タイトルからも想像がつくとおり、『会話ははじめの4分がすべて――相手とうちとける最短・最速のコミュニケーション術』(箱田忠昭著、フォレスト出版)の著者は、「会話ははじめの3分33秒で決まる」と考えているそうです(つまり、"およそ4分")。
そこで「決まる」のは、4分以降の相手との関係性。その間に好印象を与えられれば成功だということです。しかし、そうでない場合は好印象を持たれず、面接や営業などの場面では"それっきり"になる確率が高いというのです。だとすれば、その4分の間になにをすればいいのでしょうか? 著者によれば、それは「雑談」。
もしかしたら、いまだに「雑談なんて時間のムダ」と思っている人がいるかもしれないので、あらためて確認しておきましょう。
雑談とはコミュニケーションの潤滑油。雑談によって空気が緩み、互いをよく知ることができ、好感が生まれてきます。(「まえがき すべてを決める4分間の攻略法」より)
雑談がうまいほど、相手とのコミュニケーションが円滑になるということ。しかし、そもそもなぜ「3分33秒」なのでしょうか? プロローグ「コミュニケーションの勝率を決める 最初の4分を支配する方法」を見てみましょう。
コミュニケーションは3分33秒で決まる
著者はつねづね、人との出会いは「3・3・3の法則」で決まると伝えているのだそうです。先に触れた「会話ははじめの3分33秒で決まる」という考え方の根幹をなすものですが、「3・3・3」を具体的に説明すると、次のようになるとか。
・3秒=会ったとたんの第一印象(容姿や服装などの外見)。
・30秒=挨拶・自己紹介・名刺交換等。
・3分=世間話・雑談。
(18ページより)
アメリカの心理学者レナード・ズーニンは、「初動の4分間(ザ・ファースト・フォー・ミニッツ)」という言葉を用い、相手との関係性は出会って4分間以内で決まってしまうと論じているといいます。その根底に根ざすのは、「実際にどうすれば最高の出会いが生まれ、相手によい印象を与えることができるか」という考え方。そして著者が提唱する「3・3・3の法則」(計3分33秒)は、ズーニンが語る「最初の4分」をさらに具体的なステップに分解したものだということです。
「初動の4分間」の効力は、人間関係はもちろん、"しなければならないのに億劫に感じていること"にも有効に働くそうです。つまり、初動の4分間さえ乗り切れば、その後は慣性が生じ、時間を忘れて作業を完遂できるということ。
そして人間関係においても、その4分間で相手が抱いた印象が残り続けるというのです。だからこそ、この時間内にさまざまな労力を注ぎ込むだけで、コミュニケーションにおける勝率を一気に高めることができるということ。(18ページより)
30分の雑談より4分の雑談が効く理由
4分ですべてが決まるといっても、「雑談は4分以内に切り上げなければならない」ということではなく、「最初の4分に注力しよう」ということ。4分の間で相手に好印象を与えられれば、そのあと長々と雑談しようが、まったく問題ないという考え方です(とはいえ、雑談は長ければいいというわけではないのもまた事実)。
ここで紹介されているのは、アメリカの心理学者ロバート・ザイアンスがまとめた「ザイアンスの熟知性の法則」。次の3つの法則には、雑談をして相手とよい関係になるためのヒントが隠されているといいます。
・第1法則=人は知らない人に対しては攻撃的、批判的、冷淡になる。
・第2法則=その人を知れば知るほど好意をもつ。
・第3法則=人はその人の人間的側面を知ったときさらに好意をもつ。
(24ページより)
まずは第1法則。相手にとって自分が「知らない人」であるうちは相手の警戒心も強く、反応がネガティブだということ。しかし、あきらめずに何度か挑戦していると、第2法則にあるように、相手はだんだん慣れてくるもの。人見知りの人でも、恐怖心はなくなってくるといいます。時間ではなく、回数がものをいうわけです。
そして、より好感度をアップさせたいのなら、第3法則にあるように「人間的側面(仕事以外の面、プライベート)」を知ってもらうべき。しかしそのためには、自分をオープンにしていく「セルフディスクロージャー」が必要だとか。出身地、出身校、血液型、干支、好きなタレント、趣味、休日に過ごし方など、「自分はこういう人間です」という情報を開示していくということ。そこまでできれば、相手は完全に警戒心を解き、好意を抱いてくれるそうです。
でも逆に、この法則を理解していなければ、雑談はいつまでたっても非生産的な時間つぶしのまま。だからこそ、相手に好意を持たせるためには無為な時間ではなく、質と回数が大切だということ。また、30分の雑談を1回するよりも、4分の雑談を5日(回)に分けたほうが相手に残る印象は強くなるわけです。(23ページより)
人は雑談のほとんどを聞いていない
雑談を学ぶ前に外せないもうひとつのポイントが、「メラビアンの法則」。言葉の内容、つまり「なにを話すか」という「言語情報・メッセージ」よりも、声のトーン、見た目、態度などの「非言語情報・メッセージ」のほうが相手に与える印象が強いことを示したものだそうです。
・話の内容(言葉)が7%
・見た目の印象が55%
・声の印象が38%
(28ページより)
見た目の印象とは、具体的にいえば身振り、手振り、顔つき、視線、服装、態度などの目に映る部分。視覚情報が55%を閉めるわけです。そして声の大きさ、強弱、スピード、口調・トーンといった聴覚情報が38%。つまり両者を合わせると、93%が話の内容以外で決まるということ。
雑談というと、「なにを話すか」など、話の内容だけに目を向けてしまいがち。しかし、それ以上にインパクトの強い、見た目や話の仕方なども改善していく余地があると考えるべきだというのです。「なにを話すか」ではなく、「どのように話すか」をもっと考えるべきだということ。とはいえもちろん、話の中身・内容もまた重要であることに間違いはありませんが。(28ページより)
出会って3秒の第一印象を攻略する
アメリカの社会学者アービン・ゴフマンは、人は次のような順序で他人を判断し、「その人がどのような人であるか」を決めつけてしまうと論じているといいます。
1. 性別(男か女か)
2. 年齢(いくつくらいかな、自分より年上かな)
3. 外見(太っているな、背が低いな、美人だな、など)
4. 服装(金持ちそうだなあ、貧相な男だな、など)
5. 表情(こいつ、だいぶ緊張しているな、ニコニコしてずいぶん感じのいい人だな、など)
6. 視線(オドオドしている目つきだな、キョロキョロしているな、など)
7. 態度(ずいぶんでかい態度だな、かなり気をつかっているな、など。ジェスチャーも含む)
8. 距離(親しければ親しいほど近くなり、偉い人や嫌いな人との距離は必然的に遠くなる)
(32ページより)
これら8つを相手は瞬時に判断するため、「すばらしい人」「イヤなやつ」「できる人」「できない人」「これからもつきあいたい人」「つきあいたくない人」などと評価されてしまうというのです。これを「瞬間決定(One glance)の法則」というのだとか。
1.性別、2.年齢の2つはどうしようもありませんが、3.以降は本人の力によって改善できるもの。私たちは面接、営業、接客、プレゼン、交渉、婚活、合コン、デートなど、ビジネスからプライベートまでのさまざまな場面で他人と出会います。そんなときはお互いに相手をチェックするので、そこでほとんど、その後の関係が決まるということ。そこで、すべてのコミュニケーションにはまず外見の改善が必要だと著者はいいます。
ただし服装や身なりだけではなく、相手に接したときの態度にも気をつけなければならないのは当然。受付でも、担当者と会うときでも、大切なのは目つき、顔つき、態度。具体的にいえば、オドオドしたり、そわそわした態度は厳禁。意識的に、物事に動じない悠然とした構えで、他人と接する必要があるわけです。
そのための対処法の第一は、場数をこなすこと。そしてもうひとつは、気後れするような要素をできるだけ排除すること。たとえば服装。相手よりもいいものを着ていれば、それだけで自信につながるものです。
最初の3秒では、一声かけるくらいはできるかもしれないけれど、雑談は不可能。できることは、表情や仕草、身なりなどの非言語コミュニケーションの分野のみ。でも、外見で内面を見くびられるようなことほどもったいないことはないはず。そこで、たった3秒でその後を台なしにしないためにも、この点を意識しなくてはならないと著者はいいます。(31ページより)
著者は、交渉、セールス、プレゼンテーション、時間管理などのコミュニケーションスキルの専門家。企業の教育研修、経営者から新入社員までを対象とした講演活動などを積極的に行っているというだけあって、本書の内容も非常に実践的です。「雑談力」を高めたい人には、必読の内容だといえるでしょう。
(印南敦史)