「感情」というものに、日々どうやって向き合っていますか? 喜ぶ、怒る、哀しむ、楽しむ...といった基本的なものにとどまらず、私たちは言葉にしにくいさまざまな「感情」に、揺さぶられながら生きています。

何気ない一言にムッとして1日中気分が悪くて寝られなくなってしまったり、ちょっとしたミスをしたときに周囲は「大丈夫だよ」と言ってくれているにも関わらず、自分だけがずーっとクヨクヨし続けて作業効率が悪くなってしまったり。感情に振り回されて疲れ切ってしまうことも少なくありません。

もし、さっと気持ちを切り替えて、自分の感情をすっきりとコントロールできたならば、どんなに人生がスムーズになるでしょう。実は、感情をコントロールするコツは、私たちの「身体」にあります。

今回は、元宇宙物理学者であり、「身体と心はつながっている」を大前提に心身のケアをするボディワーカーの視点で上梓された、小笠原和葉さん著の『システム感情片付け術』(日貿出版社)の中から、感情コントロールのためのセルフケア術をご紹介します。

感情の"巻き込み力"

「感情は"巻き込む力"がすごい」と著者の小笠原和葉さんは言います。感情はふいにやってきたかと思うと、まるで台風のようにその渦の中に私たちの日常生活を放り込んでしまいます。

たとえば仕事上で何かトラブルが起きたとき。「なんでそんなことが起きたのか!?」と驚き、怒ったり。上司に怒られて落ち込んだり、クヨクヨしたり。それを引きずったまま家庭に帰って、パートナーや子どもの相手をちゃんとしてあげられず、そんな自分に落ち込んだり。もちろん反省することが必要なときもありますが、必要以上に「なんで、私は...」と負の感情に向き合うと、ドツボにはまってグルグルとしてしまいます。

逆に「ポジティブシンキングせねば!」と、ほんとうの感情と見せかけの自分がちぐはぐになってしまうことも。1つの事柄が引き起こした感情は、次々に別の負の「感情の連鎖」を生んでいき、人生の貴重な時間を長々と心優れない状態で過ごすこととなります。

でも、同じような事件が起きても「なるほど!こう来たか...」とその事実だけを冷静に受け止め、柔よく剛を制すといった感じでその事柄に淡々と対処できる人や、サクッと切り替えて次へ! と非常に軽やかに動ける人も存在します。つまり、起こった出来事に反応し、感情を作り出しているのはあくまでも「自分」なのです。

本書の中では実に理系的に「感情とは神経系の興奮」であり、不安や恐れなどのネガティブな感情はこうした外界からの出来事やSNSなどから氾濫する「情報という刺激に対する炎症反応」であると位置付けています。

と言っても、感情あってこその人間。感情が揺れ動くからこそ、人生がより豊潤なものになっていきます。感情を慈しみ味わいながらも、グルグル、モヤモヤとする部分をすっきり整理整頓して、なるべくゴキゲンに生きていきたいですよね? 日々押し寄せる感情に巻き込まれずに対処する方法の引き出しが多ければ、きっと人生はより生きやすくなるはず。では、そのためにはどうしたらよいのでしょうか?

感情のお片づけをしよう!

著者が提案するのは、自分の心を「部屋」に見立てて「感情のお片づけ」をしていくこと。

今自分の感情に困っているのであれば、まずやるべきことは、ゴチャゴチャとした感情を"自分の心"という部屋の片隅に寄せておいて、落ち着いてひと息つける、そんな場所をつくること。感情を完全に消し去るのではなく、感情が散らかって居場所がなくなっていたところに、自分にとって心地よいスペースを取り戻してあげること。つまり「苦しくなくなること」これが「システム感情片付け術」のゴールです。

(P25より抜粋)

不要な物を処理して、人生に調和を取り戻す手法としてお片づけ術や断捨離が大ヒットしましたが、始めるときにちょっとしたコツを知っているととてもやりやすくなるもの。著者は「デフラグ」というコンピューター用語をつかって感情の片づけを説明しています。パソコンが重くなったときに、デフラグという処理をして情報の散らばりを整理するとハードディスクに容量が増加し、動きが良くなる、そのイメージです。

感情を整理するデフラグ・ワーク

本書の95ページより、パソコンをリフレッシュするように、自分の心をふわっと軽くするデフラグ・ワークをご紹介しましょう。

  • どんなに細かいことでも頭の中で自分が気になっていることを書き出してリスト化してみる。
  • リストの項目1つずつの重要度を5段階で評価する。
  • リストの項目1つずつのココロの圧迫度を5段階評価する。
  • リストの項目1つずつに対してどういうアクションをとるかを決めて書き入れる。

言ってみれば、ToDoリストの延長のようなものですが、ToDoリストと違うのは、感情の渦から抜け出す、心の整理が目的だということ。重要度だけでなく、どれだけその案件が心の中のスペースを占めているかを可視化するのです。たとえば「ゴミを朝出す」など些細なことでも、意外と自分の中では大きな負担になっていることもあるかもしれません。もちろん実際行動に移さないと解決しないこともありますが、ここでは「とりあえず心の中がスッキリと片付く」ことが大事。自分がどんなことに感情を揺さぶられるかちょっと俯瞰で見てみる。そうすることで心が整理整頓され、ほんとうに自分がとるべき行動も見えて来るはずです。

カラダのシステムを知るとココロが軽くなる

本書にはこうした感情のお片づけのコツが、「身体と心のつながり」を基礎として、さまざまな角度から提案されています。ココロが晴れないなら、まずカラダから。現代人はその仕事の多くを、パソコンを使って頭と手だけでこなせてしまいます。その結果、身体の隅々にどんな機能があるのか、なにが私たちを実際に生かしてくれているものなのか、忘れてしまいがちです。実は身体の各部位に意識を持っていくことだけで、動物的な個体としての人間の機能が高まります。

自分の足が床にしっかりとつき、その下にある地面とのつながりや感覚を味わうこと。自分の背面にも大きな空間が広がっていることをちゃんと意識すること。肺の大きさを知るだけで呼吸が楽になる。心臓の鼓動を聞くだけで生きている実感が高まる。そうやって、自分の肉体としての存在を確かめることから、世界とつながり、宇宙とのつながりを感じていく。そうして、宇宙を感じながら感情を俯瞰でちょっと観察してみる。すると、気づけば感情のモヤモヤは来たときと同じように風のようにフワッと去っていきます。

また、逆説的でありますが、左脳に傾きがちな現代人は「アタマでシステムを理解する」という過程を経たほうが「ちゃんと腑に落ちる」こととなり、結果的に身体と心が連動してくることも少なくありません。たとえば子どものころにお母さんや学校の先生から教わった「深呼吸をすると心が落ち着く」のは、呼吸器系と自律神経系の連動を利用した非常にシンプルなテクニックの1つですが、その仕組みを知るだけで一層効果が高まる気がしませんか? 理系ボディワーカーならでは視点で「身体と心のつながり」を通じてロジカルかつシンプルに解決する方法が提案されている本書は、そういう意味でも現代人が手に取りやすく、実践しやすい1冊といえるでしょう。

もう感情に巻き込まれない! 嗅覚の活用法

本書では「身体1つあればできる」感情のお片づけ術が掲載されていますが、アロマセラピストである私からも1つご提案。身体と心のつながりを利用して、瞬時に感情を明るいほうへとチューニングする方法の1つが、嗅覚を使うことです。脳は理性的な場所「大脳新皮質」と本能的な「大脳辺縁系」、生命力の源である「脳幹」などに分かれています。五感のなかでも嗅覚は、ダイレクトにこの本能の座である「大脳辺縁系」へと働きかけることが知られています。アロマセラピーはこの身体のシステムと、さまざまな香りの印象を使い分けることで、私たちの気分をコントロールする手法です。

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【re:treat】シリーズでは、明るいレモンと知性的なローレルが心を上向きにする「SUN」、ラベンダーやマージョラムなどのじんわり優しい香りが心を労わる「MOON」、ローズマリーやバジルの香りが気持ちを瞬時に切り替えヤル気スイッチを入れてくれる「DIGITAL DETOX AROMA」の3種類をご用意しています。こうしたアロマミストを数種類職場のデスクに常備しておくと気分によって使い分けられるのでおすすめです。

感情に巻き込まれそうになったら、シュッとひと吹き。目を閉じてしっかり香りを感じてみてください。目を開けたときには、さっきとはちがう世界が開けているはずですよ。

小松ゆり子/パーソナル・セラピスト

komatsu_profile2014.jpg音楽、カルチャー、リラクゼーションを融合する「relacle」「CHILL SPACE」スーパーバイジング・ディレクター。南青山のプライベート・アトリエ「corpo e alma」を中心にセラピー・セッションやセミナー活動を行う。東洋的な押圧とロングストロークやストレッチングを多用し、植物や鉱物の力をフュージョンさせたオリジナルメソッド「VITAL touch therapy」を提唱し、密度の濃い「パーソナル」なスタンスでオーダーメイドの施術を行っている。約12万人以上を動員する音楽フェスティバルSUMMER SONICで10年連続セラピーブースを展開するほか、新宿のシェアオフィス「HAPON」でのオフィスリラクゼーション、アパレルブランド「かぐれ」でのセラピーや講座など他業種とのコラボレーションも多数。現代人が都会でバランスを保ちながら生き抜く知恵やプリミティブな五感を取り戻す方法をさまざまな角度からナビゲートする。
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