こんにちは。ベルリン在住生け花アーティストの小野里衣(おの・りえ)です。

ライフハッカー読者にはお子さんをお持ちの方も多いと思いますが、「6才の子どもたちが自分たちだけで焚き火をする公園がある」、と聞いたらどう思いますか?

少なくとも私だったら「危ないしありえない」と思います。しかし、実際にそんなことをあえて子どもたちにさせている公園が、ここドイツの首都ベルリンにはあります。そんな私の固定観念を覆した独創的な公園「Kolle37(コレ37)」をご紹介します。

子ども本来が持っている能力を引き出す場所

今回の訪問は、北海道の倶知安(くっちゃん)に住む大工、藤井英樹(ふじい・ひでき)さんと、そのご友人であるフリーの編集者、山本梓(やまもと・あずさ)さんからご連絡をいただいたことがきっかけで実現しました。藤井さんが、この公園と同じようなコンセプトの公園を北海道に作りたいので見学するために通訳で同行してもらえないだろうか? と友人経由でコンタクトをいただいたのでした。

公園内を案内してくれたのは、Kolle37運営メンバーの1人であるMarcus Schmidt(マーカス・シュミット)氏です。到着してからマーカスさんにお話しを伺い、その後1時間くらいかけて公園内を回りました。以下、藤井氏がシュミット氏に投げかけた質問をベースに、Kolle37の魅力をお伝えします。

160523kolle_marcus1.jpg
(左)園内を案内してくれた運営メンバーの1人、マーカスさん。(右)北海道倶の知安町に住む大工の藤井さん。藤井さんの公園作りに向けた熱い思いから今回の訪問が実現しました。

藤井:この公園は、大人立ち入り禁止ということですが、それはなぜですか?

マーカス: この公園は、子どもたちが自由に遊び、同時に社会参加の方法を学ぶことができる場所、というコンセプトの元に運営されています。具体的には、子どもたちだけで木材を使って家や遊具を建てることもできますし、焚き火をすることもできます。すべて子どもたちの自由意志によって集まったグループが自主的に作りたいものを作るんです。時には自分の身長を遥かに超えたものを作ることだってあります。

そんな時に、自分の親、特に母親が近くにいると、どうしても「危ない」という気持ちが先に来てしまいます。親の不安という感情は必ず子どもに伝わるので、その感情が事故につながってしまうのです。もちろん母親が子どもの危険を察知するというのはとても大切なのですが、実は子どもは何が危険を引き起こす要因になるのかを真に理解すれば、自分たちの力で危険は防げます。また、1人では作れないような大きなものを作ることがほとんどなので、まずは友達を作る方法、そして、グループのみんなで協力する方法を学んでいきます。

もちろん、現実的には、子どもだけで家や遊具を建てることはできません。そこで、公園内に大人の職員が常時2名いて、子どもたちとコミュニケーションをとったり、何かの作り方を教えたりしています。しかし、基本的には子どもたちだけでやり遂げられるように見守るのが職員の役割なので、上から目線でやり方を教える、といったことは一切しません。あくまで「子どもたちが作りたいものは何か」を聞いて、それに合わせて職員が安全な方法と手段を子どもに提案するのです。

Kolle37で大人を立ち入り禁止にしている理由は、子どもを親から離れたところに置いて自立心を促すためなのです。

160529kolle2.jpg
(左)職員が安全な方法を提案し、子どもたちだけで作ったブランコ。(右)子どもたちだけで制作中の木製の家。

公園というより、秘密基地

藤井:子どもに遊び方を教えてあげたりすることもあるのですか?

マーカス:もちろんありますが、子どもは本来、大人の想像を遥かに超えた自由な発想を持っていますので、運営側は危険のないように遊ぶのをサポートをしてあげるだけです。

その際にも、運営側はコミュニケーションの方法に気をつけます。例えば、この公園では、雪のない4月から10月までの間に子どもが木材の家を建ててそれを残しておくことができます。万が一、4m以上の高さから落下すると、深刻なケガをする可能性が出てくるのですが、その際にも決して、4m以上の高さのものを建ててはいけない、といった禁止するような言い方はしません。「もし君たちが4m以上の高さから落ちて大変なケガをしてしまったら、僕たち職員はどうやって君たちのご両親に説明していいかわからないよ」といった言い方をすれば、子どもは自分でこちら側の気持ちや、何が起こるのかを理解し、じゃあ4m以上の高さのものは作らない、と約束してくれます。子どもは大人が思っているよりもずっと物事を理解できるし、こちらも子どもたちを信頼し、きちんとした信頼関係を築けるような説明をすれば、自ら危険を回避する行動をとります。

160522house_making1.jpg
家を作る際は、まずこの模型を作ることから始めて、どのようにしたらいいかを教える。

160522tools1.jpg
公園内にはさまざまな道具、木材、部品が置いてあり、公園というよりもむしろ秘密基地のよう。

大人が子どもにただ何かを与えることはない

Kolle37ではランチを食べたり、公園の外から持ち込んで食べることもできます。

マーカス:子どもによっては、さまざまな理由で、親がランチを作る場合もあれば、ランチを食べるお金を用意できない場合もあります。ここでは毎日ランチを作って子どもに提供していますが、親からお金をもらえない子どもたちは事前に職員の手伝いをすることで、園内だけで使える「グリーンカード」という仮想通貨をもらってランチを食べることができます。さらに、週末に自らここでパンを焼き、それを大人に売ったお金を資金にして平日のランチを食べている子どももいます。また、グリーンカードは、新しい釘20本に交換することもできます。古くて曲がった釘2本をどこかで拾ってくれば新しい釘1本に交換もできます。子どもにただ何かを与えるのではなく、どうすれば欲しいものが手に入るか、子どもに自ら考えさせる仕組みになっています

160522kore11_workshop1.jpg
子ども向けに溶接ワークショップが開催される場所。このワークショップに参加するためにも、仮想通貨「グリーンカード」が必要です。

地域に支えられ、愛される、子どもだけの場所

そんなユニークな公園「Kolle37」は、ベルリンの中心部に近い、元は東ベルリンであったプレンツラウアーベルクという場所にあります。プレンツラウアーベルクは、東京でいうところの自由が丘のような場所です。町並みは非常にモダンで、たくさんのオーガニックスーパーマーケットとお洒落なカフェがあり、子どもがいるファミリー層が多く住んでいます。ちなみに、このような公園の発祥の地はデンマークで、その後、西ドイツにいくつか広まり、Kolle37はベルリンの壁崩壊直後の1990年に作られ、今日まで運営されているそうです。

藤井:この公園そのものの運営は、どのように成り立っているのですか?

マーカス:地域のコミュニティから毎年運営資金をもらっているのと、善意ある方々からの寄付金、また、訪問者からの募金等で賄っています。そのほとんどが職員の給料や光熱費でなくなります。給与は決していいとは言えません(笑)。でも、子どもたちのため、という気持ちもありますし、何よりも自分たちも子どもたちと一緒に過ごしていて楽しく、学べることも多くあります。職員はみんな、そういった思いを持っていますし、地域からも理解と信頼を得ているので、この公園はこれからも続いていくでしょう。

最近では、この付近にある難民の方々が暮らす地区から子どもたちが訪れることも多いそうです。ここに来る子どもたちは誰も、親の経済事情や出生の違いについて気にすることはなく、みんなで楽しく遊び、学んでいる、とマーカスさんは言います。

160522marcus11.jpg
終始笑顔で熱い思いを語ってくれたマーカスさん。藤井さんが日本から持って来た折り紙をもらって嬉しそうでした。

ベルリンは東京に比べれば規模は小さいですが、こんな都会の真ん中に、子どもたちが服を汚すことや周りに迷惑をかけることを気にせず遊べる場所があるのは素晴らしいことだと思いました。そんな場所が、熱い気持ちと思いやりを持った人々によって運営され、地域社会のサポートを得ているのも特筆すべきことだと思います。

ベルリンに来ることがあれば、ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか?

Kolle37(ドイツ語)

(文/小野里衣、写真/山本梓)