ったことがあるはずです。あなたが顔を赤らめると、いま顔が赤くなったよ、とただちに指摘してくる人たちです。まるでわざわざ教えてあげたと言わんばかりです。研究によると、多くの人が、顔が赤くなったと指摘されることで(実際はなっていなくても)、本当に顔が赤くなってしまうそうです。顔が赤くなったよ、と言われると、相手から悪く思われているように感じてしまいます。

『Behaviour Research and Therapy』に発表されたある研究によると:

顔が赤くなっているという思い込みが、他者から悪く思われているという思い込みを誘発し、それがさらに顔を赤くさせる原因となる。

また、研究者たちは、人前で赤面してしまうことを恐れていたり、人から顔が赤くなったと指摘されることで、むしろ、人から悪く思われるような行動をとってしまうことを発見しました。顔が赤くなったから悪く思われたのではなく、自分の顔が赤くなったことに対する反応や行為によって、人から悪く思われてしまったのです。いわゆる予言の自己達成が起きているわけです。

別の研究では、人から見つめられることと、顔が赤くなることの間にどんな関係があるかを調べました。結果は驚くべきものでした。 大勢の人の前で歌をうたうとき(すなわち、恥ずかしいことをするとき)、顔のちょうど大勢の人に注視されている部分が赤くなることがわかったのです。また、血液の流れを調べたところ、人から見つめられるだけで、顔の、見つめられている側の血流が増えることもわかりました。つまりどういうことか? 何か恥ずかしくなるようなことをしているときに人から見つめられると、自動的に顔が赤くなるということです。これが、私がいつも教室の一番前に座る理由です。人から見られているのか、見られていないのか、気にしなくていいようにするためです。

恥ずかしくなったり、顔が赤くなったりするのを防げるか?

手術で顔を赤くする神経を切ってしまえば治る? いいえ。赤面反応は自律神経の作用で起きるので、自分でコントロールすることは不可能です。どんなに意識しても、どんなに努力しても、顔は勝手に赤くなってしまいます。とはいえ、できることはあります。それは、健全な見方を手に入れることです。

恥ずかしいという感情は、ヘマをしたら人から悪く思われるという思い込みから発生します。人間は、他人からどれくらい悪く思われているかについて過大評価する傾向があり、勝手な思い込みにとらわれて、実際に人は私たちにそれほど注意を向けていないという事実を見過ごしています。セラピーを受けることで、実際には他人はあなたのことをなんとも思ってやしないということを理解し、健全な見方ができるようになります。もっとも、私はこの事実を知っただけでは、恥ずかしくなったり、赤面したりするのを止められませんでした。そこで、いくつか別の方策も探してみたので紹介します。

必ずしも悪いことばかりではない

恥ずかしいという感情はやっかいなものだと思われていますが、悪いことばかりではありません。恥ずかしい感情は演技では出せません。ですので、あなたが本当の感情を見せていることを周囲に伝える働きをします。また、あなたが自分がした行為に罪の意識や後悔の念を感じていることも伝わります。つまり、恥ずかしいという感情は、私たちが信頼できる人物であることを知らしめる機能を果たしているのです。少なくとも、カリフォルニア大学バークレー校の研究者たちはそう結論づけています。5つの異なる実験が行われ、そのすべてが同じことを指し示していました。それは、恥ずかしさの感情は、向社会的な感情だということです。

研究者で心理学者のダッチャー・ケルトナー氏は、被験者たちに、恥ずかしそうなジェスチャーや表情をしている人の写真を見せる実験を行いました。恥ずかしそうにしている人の写真と、自信たっぷりに見える人の写真を見せたところ、多くの被験者が、恥ずかしそうにしている人のほうが好感が持てると答えました。また、どちらかといえば、自信たっぷりに見える人よりも、恥ずかしそうにしている人と知り合いになりたいと答えています。

つまり、恥ずかしさを感じたり、顔が赤くなったりすることで、人から好感を持たれたり、対立を回避することができるのです。誰かと言い争っているときに、相手の顔が赤くなれば、その人は自分の行為を恥じているということがわかります。そのことが、対立感情を和らげるのです。

また、恥ずかしさの感情は、お互いの親愛の情を高めるツールにもなります。たとえば、からかい合って、お互いを恥ずかしがらせようとしている人たちは、自分たちがいかに仲良しかを確認し合っているとも言えます。からかっている相手が恥ずかしさの感情を見せたら、その人のことをもっと知りたいと思うようになるはずです。ですから、恥ずかしさの感情は、パワフルで、必要とさえ言えるソーシャルツールなのです。

恥ずかしさから来る重圧を軽減する

私たちはみな、自分をできるだけ良く見せようとしています。それなのに、恥ずかしい行動をとってしまうと、せっかく作り上げた自己イメージが粉々に砕かれてしまいます。また、多くの人が、恥ずかしいことをすると、個人的にも、キャリア的にも傷がつくと思い込んでいます。どちらも真実ではありません。「スポットライト効果」について学べば、こうした恐れから解放されます。

みんなから見られていると感じるとき、その圧倒的な恐怖をどうやって克服すればいいでしょうか? まずは、次の3つのステップに従うことです。

1. 恥ずかしいと思っていることについて話す。恥ずかしさの感情は、ほとんどの場合、他人からどう見られているかについて、間違った思い込みをしていることに起因します。友人や信頼できる人に、恥ずかしいと思っていることについて話すことで、のしかかっている重圧を取り除くことができます。また、恥ずかしい気持ちになっているからといって、人から悪く思われるわけではないこともわかります。

2. 顔が赤くなったり、恥ずかしさを感じるのは、あなたが自覚している証拠であることを思い出す。恥ずかしそうにしている人に私たちが好感を持つ理由の1つは、その人が、自分が度を越してしまった、あるいはしくじったことを自覚していることが見て取れるからです。これは人として重要な資質であり、決して、軽蔑されるようなことではありません。

3. 注意を引き戻す。人から悪く思われるのでは、という強い不安が、恥ずかしさの感情を増幅し、顔をますます赤くさせます。『One Less Thing to Worry About』の著者であるジェリリン・ロス氏は、ニューヨーク・タイムズ誌で、恥ずかしくなったり、顔が赤くなったのがわかったときは、「顔が赤くなるのは不安を感じたときだ。これは何を意味しているのか?」と自問するようにとアドバイスしています。

この問いを発することで、恥ずかしいという感情から、目の前の相手との会話に注意を引き戻すことができます。そうすれば、顔が赤くなったこと自体に意識を向けるよりもずっと早く、平静さを取り戻せます。つまりこの質問には、内面ではなく、外に注意を向けさせる効果があるということです。

以上のステップはすべて、恥ずかしさの感情を和らげ、その重圧を軽減してくれます。誰もが恥ずかしさの感情を抱くこと、そして、それで何の問題もないことを思い出してください。

私は、これからも、恥ずかしい感情を瞬時に抑えたり、顔が赤くなることを防いだりすることはできないでしょう。それも自分の一部なのだということを、私は何年もかけて受け入れてきました。そして、恥ずかしさの感情が、重要な社会的機能を果たしていること、恥ずかしさを感じたときには、自分と対話することでトーンダウンできることを学んできたのです。

恥ずかしいという感情をなくすことはできません。そこで、リチャード・E・グッドリッチ氏の次の言葉とともにお別れしたいと思います。

リラックスして。他人はあなたのことなんて見てやしない。みんな、鏡に写った自分を見ることで忙しいんだから。

Why you get embarrassed and what you can do about it | Crew

Andrea Ayres(原文/訳:伊藤貴之)

Image by cornflowerpower (Shutterstock).