家族計画に挑戦しようと思っているなら、『Glow』、『Clue』、『Ovia』のような妊活アプリ(妊娠支援アプリ)を使うと、もっとも妊娠しやすい時期を予測できます。こうしたアプリを使えば、妊娠する可能性は高くなるはずです。ただし、情報の入力方法をきちんと理解していて、かつそのアプリが正確であることが条件です。
妊活アプリのベストな活用方法は、妊娠しやすい時期の兆候を記録していくことでしょう。とはいえ、アプリの助言を鵜呑みにしてはいけません。月経周期を記録していくアイデア自体は正攻法といえますが、その詳細を正しく理解するのはなかなか難しいものなのです。
月経周期の記録が科学的に完全ではない理由
妊活アプリは基本的に、特別な目的のためのカレンダーといえます。毎日情報を入力していくと、アプリがもっとも妊娠しやすい「妊娠可能期間」を計算してくれます。タイミングは重要です(英文記事)。なぜなら、精子は女性の体内で数日間生きていられますが、卵巣が排卵する日は月に1度しかないからです。ですから、排卵の4日程前が、セックスして妊娠する可能性の高い時期といえます。
ただ残念なことに、排卵日を簡単に予測する方法は存在しません。排卵は次の生理が始まるおよそ2週間前に起きるため、カレンダーをつけることは参考になります。ただ、それにも落とし穴があります。月経周期の長さが変わる可能性があるため、排卵日を予測するのは難しいのです。
幸い、女性の体には、排卵日を知るためのほかのヒントも現れます。例えば、子宮頚管粘液(おりもの)の調べ方を覚えても良いでしょう。もっとも妊娠しやすい時期に差し掛かると、より粘度の高い、ヌルヌルした状態になります。体温も役に立つヒントです。体温は、排卵後に0.5度ほど高くなります。ただし、妊活アプリがその変化を追跡できるのは、あなたが一貫した方法で体温を測った場合だけです。ですので、毎日、朝いちばんの同じ時間に体温を測ることが、なによりも重要です。
妊活アプリは優秀なアシスタントだけど、完璧ではない
フル装備の妊活アプリは、これら3つのデータポイントをすべて記録できるだけでなく、気分や月経前症候群といった、それ以外の有用な情報も教えてくれます。
ただし、みなさんもすぐに気づくと思いますが、一番大変な作業のほとんどは、アプリにデータを入力する前にする作業です。まずは、実生活の中で、自分の体に何が起きているのかを知らなくてはいけません。また、子宮頚管粘液と体温に関しては、データの集め方を知る必要もあります。広く知られているトニー・ウェシュラー氏の『Tあなたの受胎能力を管理する』などの参考になる書籍もありますし、講習会を受講しても良いでしょう。
つまり、妊活アプリはあくまでもアシスタントに過ぎないのです。データを記録し、カレンダーを色付けするには優れものといえますが、あなた自身が妊娠しやすい時とそれに近い時の子宮頚管粘液の違いを見分けられないのなら、アプリだって魔法のような予測はできないのです。
ただ単に、自分の月経周期を記録しておきたい場合でも、こうした妊活アプリはとても役に立ちます。アプリは、生理が始まりそうな時期を知らせてくれますし、「最後に生理が来たのはいつでしたか」というお決まりの医師の質問にもすぐ答えを出してくれます。そして、予期せぬ妊娠がわかった場合、最後の生理を調べれば、妊娠何週目かを簡単に計算することができます。
妊活アプリは常に正確とは限らない
妊活アプリはたくさんありますが、妊娠可能期間の算出方法はみな同じわけではありません。2016年前半に『Obstetrics & Gynecology』で発表されたある研究によると、33種類の妊活アプリのうち、標準的な28日周期の被験者について正しく妊娠可能期間を算出できたのは、『iPeriod』、『MyDays』、『Clue』の3つだけでした。この研究では、それ以外の長さの月経周期については調べていません。この研究の主著者であるRobert Setton氏は私の質問に対し、「イレギュラーな月経周期を持つ女性については、これらのアプリで得られる効果を予測するのは困難です」とメールで返答してくれました。Setton氏はさらに、妊活アプリが妊娠するうえで役に立っているかどうかを判断するための実際のデータは存在しないとも指摘しています。
排卵直前の妊娠可能期間にセックスをすればもっとも妊娠しやすいことはわかっています。ですが、妊活アプリは妊娠可能期間の日付を正確に知らせてくれるのでしょうか? ジョージタウン大学メディカルセンターの研究チームは、妊活アプリ『Dot』の研究に着手しましたが、結果はすぐには出ない見込みです。別の妊活アプリGlowの開発者らも研究を行いました。それによれば、このアプリを頻繁に使った女性は、時々しか使用していない女性よりも早く妊娠したそうです。この研究では、Glowには妊娠を早める効果があると結論付けられています。一方で、その結論を批判する人たちは、この研究では、両グループの違いを説明できそうなほかの理由を除外できないと主張しています。例えば、頻繁にアプリを使用するユーザーはもともと妊娠願望が強く、ほかの方法でも妊娠の確立を高めていた可能性も考えられます。
こうした妊活アプリが役に立つと考えるのは理にかなっていますが、本当にそうなのかどうかを断言できる状況ではありません。また、妊活アプリはもっとも妊娠しやすい時期を教えてくれますが、いつセックスをしたほうが良いのかまで同じようにアドバイスはしてくれません。毎日か、1日おきか、それとも3日おき? 妊娠可能期間だけを狙ってセックスするべきなのか、それともカレンダーのことなど忘れて1カ月を通じてするべきなのでしょうか? 専門家の意見でさえ食い違うことがあるのですから、妊活アプリもこの点については役に立たないでしょう。
月経周期は避妊にも役立つけれど、注意が必要
月経周期や体温、子宮頚管粘液などを意識するメソッド(FAM)は、妊娠の可能性が高い時期がわかるため、妊娠を避けるためにその情報を利用することもできます。つまり、避妊手段としても使えるのです。妊娠可能期間に避妊せずにセックスしないようにすれば、まず妊娠はしないはずです。
これは、とても効果的な方法です。ただし、すべてがきちんとうまくいっていればという条件がつきます。理論上は、FAMの避妊成功率は97%で、コンドームの着用やピルの服用とほぼ同じです。ですが実際には、データの入力を忘れてしまったり、体温の測り方の詳細を間違って覚えていたり、慎重さをうっかり捨ててしまった日が実は妊娠可能期間だったとわかったりするのは、よくあることです。そのため、実際の成功率はぐんと下がり、一部のメソッドでは77%程度になります。
妊活アプリを使えば、FAMを完璧に活用した場合の97%という成功率に近づけるのでしょうか? 『Journal of the American Board of Family Medicine』で発表された最近の研究によれば、どうやらほとんどのアプリはそうした役には立たないようです。この研究では、科学的根拠に基づいたFAM(つまり、過去の研究で実際に効果があるとわかっているメソッド)を使用しているか否かについて、妊活アプリを評価しました。また、実際の女性の周期数回分のデータをもとに、アプリが正確に妊娠可能期間を予測したかどうかも調べました。
その結果、完璧または完璧に近い予測ができたのは、『Sympto.org』、『iCycleBeads』、『LilyPro』、『LadyCycle』、『myNFP.net』、ウェブサイトの「Ovulation Mentor」でした。驚くべきことに、Glowのスコアはゼロで、リストのなかでは最下位でした。研究者らによれば、Glowが惨憺たる結果に終わった理由の1つは、アプリで使われているメソッドが公開されていないからだということです。つまり、Glowが科学的に裏付けされたメソッドを使用しているかどうかを判断するすべがないのです。
結局のところ、アプリは妊娠のしやすさに関連した情報を記録していくうえでは役に立ちますが、収集すべきデータを知り、解析された結果を理解できるように自分で学ぶ必要があります。もっと簡素な方法を好むなら、月経日を記録するだけでも良いでしょう。その場合にも、妊活アプリはとても役に立ちます。自分の体で起きていることに注意を払うためだけにアプリを使うのも、良い使い方といえるでしょう。
FAMで避妊を考えている場合は、自分がしていることの意味を理解し、すべてのことをアプリの計算に任せきりにしないでください。また、予期せぬ妊娠についてどう思うかを考えておいたほうが良いでしょう。というのも、FAMを利用する場合は、ほかのもっと確実な避妊方法よりも、そうなる可能性が高いからです。
妊活アプリは、妊娠の可能性を記録していくのに役立つツールに過ぎません。そして、実際のところどれだけ信頼できるのかもわかっていません。妊娠しようとしている人にとって、妊活アプリは特効薬でも、妊娠への片道切符でもありません。それを心に留めておけば、完璧ではないとはいえ、自分の体がどのように機能しているかを窺い知る魅力的な窓として、妊活アプリを活用することができるでしょう。
Beth Skwarecki(原文/訳:風見隆、梅田智世/ガリレオ)