仕事の速い人が絶対やらない時間の使い方』(理央周著、日本実業出版社)の著者は、トヨタ系列の日系企業に就職し、入社3年目に外資系企業のフィリップモリスに転職。以後はアマゾンやマスターカードなど10社を経験してきたという人物。

それらの職場で、多くの優秀な人たちと働くなかで学んだのは、「仕事には、こなすことが目的の『作業』と、価値を生み出すことが目的の『価業』のふたつがある」ということだとか。もちろん、大切にしなくてはいけないのは「価業」だということになります。

仕事の遅い人は、「作業」に追われ、仕事をしたつもりになっていることが多いと言えます。一方、仕事の速い人は、「作業」はどんどん効率化して時間を短縮し、そのぶん、成果につながる「価業」を充実させる時間の使い方をしているのです。(「『なにをやめるか』を決めるだけで『仕事の速い人』になれるーーはじめに」より)

重要なのは、貴重な「人生の経営資源」である時間をどのようなことに使うか。「時間の使い方」次第で成果が大きく変化し、より有意義な人生を過ごせるようになるというわけです。そして、戦略を立てる時の最大のポイントは「捨てる」こと、つまり「なにをやめて、なにをやるか」を決めることが大切。したがって時間を有効に使うには、「やるべきことを明確にする」ことからはじめる必要があるそうです。

第1章「最速で成果を生みだす『時間の使い方』」から、いくつかを引き出してみます。

残業をして「仕事をしたつもり」にならない

仕事が速い人は、残業をしただけで「仕事をした気」になることはないもの。理由は明快で、つまり「仕事とは過程ではなく、成果を求められるものだ」ということを理解しているから。逆に「あの人、いつも会社にいるけど、そのわりには成果が出ていないよね」といわれてしまうのなら、残業している意味はないということになります。

そして毎晩のように終電近くまで残業し、「ああ、今月もこんなに残業をした」と充実感に浸ったり、周囲の人に「寝てない自慢」をしてしまうような人は、「仕事をしたつもり」になっている可能性があると著者はいいます。

たしかに日本の企業には、「長く働くことが美徳」「上司よりも早く帰れない空気がある」ところが少なくありません。しかし、残業して成果が出るのであればいいけれど、時間の長さや疲労感で満足してしまっているとしたら、ビジネスの本質からはずれてしまっていることになるわけです。

著者が多くの外資系企業で見てきたのは、効率的で徹底した成果主義。だからといって日本の企業よりも外資系企業のやり方が正しいというつもりはないそうですが、しかし短い時間で同じ成果が出せるのであれば、それにこしたことはないはず。

だからこそ、仕事は「達成するまでにかかった時間」ではなく、「成果」で評価されるものだと肝に銘じることが大切だという考え方。残業せずに成果を出して、残りの時間を自分への投資に使う。仕事だけではなく、プライベートが充実していることは、自分の人生を豊かにしてくれるといいます。(10ページより)

「時間の見積もり」なしに仕事しない

「この仕事はどのくらいの時間でできる?」というような質問をされたら、はたしてどう答えるでしょうか? 著者によれば、「やってみないとわかりません」などと曖昧に答えるのが仕事の遅い人。いっぽう、「10日の正午までにはお見せできます」と明確に答えるのが仕事の速い人。そしてこの違いが生まれる理由のひとつは、To Doリストの書き方にあるのだそうです。

仕事の速い人は、ダラダラとなんとなく仕事をすることはなく、「どの作業にどのくらいの時間がかかりそうか」見積もりを立てていくもの。金銭の見積もりと同様に、時間も見積もらない限り効率的な仕事はできないということです。

そのため、仕事をするときには、きちんとTo Do リストを書くようにすることが大切。ただし、「やるべきこと」しか書いていないTo Doリストでは不十分だといいます。つまり重要なのは、「いつまでにやるか」の期限をはっきり書いておくこと。なぜなら締め切りのない仕事は、どうしても後回しにしてしまうものだからです。

もしも機嫌が曖昧でなかなか進まない仕事があるのだとしたら、その仕事の関係者に会う日程を決めてしまうのが得策。期限を切ることによってはじめて、仕事に優先順位がつき、いままで進まなかった作業も進むようになるから。

加えて仕事の速い人は、たとえば「10日締切、資料最終チェック(30分)」など、To Doリストに所要時間の見積もりを一緒に書いているものなのだといいます。こうしておけば時間をどう使っているかを把握でき、その差異の原因を分析して次に生かすことが可能に。時間と仕事をうまくコントロールできるようになるわけです。

なお客先のトラブルや上司からの急な依頼など、ビジネスに「突発的な仕事」はつきもの。想定外の仕事が入ってくると時間管理が破綻してしまいがちですが、仕事の速い人は毎日1時間くらいの予備時間をとり、こうした仕事にも対応できるようにスケジュールを立てているものです。

「すべてがうまくいっている前提だったら間に合う」と考えるのではなく、「なにかトラブルがあったとしても間に合う」ようにしているということ。このような予備時間をしっかり確保できるのは、それぞれのTo Doにかかる所要時間の見積もりがしっかりできているからだというわけです。(20ページより)

得意・苦手で仕事の順番を決めない

著者は会社員時代に、成果が上がっていない人たちの問題点を分析してみたことがあるのだそうです。その結果としてわかったのは、成果が上がっていない人たちは「得意(好き)なこと」から手をつけているケースが多いということ。だからそれ以来、成果を挙げられていないことに悩む人に対しては、まず「得意なこと」ではなく「やるべきこと」からスタートすべきだとアドバイスしているのだといいます。

「得意(好き)なこと/苦手(嫌い)なこと×やるべきこと/後でいいこと」の2つの軸で整理をした場合、ほとんどの人はまず「得意・やるべきこと(A)」から手をつけるでしょう。その後、「苦手・やるべきこと(B)」をやるのであればまだいいものの、「得意・後でいいこと(C)に手をつけてしまう人が多いのだそうです。

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得意な仕事を優先する人は、無意識のうちにBをためてしまうもの。そして、締切ギリギリに手をつけようとしたときに突発的な仕事が舞い込んできて、結局は間に合わないとあわてることになってしまうというわけです。

でも、Bから手をつけるのが仕事の速い人。AとBはどちらも「やるべきことですが、自分が得意なAの仕事は気分よく進めることができるので、見積もった時間どおりに短時間で効率よく終わらせることができるケースが多いから。苦手なBを最初に片づけておけば、心に余裕もできるわけです。

そして、嫌いなことから先に手をつけたほうがいい理由はもうひとつあるのだといいます。苦手なことをやるときには、人に聞いたり調べたりしなければならないこともあり、予想以上に時間をとられることが多いから。あまり経験のない分野の仕事であったとしたら、どのくらいの時間がかかるのかさえわからないこともあるでしょう。

見積もりが狂いやすくなるからこそ、苦手な仕事や経験の少ない仕事を放置しておくと、ギリギリで手をつけたときに「こんなに時間がかかると思わなかった」とあわてることになってしまうわけです。それを防ぐためにも、苦手な仕事をやることになった瞬間に、まず一度手をつけてみることが重要だということ。(24ページより)

始業前5分には1時間の価値がある

仕事の速い人は、1日の時間を効率的に使っているもの。午後に一度作業効率が落ちることを前提として考え、コンディションのよい午前中の時間を「価業」にあてているのだそうです。

そして、9時始業の会社で、いつもギリギリに出社しているとしたら要注意だと著者はいいます。始業前の5分は、午前中の仕事の効率を左右するとても重要な時間。にもかかわらずギリギリに出社している人は、午前中の時間をうまく使えていない可能性が高いというのがその理由。

仕事が速い人は、始業時間直後からバリバリと仕事をこなすもの。通勤中に、その日の時間をどう使うか、仕事の予定を改めて考え、会社に着く前から脳のウォーミングアップをしているというのです。そのうえで、自分のデスクに5分前に着席していれば、始業時にはすぐアクセルを踏み込める状態になっているということ。

著者も会社に着いたらすぐにメールをチェックし、返信できるものには返信。作業を終えてしまったら、できるだけ早く「価業」に移るようにしているそうです。午前中、「作業」にあてる時間は長くても30分。そこでエンジンが全開になったとわかったら、すぐに「価業」に移るわけです。その時間はインターネットをオフにして、メールを受信しないようにすることも効果的。午前中にその日のメインの仕事を終わらせるのが理想的だといいます。(28ページより)


著者の外資系企業仕込みの考え方にはブレがなく、徹底しているからこそ説得力も抜群。仕事の速度を速めたい人は、本書から応用できそうなポイントをたくさん見つけることができると思います。

(印南敦史)