『机に向かってすぐに集中する技術』(森健次朗著、フォレスト出版)の著者は、ミズノ株式会社社員時代に、シドニーオリンピックで12個の世界新記録を生んで注目を浴びた、「サメ肌水着」の開発者。そして独立後の現在は、「集中力プロデューサー」として活動中だといいます。
あまり聞きなじみのない職種ですが、10年間のべ15万人の人々に対し、「どうすれば集中力を高められるのか?」を指導してきたのだそうです。本書ではそのような実績を軸に、集中力を自由自在に引き出すためのメソッドを紹介しているわけです。
人は机に向かっても、"本来自分が持っている集中力"を発揮できないもの。そこで多くの人が「やる気」や「モチベーション」を高めるようとするわけですが、それはうまい方法ではないと著者は断言します。なぜなら、心を鍛えるために必要なストイックさを身につけるには時間がかかるから。
集中のコツは、心の強さに頼るのではなく、「集中力を引き出すワザ」を知り、使いこなすことです。(「はじめに」より)
そんな考え方に基づく本書から、きょうは第2章「集中力を"自由自在"に引き出すための『超リラックス状態』のつくり方」を見てみたいと思います。
力の「強さ」よりも「入れ方」が大事
著者によれば集中とは、自分自身の力を一点に集めること。そして集中力とは、自分自身の力を一点に集める技術。「力を一点に集める」といわれれば、「その力は強ければ強いほどいい」と思ってしまっても不思議ではありません。もちろん強いに越したことはないでしょうが、問題なのは「力の入れ方」だといいます。
できるだけ強い力を一点に集中させたいのであれば、「力を入れすぎない」ことがコツになるのだとか。逆説的な気もしますが、これには理由があるそうです。力を入れすぎると集中力の奴隷になり、自分をコントロールできなくなってしまう。しかし、自分が考えを支配するならともかく、考えに自分を支配させるのは大きな間違いだということ。だからこそ、力を入れすぎてはいけないという考え方です。(58ページより)
"質の高い集中"に必要なもの
なにかに集中したいからといっても、他のものがなにも入る余地がないほど集中すればいいというわけではないということ。なぜなら、なにかに没頭しすぎるということが、セルフコントロールを失うことに等しいから。なにかに集中することで、体が衰弱したり、健康を害したりするようでは元も子もない。だからこそ、矛盾するように聞こえるかもしれないけれども、力を入れすぎてはいけないということです。
だとすれば、適度に力を抜き、セルフコントロールを失わない程度に集中するためにはどうしたらいいのでしょうか? この疑問に対しては、そのために必要なのが「リラックス」なのだと著者は主張しています。(60ページより)
「集中の理想型」とは?
たとえばゲームに集中している子どもは、「このゲームに、絶対に集中しなければならない」と緊張しているわけではなく、適度にリラックスし、目の前のゲームを楽しむことができているわけです。著者いわく、これが「集中の理想型」。そして、この状態をつくり出すためには、まずはリラックスすることがとても大切だということです。
事実、著者も数多くの子どもたちやスポーツ選手、社会人を指導してきた結果、「なにかに集中できない人は往々にして、緊張して力が入りすぎている」ということを実感したのだといいます。「なにがなんでも、うまくいかせなければならない!」と考え、力が入っている人ほど、本領を発揮できないものだというわけです。
理由は、力が入りすぎることで、「かえって失敗したらどうしよう...」という雑念がわいてきてしまい、目の前の仕事や勉強に集中することができなくなってしまうから。いっぽう、自分の力を発揮できる人、もしくは自分が持っている力以上のものを発揮できる人は、たいていリラックスしてものごとに臨んでいるといいます。
つまり、この状態が「集中の理想型」であり、そのために必要なのが「いかにリラックスするか」だということ。いいかえれば、なにかに集中するためにはリラックスすることが必要。だからこそ、まずは「リラックスするための具体的な方法」を知ることが大切だというのです。
ちなみに著者は講演や研修、セミナーなどで、集中とリラックスの関係について「振り子の原理」を使って説明しているのだそうです。振り子は引っぱれば引っぱるほど、振り幅が大きくなるもの。同じことで、緊張してリラックスの幅が小さければ、おのずと集中は浅くなるということ。
しかしリラックスの振り幅が大きければ、それだけ集中の振り幅も大きくなります。つまりリラックスすればするほど、集中の深度をより深めることが可能になるという考え方。このように、集中とリラックスは表裏一体の関係にあるもの。だから、なにかに集中したいのであれば、まずはリラックスすることが大切だというわけです。(62ページより)
集中力が高まる"姿勢"のつくり方
ところで姿勢がいい人は、堂々としていて、自信を持っている印象を人に与えるものです。いっぽう、姿勢が悪い人は、どこか自信なさげに見え、沈んだ印象を相手に与えがち。親が子どもの姿勢を注意するのも、そんな理由があるからだと著者。
でも、具体的にどうすれば姿勢がよくのなるのか、その方法から教えてもらった人は少なくないはずです。事実、著者が講演、研修、セミナーなどで「まずは姿勢を整えてください」といっても、実践できない人が多いといいます。そこで著者は、姿勢をよくするための方法を公開しています。
1. 椅子に浅く座る
2. 自分の利き手を頭に乗せ、手のひらで軽く頭を押さえつける
3. これができたら、上から頭を押さえつける力に反発するように、あごを引いて、背筋をぐっと上へ伸ばす
すると、頭の上から押さえつけている利き手も、背筋を伸ばすのと同時に、ぐっと上に押し上げられることが実感できるはず。そして、この作業が終わったら、
4. 利き手を頭の上から下ろす
5. 次に、両肩をぐっと挙げて、2~3秒、緊張した状態を保つ
6. その後、脱力して、両肩をストンと下ろす
大きな鏡の前でこの一連の作業を実践してみると、たったこれだけのことで、曲がっていた背骨がピンとまっすぐ伸びていることに気づくはず。そして、この姿勢で仕事や勉強をすると、体がとても楽になるといいます。
理由は明白で、背中を丸めた状態で長時間にわたり椅子に座っていると、集中力が持続しないだけでなく、腰痛や肩こりの症状にもなりやすいから。しかしこの状態だと、背骨が理想的なS字カーブを描くことから、自然に集中しやすい状態が得られるというわけです。(75ページより)
「マイナス×マイナス=プラス法」
次いで著者は、体をよりリラックスさせる作業として「マイナス×マイナス=プラス法」というやり方も紹介しています。
1. まずは両肩をぐっと上げて、緊張させる
2. そこからさらに肩を上げて緊張させ、我慢できなくなったら、ストンと肩を落とす
3. この作業を2、3回行う
なぜ、肩を上げ下げするだけでリラックス効果を得られるのでしょうか? そもそも、なぜこの作業が「マイナス×マイナス=プラス法」なのでしょうか?
不思議なもので、人は「緊張してはいけない」と思っているときほど、逆に緊張してしまうもの。そんなとき、どうしようもない緊張に対処するためには、あえて緊張というマイナスの負荷を自らかけていくとよいというのです。
試しに肩をぐっと上げてみると、そのときには肩に余分な力が入っているわけですから、明らかに緊張状態、つまりマイナスの状態だということになります。そこからさらに肩をあげれば、体にはさらなる緊張状態、いいかえれば、よりマイナスの負荷がかかることになります。
では、その状態から脱力し、ストンと肩を下げてみると?
脱力して腕をダランと下げた状態は、明らかにリラックスの状態です。体にかけた「緊張」という負荷を一気に解くことにより、体をリラックス状態、つまり「プラスの状態」に持っていくことが可能になるというわけです。
緊張(マイナス)×緊張(マイナス)=リラックス(プラス)
(86ページより)
ということで、著者はこれを「マイナス×マイナス=プラス法」と呼んでいるということ。(82ページより)
これらに加え、以後の章では、付録の「集中力が高まるカード」を利用し集中力を高める方法が解説されます。効果的に集中力を高めたい人は、手にとってみるといいかもしれません。
(印南敦史)