99u:誰でも密かにやってみたいと思う個人プロジェクトを持っています。でも、やらない理由をいくらでも思いついてしまい、実行に至りません。一番大きな理由は、そうしたプロジェクトはお金にならないし、すぐ仕事の役に立つわけでもない、つまりはまったくの時間の浪費であるというものです。
しかし、個人プロジェクトを将来の投資と考えれば、自己を育て、可能性を広げる大事な役割があることに気づきます。個人プロジェクトの成果はさまざまな形で現れます。クライアントからの依頼に結びつくこともあれば、やりたいことを思いっきりやったり、行き詰まりを打破したりする機会になることもあります。また、アーティストとしての準備をする、休暇旅行をより一層楽しむ手段にもなります。
それでは、実際に取り組む価値があるプロジェクトと、空想にとどめておくべきプロジェクトをどうやって見分ければいいでしょうか? 今回は、あなたの創造性とキャリアを高めてくれる5つの個人プロジェクトを紹介します。
1. 「仕事の依頼につながるかもしれないクレイジーなアイデア」プロジェクト
クリエイターとして売りだしているなら、頼まれた仕事をこなすだけでなく、自らコンテンツを創造する必要があります。ベテラン写真家のTim Tadderさんはこのことをよく理解しており、毎年自腹で独自の作品を撮影しています。Tadderさんは、こうした個人プロジェクトを、独自のコンセプトを実験するとともに、ブランド企業に自分を売り込むためのマーケティングツールだと考えています。ブランド企業はちゃんとそれに気づいてくれます。「個人プロジェクトにたくさん取り組めば、それだけいいことが起きる」とTadderさん。
昨年、Tadderさんは、地元である南カリフォルニアで開かれた、カラフルで終末感漂うメキシコのストリートフェスティバルに触発され、オリジナルな世界観をもつ一連の作品を撮影しました。
その写真を『Las Muertas(死)」というタイトルでBēhanceに投稿したところ、メキシコのビール会社Cerveza Victoriaから、広告キャンペーンに使う写真を撮影してほしいとの依頼が舞い込みました。ですので、あなたもTadderさんのように、仕事つながる可能性のある個人プロジェクトに取り組んでみてください。結局のところ、企業は、あなたがやりたい仕事ではなく、やってみせた仕事を見て、あなたを雇うのです。
2. 「やりたいことを思いっきりやるんだ」プロジェクト
いつも頭の片隅にあって、そのことについてならいくらでも話せるアイデアはありますか? 25歳のフリーライターだった私にとってそれは、ニューヨークはロウアーイーストサイドにある肉屋の3代目、ジェフリーでした。ジェフリーは、いつもニヤニヤと笑い、タバコと胃薬を食べて暮らしていました。どうやって仕事を覚えたの? と尋ねると、「お前さんだってチキンを百万羽もさばきゃあ、チキンのさばきかたなんざ勝手に覚えちまうよ」と、ときどき放送禁止用語を交えながらあけすけに答えてくれる人物でした。私はそのユニークなキャラクターに魅了され、やるなら彼しかいないと思っていました。あるとき私は、週末に店を手伝うからあなたの人物紹介を書かせてくれないか、と頼んでみました。そして、自分はプロのライターではなく、ただのジャーナリスト志望の若者だが、自分がクールだと思うストーリーを書いてみたいのだ、と伝えました。
ジェフリーは、いいよ、と言ってくれました。私がプロのライターじゃないことなど気にもしていないようでした。そのことは、週末に顔を出した私に、血痕だらけのエプロンが投げつけられ、恐ろしいほど鋭利な包丁が無造作に手渡されたときに身に染みるほどわかりました。とはいえ、それは実に素晴らしい体験でした。冷凍庫からやってくる冷気のせいで、メモをとる指が凍りつきそうになるのをのぞけば...。なによりうれしかったのは、このストーリーを書くとき、うるさい編集者から注文をつけられたりしなかったことです。私は筆が進むにまかせて好きなだけ文章を書きつらね、最終的には3692ワードにも達しました。
ストーリーを完成させるのに数週間を要しましたが、どこかに発表するあても、3692ワードもの肉屋の話に興味を示してくれる編集者もいませんでした。それでも、まるで作家になったような気分を味わうことができて、とても充実感がありました。本物のジャーナリストが書くみたいな長い記事をものにできてとてもうれしい気持ちになりました。記事が完成すると、両親と当時気になっていた女の子に読んでもらいました。両親はとても褒めてくれましたが、女の子の反応はかんばしくありませんでした。でも、そんなことはどうでもよかったのです。とにかく、書きたいものを書きたいように書けた、そのことが重要でした。この記事は、私が書いたものの中でも特別に思い入れがあるものの1つになっています。
3. 「行き詰まりを打破する」プロジェクト
毎日同じような作品を作り続けるのに行き詰まりを感じているなら、そこから脱出させてくれる何かを探してください。たとえば、ロサンゼルスの製作会社DocRiotを運営するBrian Davisさんはどうしたでしょうか? 同社は主に、Fed Ex、AMC、Kiaといったブランド企業のマーケティングビデオを製作しています。
昨年、Davisさんは、素晴らしいと思う映像が、ブランドの要望のためにどんどん編集で削られていくことに嫌気を感じていました。「完全に自分の思い通りに何かを創作してみたかった」と彼。「そんなこんなで、長編映画のプロジェクトを探し始めたんだ」
とはいえ、Davisさんはハリウッドには行きませんでした。むしろ逆の方向を目指し、『The Million Dollar Duck』を監督することにします。これは、政府が毎年募集する、カモ猟免許スタンプのためのカモの絵を競う大会に命をかける、在野のアーティストたちにスポットを当てたドキュメンタリーです。こうしてDavisさんは、スタンプを作る人の映画なんてどこが面白いんだ? から、いったい誰が見る? まで、さまざまな難題と向き合うことになりました。Davisさんは、ダコタ州に数週間滞在し、池やカモの群れの中で撮影する日々をおくり、それを心から楽しみました。
できあがった映画は、情熱がにじみだすような、毎日、誰に注目されることもなく、ひとつのことを真摯に追いかけ続ける人たちの、心温まる物語になっていました。今年の1月、ディスカバリーチャンネルがこの映画にスポットライトを当て、「アニマルプラネット」で放映することが決まりました。しかし、Davisさんにとって本当の収穫は、クリエイターとしてのキャリアが行き詰まっていたところに、創造性をリフレッシュする機会を得られたことです。「こんなに映画づくりを楽しめるなんて、大収穫だったよ」とDavisさんは語っています。
4. 「アーティストの道具箱をそろえる」プロジェクト
個人プロジェクトが、将来のより大きなプロジェクトへの準備となることもあります。たとえば、私は大学生のころ、弟と一緒に本を書いたことがあります。タイトルは『Dysfunction Junction(機能不全の交差点)』といい、我が家に酷似した架空の家族の物語でした。このころ私は、期末レポートくらいでしかまともに文章を書いたことがありませんでしたが、将来は作家になると心に決めていました。なので、ちょっと変わった小説で腕試しをしておけば、年をとるまでに(たとえば25歳とか)2冊めの本を書いてベストセラーを狙えるだろうと目論んだわけです。
何カ月かかけて、弟と私は代わる代わる物語を書きつらねていきました。さまざまなシーンを描き、これが自分の家のことだと知ったら祖母が激怒しそうなジョークを書き入れました。物語が完成したときには100ページを超えていました。まるで本物の本みたいだと思いました。
この処女作が出版されることはありませんでした(がっかり!)。とはいえ、この本に取り組んだおかげで、このくらいの規模の作品が自分にも書けることがわかりました。何年かあと、もう少し真剣な気持ちで2冊めの本に取り組んだとき、まったく初めて小説を書いたときよりはずっと楽な気持ちで挑むことができました。Dysfunction Junctionに取り組んだおかげで、アーティストの道具箱がひと通りそろっていたからです。
5. 「休暇旅行をより一層楽しむ」プロジェクト
今度休暇旅行にでかけたときには、思いっきり仕事をしてください。おっと、まだ帰らないで、最後まで聞いてください。休暇旅行中に仕事をするなんて、休暇の意味がなくなるように思えますが、そんなことはありません。たとえば、あなたが写真家で、アイスランドに探検旅行に行くのなら、ついでにポートフォリオを撮らない理由はありませんよね? あなたがイラストレーターで、インドを旅行するのなら、目の前のカラフルな情景をあなたのセンスで紙に写し取るべきでは? 休暇旅行だからこそ、お金にならない仕事に気兼ねなく時間を使うことができるのです。
とはいえ、それほど気負い込む必要はありません。あくまでマイペースでやればいいのです。一番の目的は、好きな作業をしながら周りの環境をよく観察し、楽しむことです。もちろん、クライアントに提案できるような新しいアイデアを持ち帰ることができたら最高です。たとえそうでなくとも、素晴らしいお土産にはなるはずです。そうした作品は、世界の片隅であなたの芸術性が輝いた証なのですから。
The 5 Types of Personal Projects (And How You Can Justify Pursuing Them)|99u
Matt McCue(訳:伊藤貴之)
Photo by PIXTA.