誰もが簡単にできると思っている「ご飯を炊いて、いただく」ということ。私たちの働き方や暮らし方が確実に変わり続けているのですから、炊飯だって昔のままということはありません。あなたの知っているご飯の炊き方、本当に正しいですか?
ご飯の世界だって、常にアップデートしているのです。このコラムでは、あなたの暮らしがちょっと楽しくなる、お米やご飯に関する「ライスハック」をご紹介しています。
今回のテーマは、「お米の吸水」について。ご飯を炊くとき、お米を研いだ後に水を吸わせます。この吸水はご飯の味わいにどのように影響するのでしょうか?
疑問:お米の吸水は何のため?
炊飯とは、火と水の力で、お米のでんぷんを変化させること。結晶上につまった硬いでんぷん(=生米)を、軟らかく消化しやすいでんぷん(=ご飯)に変化させるには、沸騰に近い温度で約20分間の加熱が必要です。
日本のお米の場合は、鍋に水と一緒に入れて熱を加え、炊きあがった時にちょうどよく水が吸われている状態にする「炊き干し法」というやり方が一般的な炊き方です。
お米のでんぷんは、米粒の外側の細胞はもちろん、中心部の細胞までぎっしりと詰まっています。
お米に水を吸わせずに加熱をはじめれば、米粒の表面側からご飯に変化していき、中は硬いままになりがち。そのような状態を避けるために、あらかじめ米を水に漬けて中心部のでんぷんまで水分を行き渡らせておきます。これが吸水の役割です。
米を水に漬けておく時間は、夏の時期で30分~1時間、冬の時期で1~2時間がよいと一般的に言われています。
この時間の違いは温度によってお米の吸水率が異なるため。同じ時間で比べると、水の温度が冷たいほどゆっくりと時間をかけて水を吸います。
お米を水につけると最初の15~30分で吸水が急速に進みます。その後、緩やかな上昇カーブをたどり、2時間ほど経過すると吸水量はほぼ飽和状態となります。吸水が大事といっても、ただ長時間漬けていればよいわけでもないのですね。
特に夏場は長時間漬けたままにしておくと雑菌の繁殖につながります。朝食用の炊飯のために前日の夜に米を漬けておく方は多いと思いますが、このような長時間の吸水を行う場合は、冷蔵庫に入れて水の温度が上がり過ぎないようにするのがよいでしょう。
実験:吸水せずに炊いたご飯はマズイのか?

では、この吸水作業を行わないと、どんなご飯が炊けるのでしょうか? 洗米しただけのお米(画像左)と、冷蔵庫で2時間しっかり吸水したお米(画像右)で炊飯実験をしてみました。
お米が十分に吸水されているかどうかを計る目安は、お米の色と硬さです。吸水が不十分なお米は半透明のまま光が透き通っていますが、吸水が十分なお米は真っ白に。米粒を爪の先で潰してみて簡単に粉状になったら吸水完了です。洗ったばかりのお米は当然のことながら硬くて割れません。

炊飯実験に使ったのはアルミ製の羽釜、お米の品種はコシヒカリです。この鍋を使って、同じ分量、同じ水加減、同じ火力、同じ時間配分で炊いてみます。
炊飯のコツは「沸騰の10分・蒸し煮の15分・蒸らしの10分」の時間配分。最初の10分は沸騰までにかかる時間です。この沸騰までにかかる時間が短ければ硬めのご飯になりますし、逆に時間をかけ過ぎると水分を含み過ぎてべちゃべちゃした食感のご飯になってしまいます。お米に水分を行き渡らせるちょうどよい時間が10分間です。
次の15分は、蒸し煮の時間。でんぷんの変化に必要な高温状態を保ちながら、煮る・蒸す・焼く、の複合加熱を行います。この時間が短いとでんぷんの変化が足りず、甘みの少ないご飯になってしまいます。
最後の10分は蒸らしの時間。余熱で熱を加えつつ、米粒の周りに残った水分を完全に吸収させます。蒸らしは、米の表面の細胞を崩し芯までふっくらとさせる大事な要素。炊きあがったら、すぐに飯返しをして表面についた水分を飛ばします。
試食:意外とイケる吸水なしのご飯

こうして炊きあがったのが、こちらのご飯。左が吸水なし、右が吸水2時間のご飯です。米粒の時とは一転、吸水なしのご飯はやや白っぽく、吸水2時間のほうといえば、お米全体が透き通ってつやつやに輝いています。
吸水なしのご飯が白っぽく見えるのは、水分が足りずでんぷんの変化が不十分なところがあるためです。
では、炊きたてを試食してみましょう。2つを比べてみると、吸水ありのご飯は粘りが強く、吸水なしのご飯には適度な歯ごたえと弾力を感じます。口のなかで感じる甘みはほぼ一緒ですが、吸水ありのほうがやや強めです。
こうして吸水あり・なしのご飯を同時に食べ比べてみるとその差はわかりやすいですが、吸水なしのご飯でも十分おいしくいただける炊きあがりです。
結論:すぐに食べ切るのであれば、吸水なしで炊いてもOK

家に帰ってきて食べるものがなく、すぐにご飯を炊きたいのだけれど吸水する時間が惜しい! そんなときは思い切って吸水なしでご飯を炊いてみましょう。
お弁当など冷めてからいただくご飯はパサパサになりやすいので、きちんと吸水したほうがよいです。
吸水なしでご飯を炊くときのコツは、できるだけ低い温度の水で炊き始めること。沸騰までの時間を長めにとって、その間に可能な限り水を吸収させます。鍋にお米と水をセットしたら、氷を2~3粒入れて炊くと水の温度が下がって簡単です。
「炊飯の手順はこうあるべき」とこれまでの常識にとらわれることなく、炊飯の仕組みを学んで状況に応じて炊き分けてみると、ご飯の楽しみ方がより一層広がります。
「おかわりは世界を救う」という理念のもと、日夜、ご飯をおいしくいただく方法を生み出し、その成果を多くのご飯好きのみなさんと共有するための活動を行います。合言葉は、もちろん「おかわり!」。美味しいごはんをいただくために、西へ東へと飛びまわります。