9カ月で3冊もの本を書き上げた、ネーサン・バリーという友人がいます。どうしてそんなことができたのでしょうか? ネーサンはあるシンプルな戦略をとりました。1日に1000ワード書くと決めたのです(だいたい2〜3ページ)。そして、それを253日間、1日も欠かさず実行しました。1日に1000ワードというのは、決して「全力疾走」ではありません。いわば「平均速度」です。ここに重要なポイントがあります。

この戦略と、本を書き上げるために何週間も小屋に缶詰になって狂ったように書きまくる、よくある作家のイメージを比較してみましょう。

小屋にこもる猛烈作家は、ものすごい「最高速度」の持ち主で、1日に20ページ、いや、30ページは書いてしまうことでしょう。しかし、そんなスピードで何週間も走り続けていれば、本が終わる前に、書き手のほうが終わってしまうかもしれません。一方、ネーサンの最高速度は、猛烈作家には遠く及びません。それでも、1年、2年の長いスパンで見たときに、「平均速度」ではネーサンが勝っているはずです。

同じことが、本を書くこと以外にもあてはまります。

たとえば、急にやる気が湧いて、ジムに飛び込み、ワークアウトを一気にこなす、なんて体験が誰にでもあります。これが最高速度です。私たちは最高速度ばかりに目を向けて時間を浪費しています。どれだけキツいワークアウトをこなした? どれだけやる気になっている? どれだけ速く終わらせられる?

しかし、平均してみるとどうなりますか? 先月、あなたは何日、ワークアウトをしましたか? この3カ月では? この1年では? あなたの「平均速度」はどのくらいですか?

この視点で見てみると、たとえば、先月は1週間ほど体調を崩していたこと、残業があった日はよくジムを休んでいたこと、おまけに2週間ほど出張でいなかったことを思い出すかもしれません。そして、ときどき出す最高速度こそは高いものの、平均速度は思ったよりずっと低いことに気づくのです。

おそらくこの原則は、仕事、食事、人間関係など、ほかのどんな領域にもあてはまると思われます。

平均速度に関する驚くべき事実

平均速度に関して、驚くべき事実が1つあります。平均速度が信じられないほどの成果を出すのには、それほど時間がかからないという事実です。

私たちはだいたいにおいて、大きな仕事をやり遂げるにはとてつもない努力が必要なのだと思い込み、時間とエネルギーを浪費しています。やる気や欲望を無理にでも高めなければならないと自分に言い聞かせています。ほかの誰よりも一生懸命に頑張らなければならないと思っています。

しかし、実際に物事を達成している人々を観察すれば、それとは違った事実が見えてきます。ネーサンは1日に1000ワード書いていただけです。9カ月後にどうなったか? 3冊の本が仕上がりました。ネーサンは誰よりも猛烈に頑張ってなどいませんでした。1日に2〜3ページ書くのは、セクシーでもショッキングでもありません。彼はただ、誰よりも安定したペースで書き続けただけです。結果的に、253日間トータルでの平均速度は、ほかの人を寄せ付けないものになっていました。

平均速度が重要なことはわかりました。するとこんどは、こんな疑問が湧いてくるかもしれません。「どうすれば平均速度を高められる?」

「習慣ステップアップ方式」で平均速度を高める

以前にも「習慣ステップアップ方式」の考え方についてお話したと思います。習慣を段階的にステップアップさせていくやり方のことです。習慣ステップアップ方式の根底にあるのが、平均速度を高めていくという発想です。

たとえば以下のように自問してみるのです。

  • 平均速度が、週に1度、健康的な食事をすることなら、1日に1度、健康的な食事をするように「ステップアップ」できますか?
  • 平均速度が月に2度、エクササイズをすることなら、週に1度に「ステップアップ」できますか?
  • 仕事が忙しくて、3カ月に1度くらいしか旧友と電話できていないなら、スケジュールに入れることで、月に1度に「ステップアップ」できますか?

もうわかりますね。習慣ステップアップ方式とは、現在の平均速度を把握し、より理想に近づくために、もう少し速度を上げられないか考えるということです。

では、私自身に適用すればどうなるでしょうか? 過去8カ月の間、毎週月曜と木曜に、新しい記事を公開し続けてきました。この習慣を「ステップアップ」するにはどうすればいいでしょうか。

たとえば、ネーサンをまねて、毎日1000ワード書く戦略を採用してもいいでしょう。おそらく、そうすれば週に2本の記事を書き続けながら、ほかの有意義なこと(本を書くとか)も達成できると思います。

あなたは?

習慣をよく観察すれば、平均速度がわかります。そして、自分に正直になれば、その速度は思っていたよりずっと小さいことに気づくでしょう。

真実はこうです。1日だけ気持ちを高めて猛烈に頑張ることは誰にでもできるが、毎日欠かさず努力を続けられる人はめったにいない。

思ったより平均速度が小さくても、罪悪感を感じたり、自己を卑下する必要はありません。重要なのは、現状をきちんと把握し、それを変えられることを理解し、今は確かに小さいが、毎日の習慣を少し変えれば、平均速度を大きく高められるという事実を認めることです。

健康、仕事、人生、どんな分野であれ、成果をあげるのに猛烈な頑張りなど必要ありません。必要なのは継続的な努力です。さあ、次のレベルにステップアップする時がきました。あなたの平均速度はどれくらいですか?

What is Your "Average Speed" in Your Life, Your Health, and Your Work? | James Clear

James Clear(原文/訳:伊藤貴之)

Image by Sira Anamwong (Shutterstock).