仕事で参ってしまっているとします。
家でもやることが山積みで、カレンダーには期限が過ぎても終わっていない仕事でいっぱいです。
これをすべてこなすために、お昼ご飯を食べず、ジムに行く時間を削り、付き合いなどは完全に忘れていました。
それくらいストレスが溜まっている時は、セルフケアは大体一番最初に飛ばされます。しかし、それでは事態は悪化するだけです。
「セルフケア」というと、どことなく自分を甘やかしているような響きがあるかもしれませんが、自分がうまく機能するために欠かせない基本的な習慣のこと。
ほとんどの人は、身を粉にして働けば、それだけ見返りがあると信じて育ってきたと思います。
たとえば、私は高校時代に弁論大会に参加した時、準備のために無理をして徹夜をしました。疲れ果てるまで自分を追い込めば、成果が得られると思っていたのです。
翌日、当然ながら疲れ切っていた私は、理路整然とした文章が出てこず、負けました。ここで大事なのは、「がんばれば報われる」というような考え方が極端に受け入れられており、実際には逆のことが起こっているということです。
力を使い果たし、能力は鈍くなり、集中力を欠いてしまいます。
一生懸命に働いている証だと思うかもしれません。それである程度は仕事はこなせるかもしれません。しかし、効率的ではありません。
セルフケアは、必要「不可欠」なもの
忙しくて参っている時というのは、ちょっとした時間でも贅沢なように感じて、自分のことをケアしなくなりがちです。
では、お昼ご飯を食べたり、運動をしたり、友だちと出かけたりするのはどうでしょう? そんなことをしたら、自分が怠けているように感じます。
しかし、その考え方が裏目に出ているのです。セルフケアをすると、実際には仕事が速く進む理由がいくつかあります。
1. セルフケアは燃え尽きるのを防げる
誰もが燃え尽きてしまったことがあるでしょう。自分を追い込みすぎて、これ以上何もできなくなり、あきらめるしかなかったというような状態です。セルフケアをすればそこまで行くのを避けられます。
2. セルフケアはストレスによる悪い影響を軽減する
少しのストレスであれば目的を果たすことはできますが、しばらくすると、体も心もボロボロになります。セルフケアをするというのは、ストレスを受け過ぎないようにして、自分の能力を最大限に発揮できるようするという意味です。
3. セルフケアで集中力が戻る
学校で複雑な数学の問題に手こずっている時、先生は少し散歩するといいよ言いました。要するに、休憩をしなさいということです。休憩はセルフケアの典型です。休憩をするとパフォーマンスがあがるというのは証明されています。
私は、セルフケアをご褒美のようにすることもあります。
たとえば、お腹が空き過ぎて、うまく考えられないのに、お昼ご飯を食べる前にある程度仕事を終わらせようとすることがあります。
実際には、無理をして、仕事を終わらせるのを難しくしています。
つまり、セルフケアはご褒美というより、仕事を終わらせるプロセスの一部なのです。
仕事中にトイレやお昼休憩に行くことを「自分へのご褒美」のように扱うことがありますが、それは正確にはセルフケアだということを忘れていたのです。
忙しくても食事と運動の時間は取る
移動したり、着替えたり、シャワーを浴びたり、運動には時間もエネルギーも取られてしまうので、忙しい時に運動をサボってしまうことはよくあります。
面倒だし、気まずくもあり、やる気も失せてしまいます。しかし、毎日の日課として運動をする時間をつくるのはとても大事なことです。
一緒に運動をする仲間やグループをつくって、サボりにくくなるような工夫をしてみましょう。
忙しい場合は「Sworkit」のようなパーソナルトレーナーアプリを使うのもおすすめです。
5分しか時間がないような時でも、使える時間に合わせて特別な運動やルーティンを勧めてくれます。
もしくは、会社の近くや通勤途中にあるスポーツジムを見つけましょう。そうすれば、運動もできて、通勤ラッシュも避けられます。
当然ですが、忙しさややる気の無さに関わらず、どうしても運動ができないような時もあります。
誰もが美味しくて体に良い食事をしたいと思っていますが、忙しい時は料理をしたり、計画的に食事をするのが難しいものです。
私は、締切を3つ抱えている時は、サラダをつくらずに、残り物のピザで済ませてしまうことが多いです。これだけ加工食品が溢れている世の中で、健康的な食事をするのは大変でもあります。
白砂糖の量を減らす、炭水化物の摂取量を管理するなど、一度に食生活全体を見直すのではなく、ある部分だけを意識するようにして、まずは少しずつ始めましょう。
また、たまにはジャンクフードを食べることもセルフケアになります。
私は、少しだけオレオを食べてもいいというご褒美をよくやります。たまに体に良くないとされるものを楽しむのは、何も悪くありません。逆に、健康食品はできるだけ摂らない方がいいと思っています。
これは体に良い食事をするという考え方自体を変えることになるかもしれませんが、自分が本当に好きな、体に良い食べ物を食べることから始めた方がいいと思います。
体に良いからという理由だけで、好きでもないものを無理して食べない方がいいです。
精神衛生的に良いことをする
身体面のセルフケアは間違いなく大事ですが、「セルフケア」について語られる場合、ストレスや不安、抑うつ状態など、精神面での健康のことを言っていることが多いです。
これはおそらく、私たちが精神衛生のことをケアしない傾向にあるからでしょう。
心理学者のGuy Winchは「毎日の日課として歯磨きやフロスはするのに、精神衛生を保つために毎日やっていることがあるでしょうか?」と言っています。
ストレスや怒りなど、強烈な感情がこみ上げてきた時は、すぐに少し休憩をするといいです。
「今自分が感じているのは何なのか?」「なぜそのように感じるのか?」など、自分の感情についてピンポイントで言葉にして羅列することで、気持ちが落ち着いてきます。
長い間、私は常に不安やストレスを感じながら仕事をしていたことがありました。
たとえば、私が一生懸命やった仕事に対して、上司から修正するように言われると、頭に来て、ストレスを感じて、ずっと自分の失敗を自分で責め続けながら急いで終わらせていました。
傷ついている上に、ちょっと頭がおかしくなっているような、とても仕事をするのにベストな状態ではありませんでした。
今は、自分が否定されたのだとわかっているような時でも、自分の感情を確かめるために少し時間をおくようにしています。
単に仕事を続けるのをやめて、少し歩き回りながら自分の感情を突き止めるのです。自分の感情を確かめるのには現実的な目的があります。
ひとつには、無理にでも自分を落ち着かせて、理性的に考えられるようにすることです。休憩をするという意味もあります。また、それ以上感情を引きずらないようにするのも目的です。
上司が修正の依頼をしたことに対して、自分を否定されたように感じた、というのが自分でわかるようになります。
そうすると、自分が失敗したと思いそうになった時に、「失敗したんじゃない、今はこの仕事に対して否定されたように感じているだけだ」と自分に言い聞かせやすくなります。
日記をつけるのも浄化作用があるのでいいです。
『Advances in Psychiatric Treatment』に載っていた研究によると、15〜20分日記をつけることは、トラウマやストレスや感情的な問題に対処するのに効果があると証明されています。
大袈裟だと思うかもしれませんが、これは精神衛生の核心的な部分でもあります。
自分の感情に対処するために時間をかけることで、感情をうまくコントロールして、仕事に戻ることができます。感情をコントロールするというのは、感情を認識し、理解することです。
コントロールするのが難しい感情的な痛みを抱えている場合は、良いカウンセラーやセラピストを探してみましょう。
スケジュールを守る
数年前、私は常に週50〜60時間働いていました。
当然のようにストレスを溜め、イライラして、集中力を欠いていました。スタンフォード大学のJohn Pencavelの研究(PDF)によれば、これは当たり前のことでした。
週に約50時間働いた後は、従業員の生産性や成果は急落することがわかったのです。
スケジュールを守るというのは、とても難しいことではありますが、物事を断る方法を学ぶという意味でもあります。ワートン大学のAdam Grant は次のことを推奨しています。
- 延期:「今は仕事に忙殺されていますが、いつでも追いつきます。」
- 委託:「頼まれたことはできませんが、他のところができます。」
- 紹介:「私の得意分野ではありませんが、できそうな人を知っています。」
当然ながら、上司や管理職があまりにも多くのことを頼み過ぎているだけ、ということもあるでしょう。
その場合は、仕事の負荷や責任について話し合うことで、スケジュール通りに終わらせられるかもしれません。
言うは易し行うは難しで、残念ながらすべての上司がセルフケアの必要性について理解があるわけではありません。しかし、上司の言うことをただ受け入れ続けるよりはましだと思います。
自分でスケジュールを詰め込みすぎているということもあるかもしれません。
それをやめるには、スケジュール表に何もしない時間を追加するといいでしょう。そうすることで、思った以上に時間がかかりそうな仕事や、何か他のことを頼まれたりした場合に、それを割り当てるための時間ができます。
最後に、自分のための時間もある程度は捻出しましょう。読書、スポーツの試合を見る、ぼんやりと雲を眺めるなど、自分が好きなことをするためのゆっくりとした時間をつくるのです。
その時間は何も入れないようにします。その時間を確保するためにできることはすべてやりましょう。
自分の大事なことに時間とお金をかける
時には、忙しい方が気分が良いこともあります。
私が週50〜60時間働いていた時は、常に仕事をしているだけで成功したような気になっていました。何も達成していないにも関わらずです。前進しているような気になっているだけです。
実際、ToDoリストの項目を片付けた満足感と引き換えに、本当に達成したい目標をたくさん後回しにしていました。
本当の進歩というのは生産的ではないこともあります。
仕事や責任を放っておくのは難しいものですが、セルフケアの精神においては、そうしなければならないこともあります。
ビジネスコーチのMark McGuinnessは、毎日"大きな目標"に意識をおくことで、達成感を得られると言っています。自分にとって本当に大事なことを意識すれば、自ずと適切に時間の優先順位を付けられます。
また、お金も時間と同じようにとても大切です。誰もが時には無駄にお金を使ってしまいますが、それは予想の範囲内です。しかし、究極的には、本当に自分の大事なことにお金を使いたいはず。
ストレスが溜まっている時は、何も考えずにお金を使ってしまうことがよくあります。
お金はほとんどの人にとってストレスの大きな源なので、そんなことをすると自体は悪化します。
お金の使い方や管理の仕方を学ぶこともまた、セルフケアの一貫と言えます。目的を持って予算を決めるところからはじめましょう。
目的が借金を返すことだとしても、なぜ借金を返したいのかを考えることが結果としてとても大事です。
旅行をしたいとか、安心感が欲しいとか、その両方かもしれません。
自分にとっての目標を決めることは、自分が気分よくいられるだけでなく、目標を念頭におきやすくなり、ストレスが減ります。
自分の基本的な体と心のケアは、仕事をするためにも欠かせない柱となるべきものですが、皮肉なことに、セルフケアは大体最初に忘れられます。
自分をケアするというのはどういうことかも忘れてしまっている、ということがきちんと理解できれば、自分をケアし、回復することができるようになるはずです。
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Kristin Wong(原文/訳:的野裕子)
Illustration by Fruzsina Kuhári.