重要な仕事や個人的にやりたい仕事があるのに、上司や同僚、顧客の対応に追われてなかなか手がつけられない...。そんなことはありませんか? 勤務時間を生産的に過ごしたいと思っていても、次々とやってくるメール、会議、急な用事に時間を食い尽くされてしまうのです。
ToDoリストから時間管理アプリ、マインドフルネスに至るまで、生産性を向上させる手段がたくさんあります。どれも、少しの間なら効果を発揮しますが、またすぐにあれやこれやへの対応に追われる状態に戻ってしまうでしょう。
それよりももっと良いやり方があります。脳の機能が時間帯によってどう変化するのかについての科学的知見を学び、適切なときに適切なタスクに取り組むようにすれば、生産性を最大化することができるのです。
まず手始めに、1日の間の主要なターニングポイントについて見てみることにしましょう。
最初の3時間を大切にする
1日の最初の3時間は、最も貴重で生産的な時間帯だと心理学者のロン・フリードマン氏は言います。
メールや留守録をチェックしたり、上司や同僚のリクエストに応えたりするかわりに、最初の3時間を自分と自分の仕事にとってもっとも重要なことに使ってください。
「私たちは、本当に本当に集中できる3時間程度の枠を皆持っています。計画を立てるにせよ、考えるにせよ、スピーチするにせよ、この時間帯にやればかなりの成果が期待できます」と、フリードマン氏がハーバード・ビジネス・レビュー誌に書いています。「もし、この最初の3時間を、ほかの人の都合に合わせて浪費してしまえば、(中略)最もいい時間を使い果たしてしまい、上げられたはずの生産性を上げられなくなります」
数々の研究により、朝から午後にかけて認知機能(理解・判断・論理などの知的機能)が弱まることがわかってきました。「時間がたつほど使える認知機能のリソースが減っていき、仕事をこなす際の負担が増えていく」と、研究者たちが『Journal of Vocational Behavior』に書いています。言い換えれば、「難しい仕事は後回しにするな」ということです。
また、この最初の3時間に、受動的ではなく能動的な姿勢で仕事に取り組むことも重要です。「顧客に対応しなければならないのはわかります。同僚に対応しなければならないのはわかります。しかし、朝いちばんを受動的な仕事から始めるのは、認知機能的には損失となります」とフリードマン氏は言います。
シェフのように下ごしらえをする
では、1日をどう始めるのがベストか? 料理界はその答えを知っていると、フリードマン氏は考えています。フランス語には「mise en place」(下ごしらえ)という言葉があります。あらゆる準備を整えておくという意味です。
「シェフをよく観察すれば、キッチンに入ってきて、いきなり調理を始めたりしないことに気づくでしょう。最初に長い時間をかけて料理の完成形を思い描き、そこから逆算して作業を始めます」とフリードマン氏。「必要なステップを明確にし、適切な道具を集め、適当な分量の食材を用意し、そのほか、調理に必要なあらゆる準備を整えておきます。つまり、シェフは最初に戦略を立て、それから実行に移るのです」
ですので、いきなり仕事を始める前に、1日の最初の数分を計画と準備に使ってください。そうすれば、その後の時間を効率よく集中して過ごすことができます。
脳と体を休ませるべき時を知る
時間とともに疲れてくるのは脳だけではないと、The Energy Projectのトニー・シュワルツ氏は語っています。私たちの体は、シュワルツ曰く「縮日周期」と呼ぶものに従っています。体は90分~120分ごとに休憩を必要としているのです。つまり、それが注意力が持続する時間だとも言えます。このサイクルを無視して休憩をとらずにいると、なかなか成果があがらなくなる、とシュワルツ氏は言います。
これは体からのサインを見逃すなということでもあります。落ち着かなくなったり、あくびが出たり、頭がボーっととしたり、お腹が鳴ったりするのは、デスクから離れて何分か休憩をとらなければならないというサインです。誰もがよくやりがちですが、こうしたサインを無視すると、あとあとエネルギー切れを起こしてしまうとシュワルツ氏は話しています。
時間を管理するかわりに、エネルギーや注意力を管理してください。
午後3時のエネルギー低下に対処する
昼食を食べたあと、終業時間はまだまだ先なのに、なんだか体がだるくて仕方がない...。そんなことはありませんか? この、たいてい午後3時ごろに起きるエネルギーの低下は、人体が概日周期に従っている結果です。この時間になると、人体はメラトニンというホルモンを放出し、体温を下げます。それが眠たくなる原因です。職場で20分ほどの昼寝をとることが難しいときは、何か別の方策を考えてください。
「こうしたエネルギーのゆらぎを考慮に入れ、負担の小さい仕事、すなわち、意志力や集中力があまり必要でない仕事を、午後の2、3時ごろにスケジュールしておきましょう」とフリードマン氏は助言します。ですので、この時間帯は重要度の低い会議や、あまり神経を使わない仕事を入れておきましょう。
また、エネルギーが低下する時間帯は、創造的なタスクに集中するのに適した時間帯でもあります。「興味深く、また直観に反することですが、人は疲れているときほど創造的になることがわかっています」とフリードマン氏。「少し疲れてくる時間帯に創造的なタスクをスケジュールしておくと効果的です」
ここでも、重要なキーワードは「スケジュール」です。疲労感に振り回される1日を送らないでください。あらかじめどの時間帯に何をするかを決めておき、エネルギーの低下に備えてください。
メリハリをつける
少し油断すれば、すぐに仕事が生活全体を覆い始めます。夕食を食べながら、あるいは寝る前、ときには深夜にさえメールをチェックせずにはいられなくなります。「仕事でもプライベートでも、こうしたデバイスを使っているとすべてが緊急の要件のように感じられ、いつしか依存症になってしまう」とフリードマン氏は話します。
接続を切る時間をつくれば、集中力も高まり、翌日の仕事にもフレッシュな状態で臨むことができます。しかし、明るく発光するこのガジェットをたとえ数時間でも手放すことなどできるでしょうか? 1つ良い方法があります。フリードマン氏は、夜間にメールをチェックしたくなる誘惑を最小限に抑えるため、仕事とプライベートで使うデバイスを変えているそうです。「iPadではメールを見ません。スマートホンは仕事用ですが、iPadは娯楽専用のデバイスにしているんです」とフリードマン氏。
遊ぶ時間をスケジューリングしておく
テレビゲームで遊びましょう。そう、ゲームです。フリードマン氏によると、ゲームで遊ぶ時間をつくることは認知機能を高めるためにも重要なのだとか。「ゲームは先に進むほど難しくなります。常に次のステージのほうが難しいのです」とフリードマン氏。「多くの場合、仕事は逆の曲線を描きます。だんだん難しくなる仕事はあまりありません」
エクササイズも良い選択肢の1つです。「体をよく動かすほど、仕事でも疲れにくくなる」と、オランダにあるBehavioral Science Instituteの研究者たちは書いています。とはいえ、ここに1つのパラドクスがあります。「運動から最も恩恵をうける人、つまり疲れきっている人ほど、体を動かしたがらない」
ソファーから起き上がって、何か活動的なことをしてください。ただし、自分が楽しいと感じることを選びましょう。職場の外でそうした活動に取り組むことで、仕事においても与えられた役割に満足せずに、挑戦し続ける必要があることを思い出すことができるからです。
What Psychology Teaches Us About Structuring the Workday | Help Scout
(原文/訳:伊藤貴之)
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