パリピ経済 パーティーピープルが市場を動かす』(原田曜平著、新潮新書)の著者は、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。若者の消費行動・ライフスタイルの研究と、若者向けマーケティングが専門で、著書も多数。なかでも「マイルドヤンキー」の生態を明らかにした2014年の『ヤンキー経済 消費社会の主役・新保守層の正体』は大きな反響を呼びました。

そんな著者が目をつけた今回のテーマは、タイトルにもなっている「パリピ」。

パリピとはパーティーピープル(party people)の略。パーティーピープル→パーリーピーポー→パリピ。その名の通り、パーティーやクラブイベントに代表されるような、賑やかでキラキラした集まりに参加して大騒ぎするのが大好きな若者たちのことを指します。(「序 ハロウィンを流行らせたのは誰か?」より)

ハロウィンを成長させたのもパリピなのだとか。彼らが2008、09年ごろから盛り上げたことから、ハロウィンは一大イベントに成長したというのです。つまり、かつては大人が仕込んでいた若者トレンドは、現在、大人がつくったシステムの外で生まれ、場合によっては、大人たちに知られることのないまま拡散していくということ。そして、その立役者として機能しているのがパリピだというわけです。

でも、そう聞いただけではいまひとつ"パリピ像"がつかめません。そこで第3章「フィクサー、パリピ、サーピー、パンピー」から、その実態を抜き出してみましょう。多くの若者の間にトレンドが伝搬・拡散するプロセスは、フィクサー→パリピ→サーピー→パンピーという集団の順を経ることが多いというので、トレンドを追う若者たちのヒエラルキー(階級構造、上下関係)も見えてきそうです。

フィクサー【イノベーター】

フィクサーとはトレンドの発信者、もしくは国内にそのトレンドを最初の方に持ち込む若者のこと。著者の調査によると、属性的な特徴は大きく4つあったのだそうです。帰国子女(おもにアメリカ)、DJやカメラマンといったクリエイター、幼稚舎から慶應生であるなどの内部進学者、ハイクラスな富裕層のジュニア、韓流好きなど。これらはパリピともかぶる要件だそうですが、それぞれの属性のなかでも、特に「上澄み」の集団がフィクサーなのだといいます。

誰よりも早くトレンドを生み出し、あるいは海外から取り入れ、自分たちのライフスタイルで実践するのが彼らの特徴。また、何百人規模のイベントやハイクラスな店でのパーティーをオーガナイズするなど、遊びの規模も大きく派手。実家や親に買い与えられたマンション、クラブのVIPルームなどでプライベートなパーティーを楽しんだりすることも。

とはいえ信条は「自分たちの身内だけで楽しむ」ことであり、「いま、自分たちの間でなにが熱いか」は、外部にわざわざ見せびらかさない傾向にあるのだといいます。自分や自分と親しい(境遇の近い、感性の近い)友人の生活のクオリティがアップすることが目的なので、世間で流行るかどうかには関心がないということ。

だからこそ、フィクサー界隈だけにとどまる流行やアイテムも多数。たとえば、尖った感性でなければ受け入れられないものだったり、特殊なコネクションや財力がなければ手に入れられないイベントやアイテムだそうです。むしろフィクサーは、自分たちの遊びが安っぽく拡散されてしまうのを嫌う傾向すらあるのだとか。外野から騒がれることなく楽しむ、それが彼らの気質だということ。

そして多くの場合、フィクサーの近くにはパリピがいるもの。パリピは彼らが身につけるアイテムや動向を常に観察し、自分たちでも楽しめそうなものは積極的に導入するというのです。ただしフィクサーのなかには、トレンド拡散者としてのパリピを嫌い、近くに起きたがらない人もいるのだとか。(109ページより)

パリピ【アーリーアダプター】

パリピもフィクサーと似たような特徴を持っているものの、最大の違いは、「いろいろな人とつながりたい」「拡散したい」という強い意志を持っていること。自分たちが執心しているものを自分たちのなかだけで楽しもうとするフィクサーと違い、パリピはそれをたくさんの人と共有しようとするわけです。

なぜなら、自分がつながっている多くの友人たちに、「楽しさ、うれしさを伝えたい」という思いがあるから。著者はそれを「ハッピー伝播欲」と表現していますが、そんな強い思いが、パリピを膨大な自撮りやSNS投稿に駆り立てるというのです。

いわば「閉じている」のがフィクサーで、「開いている」のがパリピ。そこで必然的に、人間関係数はフィクサーよりもパリピのほうが多くなるわけです。とはいっても、パリピとフィクサー、パリピとサーピー(後述しますが、大学のサークルを軸とする"サークルピープル"の略称)の境目はやや曖昧で、パリピのトップがフィクサーばりの影響力を持つこともあれば、パリピとサーピーの間を埋めるクラスタ(集団)の存在も。

そんなパリピについて著者は、「フィルター機能」を持っていると指摘します。フィクサー内で流行っているもののなかから、一班にも流行りそうなものを「漉す」役割を担っているのがパリピだというのです。事実、著者が取材したパリピのなかには、「パリピ界隈でちゃんと流行ったものは、1年後か2年後にサーピーが飛びつくイメージ」だと語っていたのだとか。

また、サーピーのように必ずしも学内のサークルにべったり所属してはおらず、むしろ学外とのつながり、学校や年齢を超えたつながりに喜びを見出そうとするのがパリピ。だからこそ彼らは、いつも狭いサークルのメンバーだけで群れているサーピーを見下す傾向にあるそうです。

なお、パリピのサブカテゴリに含まれる存在がサブカルパリピ。基本的にクラブイベントやパーティー、アウトドアイベントを楽しむパリピとは異なり、ファッション、音楽、写真、アートなどのジャンルに特化したアーリーアダプターのことです。

少し意外なのは、この「サブカル」にマンガ、アニメ、ゲームなどオタク分野は含まれないということ。30代以上の人々の認識とは違って、「サブカル=ファッション・音楽・写真・アート」という捉え方がごく自然なのだというのです。

そんなサブカルパリピの特徴は、トレンドを消費するだけでなく、クリエイティブな態度でそれらと接していること。ファッションであればハイブランドだけでなく古着もチェックし、せめてコーディネートに挑戦。音楽面でもマニアックな音源をいち早く探し、DJとして自分で音づくりをすることも。写真やアートとの距離感の近さはいわずもがなです。

そんなサブカルパリピは多分にアーティスト志向があるため、自分がパリピだという意識は希薄。大人数が集うパーティーで騒ぐことがそれほど好きではないという人も多いそうです。とはいえ、フィクサー経由で最新のトレンドを取り入れ、トレンドリーダーとして拡散の役割を果たすという意味では、紛れもなくパリピの一部であると著者は分析しています。ちなみにサブカルパリピが地位をあげると、完全なフィクサーと化すのだとか。(121ページより)

サーピー/自称パリピ【アーリーマジョリティ】

フィクサーの項でも少し触れましたが、サーピーとはサークルピープル、つまり大学内の、特に遊び系サークル(イベント系、ダンス系)に属している人のこと。サークル単位で飲み会を開き、合宿やレジャーを楽しみ、イベントの参加写真を大量にSNSへ投稿するのが特徴。大人たちがイメージする「派手に遊んでいる大学生」の大半がサーピーに属するといいます。

しかしサーピーは、パリピが嗅ぎつけたトレンドを消費する"大衆"。そしてパリピとサーピーの最大の違いは、「パリピは人とつながること自体が第一目的だが、サーピーは情報を拡散することが第一目的である」ということ。

よって、自分がサークルという閉じられた集団内で影響力を持ちたいと思っているのがサーピー。したがってSNSのフォロワー数は、自分の影響力の証そのもの。多ければ多いほど、自分はトレンドの体現者であるという自負が生まれるということで、最初から影響力を狙っているわけではないパリピとは対照的なスタンスです。

賑やかな場所にいる自分を過度に誇示しようとするサーピーに対し、パリピは親しい友人さえ楽しければいいというスタンス。つまりパリピから見ればサーピーはあらゆる言動が「薄っぺらく、寒い」ということになるわけです。

なおサーピーのなかには自分がパリピだと思い込んでいる「自称パリピ」や、パリピになりたくて必死の「パリピワナビー」も。「パリピになりたい、パリピでありたい」と切望すればするほど、サーピーの地位からは抜けられないそうで、そこにはスクールカーストにも似た、非情な身分差が垣間見えると著者。(144ページより)

パンピー【レイトマジョリティ】

パンピーとは一般ピープルで、ごく平均的で地味な大学生のことを、パリピやサーピーがやや馬鹿にした呼称。パリピが目をつけた数カ月後、場合によっては数年遅れで、やっとそのアイテムやイベントに注目する人たちだといいます。

ちなみに2015年3月の調査時点で「すでにパンピーにまで行きわたった」と認定されたアイテムおよびイベントは、「自撮り棒(セルカ棒)」「オクトーバーフェスト」「リムジンパーティー」「ラブホ女子会」「EDM(エレクトロダンスミュージック)」「みたままつり」「ハロウィン」「ヘッドホン女子」「エナジードリンク」などだそうで、なんとなくわかる気がします。(150ページより)

地方出身パリピと地方在住パリピ

パリピには大学進学や就職を機に大都市部へ移住してパリピになった人と、もともと東京住まいで高校や大学時代にパリピになった人がいるそうですが、マーケティング的に重要なのは前者の地方出身パリピだと著者はいいます。

なぜなら高校生ですでにパリピだった人は、大学に進学すると遊びや消費が落ち着いてくる傾向にあるから。しかし地方出身パリピはデビューが遅いぶん、消費力、情報拡散力で秀でているということ。さらに彼らの場合、消費力がアップする社会人になってからもパリピ的なふるまいは続くため、そういう意味でも経済的な影響度が高いということです。つまり、パリピのキーマンは実は地方出身者だということ。

では"地方在住の"パリピはいるのかといえば、大阪や名古屋、福岡、仙台などの大都市部に多少は存在するものの、それより小さい地方都市ではぐっと少なくなるといいます。地方在住で派手に遊んでいるようなタイプは、派手めのマイルドヤンキーか、悪めのギャル。彼らは地元の、いつも決まった友人たちと飲んで大騒ぎするタイプ。たしかにそう考えれば、フィクサーからマイルドヤンキーまで、それぞれの位置が見えてくる気がします。


他にも60年代にさかのぼるパリピのルーツ、インタビューを通じて明らかにされる彼らの人生観、そしてパリピトレンド予測など、パリピを軸にさまざまな考察がなされています。

総体的にみれば、パリピにはマイルドヤンキーほどのリアリティがなく、「その存在がどれほどの経済圏を生み出すのか」についても多少の疑問は残りました。とはいえ時代を読み解く鍵のひとつとして、目を通しておく価値はありそうです。

(印南敦史)