なにげなく使っていた言葉が、気づかないうちに相手を戸惑わせたり、場合によっては不快にさせたりすることはよくあるもの。たとえば個人的には、とても気になるのが「あなた」という言葉の使われ方です。もちろんそこには敬意が込められている場合が多いわけですが、大前提として「対等もしくは目下のものに対して」使うべき言葉であるということは、あまり知られていないからです。
ともあれ、そのような単語レベルのみならず、日常のちょっとした言葉づかいにも気は使いたいところ。でも、"なにが正しくてなにが失礼なのか"は、なかなか見極めにくいものでもあります。そこで活用したいのが、『その日本語、大人はカチンときます!』(ビジネス文章力研究所編、青春文庫)。「『ちゃんとした言い方』一発変換帳」というサブタイトルからも想像できるとおり、日常生活のなかで相手を不快にさせないための表現をまとめた文庫です。
本書は、間違えがちな言葉、特に相手にカチンとさせる言葉を「ちゃんとした言い方」に変換することを主眼にまとめました。感謝する、依頼する、催促する、謝るなど、言葉を使うシチュエーションごとに分けていますので、「どう言えばいいのか」と迷ったとき、すぐに適切な言葉を選べるはずです。(「はじめに」より)
そのなかから、表現の仕方によっては特に誤解を生みやすいともいえる「指摘する」に焦点を当ててみましょう。
CASE01 指摘する
相手の落ち度に焦点を当てるようなケースも少なくないだけに、「なにかを相手に指摘したいとき」のクッション言葉には気をつけたいもの。そこで編者は、このことについて3つの「NGワード」と、それぞれについての適切な表現を紹介しています。
・指摘する際のクッション言葉1.
NGワード:よくわからないのですが
なにかを話した結果、「よくわからないのですが」と切り返されたとしたら、たしかに否定的なニュアンスを感じてしまったとしても無理はないはずです。そこで、そんなときのために編者が勧めているのは、
いまひとつ、私の理解の及ばない点がございまして、
文例:◯◯の部分でいまひとつ、私の理解の及ばない部分がございまして、◯◯についてはいかがなりますでしょうか。
自分に理解力がないと認めたうえで、必要な情報を相手から引き出すというわけで、これなら波風は立ちそうにありません。
・指摘する際のクッション言葉2.
NGワード:気持ちはわかるのですが
なるほど、このリアクションには、どこか「上から」な印象があります。そこで、
ご趣旨はごもっともかと存じますが、
文例:ご趣旨はごもっともかと存じますが、◯◯の点については十分な検討が必要ではないかと思うのですが、
あくまで対等な目線で、自身の考え方を明らかにするわけです。もうひとつNGワードを確認してみましょう。
・指摘する際のクッション言葉3.
NGワード:それは違いまして、
ここが難しいところでございまして、
文例:ここが難しいところでございまして、◯◯は◯◯という解釈になるようです。
相手の意見を認めたうえで、そこにある問題点へとさりげなく誘導するということ。こうすれば、気持ちを自然とそちらに向かわせることができるかもしれません。
次は、「反対意見があることを伝える」際の3つのNGワードと適切な表現を。
反対意見があることを伝える1.
NGワード:反対です。
◯◯という意見もあるようで、
文例:社内には◯◯という意見もあるようで、この点についてはいかがでしょうか。
反対意見があることを伝えたうえで、その策を引き出せば、会話が淀むことはないでしょう。なお「反対です」の不快感を解消する表現はもうひとつあるといいます。
反対意見があることを伝える2.
NGワード:反対です。
一般的には◯◯
文例:一般的には◯◯と考えるのではないかと思うのですが...。
自分がそれに反対を表明するというスタンスを避け、一般的な考え方として扱えば、相応の説得力が生まれることになります。
反対意見があることを伝える3.
NGワード:こっちの立場にもなってください。
NGワードである以前に、これは子どもっぽい表現としかいえませんが、こういう場合は、
ただ現場といたしましては、
文例:もっともな御意見だと承知しております。ただ現場といたしましては、人員の問題がございまして...。
相手の主張を認めたうえで、こちらの事情も伝えるということ。
総じて「指摘する」際のポイントは、次の2点に集約されるといいます。
POINT
・相手の意見をクッション言葉でいったん受け止める。
・反対意見は個人の感想ではなく、一般論や世論として伝える方法もある。
(158ページより)
CASE02 反論する
相手の気分を害する可能性が大きいだけに、反論の仕方はとても重要。そこで本書はこの点についても、さまざまな角度から提案をしています。まずは「立場が違うことを伝える」場合の2つの伝え方から。
・立場が違うことを伝える1.
NGワード:あなたと私は違います
こんな当たり前のことをいわれたら、カチンとくることはほぼ確実。そこで、
見解の分かれるところです。
文例:そのあたりは見解の分かれるところかもしれませんね。
とすれば、お互いの違いをやんわりと伝えることができるというわけです。なお「あなたと私は違います」については、もうひとつ適切な表現が紹介されています。
・立場が違うことを伝える2.
NGワード:あなたと私は違います
別の観点から見ると、
文例:大筋ではその通りだと存じておりますが、少々別の観点から見ると、◯◯ということも考えられないでしょうか。
頭ごなしに否定するのではなく、認めたうえで代替案を提示するわけです。
では続いて、「反論前のクッション言葉」を3つ見てみましょう。
・反論前のクッション言葉1.
NGワード:いいづらいですが、
申し上げにくいことですが、
文例:申し上げにくいことですが、実はすでに現場では◯◯が周知の事実となっておりまして...。
「いいづらい」ことは同じであっても、表現を変えるだけでだいぶ印象は変わります。そして「いいづらいですが」に関しては、別の表現も。
・反論前のクッション言葉2.
NGワード:いいづらいですが、
残念ながら、
文例:残念ながら、再考の余地があるのではないでしょうか。
「残念ながら」という言葉に置き換えることで、反論がしやすくなるわけです。さらにもうひとつ。
・反論前のクッション言葉3.
NGワード:いいづらいですが、
ご無礼を承知で申し上げますが、
文例:ご無礼を承知で申し上げますが、◯◯という見方もありすぐに同意はできかねます。
これなら、1.と2.よりもさらに強い印象を与えることができるといえるのではないでしょうか。次に、「納得できない場合」について。
・納得できないことを伝える
NGワード:納得いかないです。
承服いたしかねます。
文例:◯◯には承服いたしかねます。
相手の気を使いつつも、気持ちをはっきりと伝えることが大切だということでしょう。
POINT
・相手の意見を立てて、反対のための反対にならないようにする。
・反対することより、相手の視点をずらせるようないい回しを。
(160ページより)
CASE03 抗議する
好むと好まざるとにかかわらず、抗議の必要性が要求される場合もあります。しかし、抗議だからこそ、なおさら表現が重要になってくるといえそうです。「困っている」ことを伝える3パターンからご紹介していきましょう。
・相手の対応に困っているとき1.
NGワード:困っています。
大変困惑しております。
文例:◯日にご納品いただけるとのお話でしたが、◯日現在、まだ着荷しておらず、お問い合わせにもご返答いただけておりません。大変困惑しております。
・相手の対応に困っているとき2.
NGワード:困っています。
納得いたしかねます。
文例:当社としては、今回の事態にはとうてい納得いたしかねます。
・相手の対応に困っているとき3.
NGワード:困っています。
甚だ遺憾に存じます。
文例:再三の要請にもかかわらずご報告がなく、甚だ遺憾に存じます。
「困っている」ことをストレートに表現したのが1.で、そこに納得できないという感情を加えたのが2.、そして不満をよりあらわにしたのが3.ということになるでしょうか。
・相手の対応に誠意が感じられないとき
NGワード:いい加減にしてください。
誠意ある対応をお願い申し上げる次第です。
文例:ご繁忙に取り紛れてのことと拝察いたしますが、なにとぞ誠意ある対応をお願い申し上げる次第です。
相手に誠意が感じられないときはつい感情的になりがちですが、このような表現であれば、冷静さと不満を同時に訴えかけることができそうです。
・取引先のあまりに不誠実な対応に強く抗議したいとき
NGワード:これ以上、おつきあいできません。
貴社とのお取引を見直さざるを得ません。
文例:今後、同様のことが続く場合、本意ではございませんが、貴社とのお取引を見直さざるを得ません。
強く抗議する際にも、相手に必要以上の不快感を与えないよう配慮することが大切なのかもしれません。では最後に、もっとも強い抗議の例を。
・法的措置も辞さない構えであることを伝える
NGワード:訴えますよ。
しかるべき措置をとらせていただきます。
文例:最悪の場合、しかるべき措置をとらせていただきますので、あらかじめご承知おきください。
冷静に、しかし伝えるべきことは伝えるということ。
POINT
・怒りより、具体的に困っていることを伝える。
・ビジネスマナーを大切にしつつ、苦境を訴える姿勢を忘れない。
(162ページより)
こうした適切な表現がシンプルにまとまられているため、とても実用的。文庫なのでバッグに入れておいても邪魔にならず、さまざまなシチュエーションで役立ってくれることでしょう。
(印南敦史)