自身のブログや著書、ネットメディア等での執筆活動に加えて、最近ではテレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」やTOKYO MX「モーニングCROSS」への出演など、ますます活躍の場を広げているライターの北条かやさん。「ジェンダー論」や「現代社会における女性の生き方」といったテーマについて、さまざまな場で発信し続けています。
今年2月に上梓した『こじらせ女子の日常』は、数年間にわたって書き続けてきたブログの記事をまとめた、これまでの活動の集大成的な作品です。今回はこの新著に関することを中心に、ライフハッカー[日本版]編集長の米田が、ざっくばらんにお話を伺いました。
ライター。1986年、石川県金沢市生まれ。同志社大学社会学部卒業、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。著書『本当は結婚したくないのだ症候群』『こじらせ女子の日常』『整形した女は幸せになっているのか』『キャバ嬢の社会学』
自分自身が傷ついたり喜んだり、当事者になることが大事

僕は、今の時代情報を摂るだけでなく、自分で現実の扉をこじ開けるようにして「体験」をしないと、リアルなアウトプットはできないと思っています。発達を続ける情報化社会では、みんながすべてを「知っているつもり」になっていると思うんです。1度情報化され拡散してしまうと、会ったこともない人や行ったこともない場所も「ああ、アレね、知ってる知ってる」というように一瞬で消費されてしまう。でも、実際のところは誰もわかってないというような状況が生まれている。
だから、そういう世の中で"自分だけ"のコンテンツを作っていくにはやっぱり、「体験」は強いと思うんですよね。僕も初めて書いた『僕らの時代のライフデザイン』という本は自分の実験体験が基盤になっている本でしたが、その点は勝手ながら北条さんのご著書とも共通したものがあるのなかな、と感じています。
北条:そうですね。体験しないと書けないし、リアルな体験を繰り返していると、ふと筆が走る瞬間がありますよね。 米田:外側から見えているものと、対象の中に入って自分だけが感じる、受け取る情報って全然違いますよね。 北条:違いますね。自分自身が傷ついたりとか喜んだりとか、当事者になることは大事だと思います。でも、「当事者性」というのをあまり全面に打ち出してしまうと、時に「客観性が足りない」などの批判を受けることもあるのですが...。 米田:それもわかります。客観性はすごく大切ですし、基本です。でも、客観性を度外視して1度どっぷりとのめりこまないと、得られないもの、発信できないものもあると思います。それから、すべてを俯瞰して、分析をして書く、というやり方があるとは思うんですけど、僕はそれって必要なことだとは思いつつも、膨大な情報の洪水の中でやり出したらキリがないし、やればやるほど、何も言えなくなる、書けなくなるような気がするんですよ。なによりそこに自分の生活や実感が含まれていない、自分事化されてないものはあんまり好まないですね。リアリティを感じられないというか。安全なところから戦地を評論する人もいれば、戦場に行って弾が飛び交う中で取材をして、現実を伝える戦場戦争ジャーナリストもいる。当然、両方必要です。しかし、何かを伝えたりものを書いたりする人間にとって、「知ってるつもり社会」の中で、やはり「体験」は不可欠なことだし、コンテンツとしての強みを持っていると思っています。
北条:それについては、「リスクを取る」ということかもしれませんね。私は会社員時代もブログなどで文章は書いていましたが、フリーランスになってからの方が、僭越ながら確実にものを書く力が上がったと思っています。長いあいだ見てきてくださった編集者さんなどにも「文章力が上がったよね」と言われます。それはもしかしたら、リスクをとって生きる中で身に付けるべきものが身に着いてきた、ということもかもしれません。そんな風にこれまでの自分を振り返ったのが、今回の本だったりするのですが。
こじらせ=思春期を引きずっている?

で、結局気づくと43歳にもなって、いまだに三国志のDVDとか観てるんですよね。
北条:やっぱりそれはロマンですか? 米田:良いとか悪いとかの判断なしに好き! って感じられるんです。十数巻出ている三国志のドラマのDVDを眠る前に、毎晩のように観続けているんですよ。全80話くらいあるんですけどね。しかも通しで観るのは3回目なんですよ(笑)。 北条:3回目ですか! 米田:そんなことをプライベートでは未だにやってるんですよ。ファーストガンダムも1年に1回は全話必ず観てしまうし。 北条:でも、そういう気持ちってわかりますよ。私も『小悪魔ageha』を全巻集めていて、未だに読んでます。『姉ageha』っていうのもあるんですけど、そっちも読んじゃっているので、もう家の中が雑誌だらけですね。 米田:『小悪魔ageha』はコピーもグラビアも秀逸でしたからね。 北条:女の子らしいものがすごく好きだったり、年齢関係なくかわいいと思ったら子供服でも買っちゃったりとか。何だろうな? 女らしさを求められて生きづらいとか言いながら、いわゆる"女らしいもの"にも惹かれるというのがやっぱりあるんです。たとえば米田さんがガンダムや三国志のような少年っぽいものを、いまだにちょっと恥ずかしいなと思いつつも好きっていうのと、ちょっと似ているのかなと思います。ゴスロリファッションが好きなんですけど、やっぱりいまだに着たいなと思ってますし。年齢的にも卒業しないとなあ、と思うんですけど、願望を捨てきれないというか。
米田:卒業するべきなんですかね? 北条:思想の自由がありますからね。憲法で認められた思想の自由が(笑)。15歳やそこらで、社会を相対的に見る面白さに気付いてしまった
米田:北条さんは処女作の『キャバ嬢の社会学』から一貫して、「女性と社会」といったテーマを研究、執筆されていると思うんですけど、その根源となるものはどこにあるんですか? 北条:先ほど米田さんがおっしゃったことでピンと来たというか腑に落ちたんですけど、たぶん思春期を引きずっているんだと思います。父が学者だったので家に本棚にたくさん本があって、思春期の時から多読だったんです。 米田:幼少期に多読だった人間は引きずりますよね。 北条:そうなんですよね。沢木耕太郎さんの『深夜特急』のような本から、上野千鶴子さん、東浩紀さん、宮台真司さんなどいろいろな本がありました。そういう本を読んでいるうちに、「社会を相対的に見る面白さ」のようなものに、15歳やそこらで気付いてしまって。 米田:早熟ですね。 北条:教師にとっては少し嫌な子供だっただろうなと思います。その中の1つに「ジェンダー」というテーマがありました。ジェンダーも「男らしさ」「女らしさ」というものがフィットする人もいればしない人もいる、というところに着目するという意味で、やはり相対的な目線が求められるものです。思春期の時に読んだ社会学の本や学問批評というものの影響が、未だに残っているんだと思います。その意味で、先ほどの「思春期を引きずっている」というのは、とても腑に落ちました。 米田:その時期の夢や理想みたいなものが今も残っていて、心の中に自分だけの神様や司令官のような存在がいるんですよね。その教えや指令に基づいて自分は生きなければならないとどこかで思っていたりして。それは「宗教なき国」の人間が、自己の中で宗教を生み出しているようなものかもしれませんね。男だって生きづらい

「コスプレで女やってますけど」の真意
米田:北条さんのブログのタイトルは『コスプレで女やってますけど』ですが、じゃあコスプレしていない本当の中身はなんですか? 北条:そう思われますよね、やはり。 米田:僕も男装とは言わないですが、「おじさん装」をしていると思ってます。 北条:年齢相応の編集長として? 米田:いやそれが上手くおじさん装できてなくて、なぜだかわからないけどこういう状況があるんですが、(編集長として)"プレイ"をしなきゃならないこともあるんですよね。だからみんな、日常や仕事で中身は全然違うけど、なんらかのプレイしているのかなと思って。 北条:そうかもしれないですね。『コスプレで女やってますけど』というブログのタイトルについては、自分は生物学的には明確に女であるっていう認識はあるんですが、自分の中で「女らしさ」というのは身にまとうものというか、たとえばテレビに出演する時、メイクや服装、髪の毛など、本当に女らしくしてくださるじゃないですか。そういう時、やっぱりこれは被り物と思うけど、女装がワンランク上がるという楽しみもあって。 米田:それはやっぱり楽しいんですか? 北条:楽しい時もありますよね。 米田:コスプレとして楽しいということですね。 北条:そうですね。生物学的に女に近づいたっていう楽しみではなくて、コスプレしている楽しさなんですよね。 米田:バットマンみたいなアメコミとか戦隊もののキャラクターになるのと同じような感覚ですか? 北条:そうですね。そのコスプレをしている状態の自分で、コミュニケーションがうまくいくこともありますよね。女らしい社会性というのか、そうしたものはある程度身に付けないといけない部分があって。 米田:軍人における軍服みたいなもんですよね。 北条:そうなんです。時には軍服を着ないといけないときがあって、それで結果として仕事が上手く行くとか、社会性がある人だなって思われることはある思います。それは米田さんがおじさん装をしているというのは、同じようなことなのかなと。社会から求められる「女らしさ」「男らしさ」というジェンダーロールや「年齢相応」といったような価値観によって、生きづらさを感じている人は多いと思います。しかし、それらを「コスプレ」だと捉えることによって、もしかしたらそういった状況も楽しみながら生きていくことができるのかもしれませんね。
(聞き手/米田智彦、構成・写真/ライフハッカー[日本版]編集部)