『ハーバード×MBA×医師 目標を次々に達成する人の最強の勉強法』(猪俣武範著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、異例の経歴の持ち主。なにしろ医師として勤務を続けつつ、語学力ゼロの状態からハーバード大学に留学。さらには同時に、ビジネススクールでエグゼクティブMBAを取得したというのですから。
短期間でこれだけの実績を打ち立てるためには、寝る間を惜しんで勉強する必要がありそうです。事実、昔から「いつ勉強しているの?」「いつ寝ているの?」といわれ続けてきたのだとか。しかし、必ずしも特別なことをしたわけではないのだといいます。
目標を効率良く達成するには、「勉強に対する考え方や姿勢」「勉強のスキルやプロセス」「勉強以外のネットワーキング」といったものが良循環する必要があります。
そのなかでも私が最も気をつけているのは、「人生で達成したいことを見据えて目標を立てる」ことと、「何をやらないかをはっきりと決めることです」(「まえがき」より)
最大限のパフォーマンスを発揮するためには、この2つが重要な意味を持つということ。では、具体的にどうすべきなのか? PART 1「結果を出す人の目標設定の技術」から、基本的な考え方をいくつか引き出してみましょう。
目標から逆算して考える
勉強するうえでも、理想的な将来のキャリアを考えるうえでも、重要なプロセスとなるのが目標を設定すること。なぜなら目標を設定することにより、モチベーションを維持することが可能になるから。さらには、将来のビジョンを現実へと落とし込むことができるのだと著者はいいます。
トップレベルのアスリートも成功を収めたビジネスパーソンも、その分野に限ることなく目標を明確化しているもの。目標を明確に設定することは、長期のビジョンと短期のモチベーションを与えてくれるのだそうです。さらには、限られた時間という「資源」を、本当に人生で達成させたいことのために効率的に集中させてくれるのだとか。
目標はなるべく詳細に、具体的に描きましょう。そうすることで進歩を実感することができますし、目標の達成度を測定することができるようになります。(16ページより)
なお、目標を設定して自分自身で評価することは、病院でバイタルサイン(血圧、脈拍、呼吸数、体温など)を測るのと同じことだと著者。体の状態を知るうえで必要不可欠なことであるだけでなく、目標を管理するためにも、達成度を指標化して測定することが大切だというわけです。また、ときには自分の進歩を見失うこともあるでしょうが、そんなときも、目標の達成を細かく実感すれば自信が生まれることに。そうするなかで最終的には、長期的なビジョンを達成することができるのだといいます。
目標を設定するプロセスは、自分がどこに向かうのかを明確にしてくれるもの。そして本当に達成したいことを自覚することによって、「どこに集中すればいいか」がわかってくるのだとか。よって、「やらなくていいこと」を切り離すことができるということです。(15ページより)
ゴールを7つのカテゴリーに分ける
目標を設定するうえでもっとも重要なのは、「生涯でなにを達成するか」というゴール。人生のゴールを設定することは、さまざまな意思決定をするにあたって重要な軸になるといいます。とはいえ、いきなり人生の最終目標を決めることは難しくて当然。そこで著者は、次の7つのカテゴリーごとにゴールを設定することを提案しています。これらについて、それぞれ最低ひとつ以上の具体的な目標を立てるべきだというのです。
・仕事(キャリア)
・家族
・経済(金融)
・健康
・教育(自己啓発)
・趣味
・その他(ボランティアなど)
(21ページより)
なお目標の中身を具体的に考え出す方法としては、「セルフブレインストーミング」がおすすめだとか。それによって、自身の根幹となるクリエイティブなアイデアが浮かぶというのです。
いうまでもなくブレインストーミングとは、1953年にアレックス・F・オズボーンが著書『Applied Imagination』内で考案した会議方式のひとつ。そののちアプローチ法が改良され、現在では「集団でアイデアを出し合い、相互のアイデアを活性化させ、問題解決を行う」という技法になっています。
そんなことからもわかるとおり、ブレインストーミングは通常、グループで行うもの。しかし著者によれば、個人で行うブレインストーミング(セルフブレインストーミング)は、集団で行うそれよりも多くのアイデアを生むという研究結果もあるのだそうです。なぜなら、グループの場合、人目を気にしたり、批判を恐れたりするあまり、創造性が失われることがあるから。でもセルフブレインストーミングなら、他人の意見を気にする必要がないわけです。
なお、セルフブレインストーミングによる目標の設定方法は以下のとおり。
まずすべきは、環境を整えること。スケジュールに、セルフブレインストーミングの時間を組み込むわけです。そして、自分にとって心地よい机や椅子を用意。また、気が散らないように最初から時間を決め、集中してセルフブレインストーミングを行います。
次に、30分なら30分と時間を設定し、目標を思いつくまま紙に書いていく。このとき、目標の数を決めておくといいそうです。「30分で100個の目標」というように決め、セルフブレインストーミングしてみるのです。30分で100個と聞くと難しそうにも思えますが、何度か繰り返しているうちに、100個程度ならすぐに思い浮かぶようになるといいます。
そうしてブレインストーミングで創造したアイデアを分析し、先の7つのカテゴリーに振り分ける。さらにそのなかで重複しているものや不必要な目標を除いていくことで、自分にとって本当に必要なゴールはなんなのかが明らかになってくるわけです。(21ページより)
10年分の目標設定をする
目標をカテゴリー別に設定したら、著者は次に10年分の目標設定を行なっているのだといいます。それには理由があり、つまり10年という期間は長期、中期、短期に分けるのにちょうどいい長さだから。そして10年後の目標を立てたら、それを中期(5年後)、短期(1年後)とチャンクダウンしていく。そしてこれをパソコン上にフォルダをつくるように分類し、毎日の生活における目標にまで落とし込んでいく。下層に向かうに従って、より具体的な名前をつけていくといいそうです。
たとえば著者の場合は仕事の分野において、「5年後のMBA留学」を目標にしたのだといいます。そうすることで、「3年後までにはTOEFLで100点取得」「来年までには80点取得」というように、段階的かつ逆算的に目標を立てることができるということ。
さらに「80点の目標を達成するためには、どのような取り組みをすればいいか」を、毎日の小さな進歩を意識しながらスケジューリング。そのような行為が日々のモチベーションを高く保ち、長期的には大きな効果を生み出すわけです。
目標は戦略であり、道筋です。実行を見据えた目標を立て、継続して努力できる環境を整備しましょう。そして、将来の自分に必要なもの(目標)を逆算的に埋めていくような勉強をすることで、効率良く、大きな結果を残すことができるようになります。(25ページより)
著者の場合は毎年2回、正月と6月に、半年前に立てた目標を振り返ることにしているのだそうです。そうすることで短期的な達成度を評価するとともに、短期、中期、長期の目標設定を行うというのです。
なお1日や週の目標は、スマートフォンのToDoやスケジュールアプリが便利だそうですが、1年以上の目標は、ペンで手帳に書きつけているのだとか。手帳は見なおして再確認するときに便利であり、手書きだと気が引き締まるからだというのがその理由。
それだけではありません。目標をそのように設定したら、組織や家族などに公開・共有すべきだと著者はいうのです。そうすることによって波及効果を得ることができ、目標達成のモチベーションを高めることができるから。ちなみに著者の場合は、フェイスブックやブログで目標を公言するようにしているそうです。また、年賀状や年始のメールなどに記載するのもいいとか。公開することで目標が可視化され、誰からも「この仕事や目標に向かって邁進しているんだな」と思ってもらえる環境をつくれるわけです。(24ページより)
こうした記述からも、著者が目標設定とその実現を、かなり緻密に行っていることがわかります。最初からここまで完璧に進めることは難しいかもしれませんが、それでも慣れてしまえば、かなり実現性は高くなるかもしれません。
(印南敦史)