今注目されている職業であるグロースハッカー。彼らの中には、年収1000万円クラスの収入を「クラウドソーシングを中心にして」達成している人がいます。もちろんすべての人がそうではありませんが、今グロースハッカーはフリーランスとして稼げる仕事のようです。

どうして稼げるのでしょうか? それは、案件ひとつひとつが高単価だから。しかし、『2014年度版 中小企業白書』で提起されているように、「クラウドソーシングは単価が安い」と感じる人が多い中で、どうしてフリーのグロースハッカーは高い報酬を受け取ることができるのでしょうか?

そこで今回は、Japan Growth Hacker Award 2016でスマートフォンサイト賞を受賞したグロースハッカー、片岡彩子さんにインタビューを行い、業界の最前線で評価されている方の目線で「なぜ今グロースハッカーがフリーで高い単価で仕事を受けられるのか」と「フリーランスのグロースハッカーが秘める可能性」について語っていただきました。

片岡彩子(かたおか・あやこ)

1986年生まれ。フリーランスグロースハッカー・ウェブデザイナー。福岡県福岡市在住。東京のウェブ制作会社に勤めたあと、2013年、フリーに転向。Japan Growth Hacker Award 2016にて、スマートフォンサイト賞を受賞するなど、高い評価を受けている。

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ウェブサイトのパフォーマンスを数字でわかる形で改善する仕事

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ゆるい雰囲気で笑顔がチャーミングな片岡さん

── グロースハッカーのお仕事内容はどんなものなのか、というところから説明していただけますか?

片岡:グロースハッカーは、既存のホームページの問題解決に向け、改善案を作成する仕事です。改善案を作り、実際にテストしてみて、その結果を検証し、それを踏まえて、また改善案を作る...ということを繰り返す人たちのことを「グロースハッカー」と呼びます。

たとえば、転職サイトがあって「利用者数を増やしたい」というゴールがあるとしたら、それに向かってどういうアプローチをすればいいのかを考え、形にします。

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片岡さんがグロースハックを手がけた転職サイト「Nifty転職」。「情報量が多いと、一覧ページでは離脱に繋がってしまう」と考え、表示する情報やボタンを減らした。また、「検索条件変更ボタン」を、ユーザーがページを最後までスクロールし、一覧を見終って集中力が切れるタイミングを狙って、追加で配置した。それによって遷移率は15%アップ。このように仕事の成果が数値として明らかになるのがグロースハックの特徴。

高単価を納得してもらえるだけのサービスを実現する仕組みがある

── 片岡さんが主に活動されているグロースハックのプラットフォーム「Kaizen Platform」では、お仕事の単価が高くなっているとうかがいました。グロースハッカーの収入はどれくらいになるのでしょうか?

片岡:年収が1000万クラスの方もいらっしゃるとうかがっています。私はそこまでの収入はありませんが、会社員の頃の月収の2〜3倍になる月もあります。取り組み方次第だとは思いますが、集中力が長時間持続するという方なら、本当に高年収を狙える職だと思います。

── Kaizen Platform以外のクラウドソーシング系のサイトでもお仕事をされているんでしょうか?

片岡:以前、何回か利用してみたのですが、単価が安く、利用を断念しました。

── どうしてKaizen Platformは高単価なのですか?

片岡:Kaizen Platformを利用するクライアントさんはA/Bテスト(改善案の効果を実サイト上で確認するテスト)を行い、サイトから得られる利益を増幅させること自体に価値を見出し、そこに対価を払って下さっています。

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Kaizen Platformでは、案件ごとに定められた報酬がA/Bテストに採用された改善案に対して配分される。たとえば、14万円の案件において、改善案Aと改善案Cが採用されたとする。この2案が同等の改善効果を生み、作成した2人のグロースハッカーの実績が同程度だとすると、両案に7万円ずつが支払われる(実際にはグロースハッカーの実績や、改善効果を基準とした按分)。2016年3月現在、14万円は1ページの改善案件では標準的な額である。

片岡:各グロースハッカーは自分の改善案を提出する際、変更理由や仮説を説明する必要があります。きちんと根拠を示した上で、「じゃあこの案を採用しよう」とクライアントさんに納得していただくためです。

また、Kaizen Platformさんがプロジェクトの舵取りや、単価の調整を行って下さっているからこそ、サービスの質が上がり、高単価になっているのだと思います。クライアントさんと「改善したいページに」ついて、細かく打ち合わせをして、ゴール設定や、変更できる箇所の指定などを、わかりやすく資料にまとめてから、各グロースハッカーに案の募集をかけているのです。

──高い単価をクライアントさんに納得してもらえるだけの改善効果を提供できるように、プラットフォーム側が非常にきめ細かなサービスを提供できる仕組みを作り上げているのですね。

片岡:はい。また、従来のクラウドソーシング系のサイトは「安価で使える人材を探すツール」として利用されている側面があると思います。Kaizen Platformを利用されているクライアントさんは、「これくらいの投資をしないと、いい案は上がってこない。そのぶん、効果が上がれば回収は見込める」という意識をもっていらっしゃるところも、高い単価で回っている理由だと思います。

「丁寧な説明」がクライアントに満足してもらうためのカギ

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Japan Growth Hacker Award 2016表彰式での片岡さん(前列右から2番目)

── クライアントに満足してもらうことを、とても大切にされているのではないかと思います。片岡さんは、どんなことを意識しお仕事をされているのでしょうか?

片岡:私は、自分の思考のプロセスを丁寧にご説明することが大切だと思っています。過去にご提案した内容を見返すと、「本当にこれ自分が書いたのかな?」と思うような細かい部分までユーザーの気持ちを想像していることもあります。

作成した案の、最終結果だけをバンと見せても、「どうしてそこを変えたのか」はクライアントさんには伝わりません。「なるほど、そういった理由でこう変えたんだね」と、わかっていただけるように、丁寧にご説明をするようにしています。

「ユーザーは一度にたくさんの情報を受け取れない」が基本となる考え方

── ユーザー像は成果を得るために一番大切だと思いますし、今のお話でもとても重要な位置付けだったように感じました。片岡さんの頭の中には、どんなユーザー像があるのでしょうか?

片岡:ユーザーはストレスを感じたら、すぐに興味を失ってしまう──情報は書いてあっても、読んでもらえない──という考え方ありきでやっています。

情報を伝える側は、「読んでもらえている」と無意識に思い込みがちです。しかし、たくさんの情報を一気に与えても、受け手の頭には入っていきません。画面が小さいスマホでは特に、欲しい情報がほかの情報に埋もれてしまうと、ユーザーはストレスを感じ、サイトから離脱してしまいます。

情報を伝える側であるクライアントさんと、ユーザーの間には溝があり、情報が上手く伝わらないという問題があります。グロースハッカーの仕事は、それを解決する根本的な解決策を提案することなのです。

とにかく「わかりやすく」、「ストレスを感じさせずに」、設定したゴールに向かってユーザーを誘導するには、どうすればいいのかを常に考えています。

「丁寧に観察し、仮説を立て、説明できる人」ならグロースハッカーに向いている

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── グロースハッカーに需要が集まる今、率直にどんな感想をお持ちですか?

片岡:「グロースハック」という仕事により、企業側が得られるメリットがもっと広く知られるようになれば、より沢山の企業さんがグロースハックに興味を持たれるのではないかと思います。「クライアントさん側の先入観」と「ユーザーさんの無意識」との間を埋める、根本的な解決策の提案を、多数得られるからです。

── グロースハッカー自体も増えていくと思いますか?

片岡:グロースハッカーという職種自体を知らない方もまだ多いと思うのですが、まだまだこれから増えると思いますし、増えて欲しいと思っています。

── 今からグロースハッカーになるとしたら、どんな資質が求められるのでしょうか?

片岡:デザインの経験や、コードが書けるということも必要な条件ではありますが、それは後からいくらでも身に付けられると思います。私自身、Kaizenさんのツールを使用しながら、jQueryの知識は覚えました。

グロースハックで一番求められているのは「クライアントさんの先入観を打破する視点や気づき」です。そのため、問われてくるのは、観察し仮説を立てる力や、立てた仮説をきちんと説明し納得してもらえる提案力になります。そうしたことに、楽しさを感じられるなら、「天才的なビジュアル作成センスを持っている人」や「神がかった技術を持っている人」ではない「普通の人」であっても、活躍することができるでしょう。


サイトで情報を発信しようとするクライアントと、飽きやすいユーザーの間を埋める「サイトの改善案」というグロースハッカーの"制作物"は、先入観や無意識という、当事者ではどうにもできない部分をすりあわせる仕事。その価値をきちんと理解して値付けしてもらうのはとても大変なことだと思われます。

しかし、「クライアントのゴールを明確にし、プロダクトの価値を伝えるプロセス」としてクラウドソーシングプラットフォームが機能していれば、グロースハッカーがプロダクトの質を高めることに集中でき、「クライアントの望む成果」を提供できるようになります。こうして独自のプロダクトの高い価値がクライアントにも認められていることが「稼げる理由」なのでしょう。

なお、Kaizen Platformでは、今回主に取り上げた公募制のサービス以外にも、クライアントの各ビジネス分野に特化した専属チーム「グロースチーム」により、よりクライアントの希望に沿った高品質のサービスを提供するという試みも行っているそうです(片岡さんはこちらでも活躍されているそう)。

2014年度版 中小企業白書』には、クラウドソーシングに発注する側にも「仕事の質が安定しない」という課題があることが示されていますが、グロースハック分野ではプラットフォームがこの問題を上手く解決できたという一例なのかもしれません。

(聞き手・構成/神山拓生、取材協力/Kaizen Platform, Inc.

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