Popular Science:統合失調症は、まとまりのない思考や運動、幻覚や妄想など、さまざまな形で発症します。そうした症状が重なって、正常に機能することができなくなる患者が多いのですが、効果的な治療の選択肢は非常に限られています。この病気の根本的原因は解明されないながらも、ここ数年の研究で多くのことがわかり、遺伝子の突然変異、免疫機能、微生物叢(注:だいたいにおいて、腸内細菌を意味する)などの関与が疑われていました。しかしここへきて、科学者たちにより、それまでの多くの見解につながる、統合失調症患者に見られる遺伝子変異が同定されました。そのことが『ネイチャー』誌で発表されたのです。もし、統合失調症の生物学的根本原因が解明されたという研究者らの主張が本当なら、この病気のより良い治療法につながることでしょう。

この研究は、精神疾患との闘いにおける決定的な転期となる。

研究者たちは、過去5年で30カ国の65000人の遺伝子データを集めました。統合失調症には、ある遺伝子の変異が関与していることまではわかっていましたが、彼らは、膨大なデータセットを使って、できるだけ強い相関関係を発見したかったのです。その結果見つかったのが、補体第4成分(C4)という遺伝子で、C4が高度に発現する人は、統合失調症を発症する確率がかなり高いことがわかりました。700人分の脳のサンプルを分析することによって、C4遺伝子とタンパク質の生成の関連性が確認されたのです。

科学者たちは、C4遺伝子が、免疫細胞が破壊すべき病原体に印をつけるタンパク質を生成することまでは、すでに知っていました。しかし、重要なのは、C4がシナプスの刈り込みにも関与している点です。シナプスの刈り込みとは、思春期に、脳が、もっとも必要な神経回路を強化するために、不要なシナプス(神経結合)を除去していく過程です。

補体第4成分(C4)という遺伝子が高度に発現する人は、統合失調症を発症する確率がかなり高い

研究者たちは、変異した C4遺伝子を持っていると、思春期のシナプス刈り込みが過剰に起きてしまい、患者の統合失調症リスクを上げるのではないかと考えています。これは、統合失調症の症状が10代から20代初期に始まること、統合失調症の成人の大脳皮質が薄く、シナプスが少ないことの説明にもなるでしょう。C4はまた、統合失調症患者の免疫システムと微生物叢の構成にも影響を及ぼすと考えられていますが、C4の発現と免疫変異体の詳細な関連性はまだわかっていません。

現在の統合失調症の治療法は、対症療法的なものが大半で、病気そのものに対処するものではありませんが、生物学的なメカニズムの理解が進めば、研究者たちによって、より効果的な治療法が開発されることになるでしょう。患者の思春期におけるシナプスの刈り込み過剰を抑えることができれば、統合失調症の重症度を軽減したり、完全に防いだりすることができるかもしれません。

「この研究は、精神疾患との闘いにおける決定的な転期となる」と言うのは、米国国立精神保健研究所の所長代理を務めるBruce Cuthbert 氏です。彼は、研究そのものには関与していませんが、プレスリリースでこのように述べています。「この研究は大変革をもたらすものです。この遺伝子の大発見により、ついに、臨床試験や、早期発見、新たな治療法、そして予防の可能性が見えてきたのです」

SCIENTISTS DISCOVER GENETIC, BIOLOGIC CAUSE OF SCHIZOPHRENIA | Popular Science

Alexandra Ossola(訳:和田美樹)

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