Inc.:散歩に執着していた偉大な賢人たちの名は枚挙にいとまがありません。歩くことと脳の生産性には時代を越えてそこまで強い関連があるのはなぜでしょう。
私は以前にも何度かこの話を扱ったことがあり、そのときは、この疑問に対して「一理ある」という答えを示す研究や調査を取り上げました。たとえば、エクササイズはどんな形で行っても脳を活発にすることが証明されているので、歩くことが思考力にポジティブな影響を与えるとしても、驚くことではありません。歩くことで創造性が高まることを実証する研究もあります。
しかし、踏み込んだ視点で書かれたFerris Jabr氏の記事を最近『New Yorker』誌で偶然見つけました。その記事は、散歩と名案が浮かぶことの関係を歴史的観点から掘り起こしているだけでなく、散歩しに出かけると人間の頭の中で何が起こるかも説明するなど、歩くことと思考力に関するあらゆる科学的論説をまとめています。この話を深めたい人には一読の価値がある記事です。しかし、ここでは、「なぜ散歩が思考力にそれほどまでに良い影響を与えるのか」という本質的な疑問に対してJabr氏が出した答えを簡潔にまとめてみましょう。
エクササイズ
Jabr氏は、活発な心と活発な体の相互関係を示す正攻法の調査から始めます。体が活発になると、心拍数が増えて脳に流れ込む血液が増えるだけでなく、頭の中で多くのポジティブな変化が発生します。
散歩を習慣にすると、脳細胞間の新しい接続の促進、加齢による脳繊維劣化の防止、海馬(脳内の記憶力を司る部分)の拡大、新しい神経単位(ニューロン)の成長や神経単位間のメッセージ伝達に刺激を与える微粒子のレベル上昇が見られるようになる。
リズム
軽い運動をすることの効果という観点からは、ウォーキングは思考力に対して特別な効果を発揮します。まず、歩を踏むときの単純なリズムに効果があります。音楽を聴いていると曲のテンポで気分が決まってくるように、てく、てく、てく、と足を動かしていく動作が刺激になって思考を形成します。
自分のペースで歩くと、体と心が完全に一体化してそれぞれの状態を相互に伝え合うようになります。これは、ジムでジョギングしたり車を運転したりするなど歩くこと以外のどんな動作で移動しても、容易には体験できません。散歩をすると、歩調が気分と内語(思考の道具としての機能を果たす)のリズムを自然に同調させます。同時に、歩調を意図的に速めたり、緩めたりすることで思考のペースを積極的に変えることもできます。
意識
何にもまして最大の効果としては、歩くことはそれほど意識しなくてもできるので、普段よりあれこれと思いを巡らせたり観察したりできるようになることです。この「何かしてはいても、あまり考えずにしている」状態になることが斬新でクリエイティブなアイデアを生み出すので、これが散歩がもたらす一番のご利益かもしれません。
歩くという行為にはそれほど意識的な努力を必要としないので、目の前に広がる世界へと意識を解放することができ、頭の中では次から次へとイメージが浮かびます。さまざまな研究がイノベイティブなアイデアやヒラメキにつながるとしている精神状態とは、まさにこの状態のことです。
The Science of Why You Do Your Best Thinking While Walking |Inc.
Jessica Stillman(訳:春野ユリ)
Photo by Jun OHWADA/Flickr.