「自分には無理だ」と決めつけてしまったり、「辛い」と躊躇したり、あるいは「面倒だから」と動かなかったり...。理由もさまざまでしょうが、私たちはつい、ものごと先送りしてしまうことがあります。しかし、もしも「すぐに動ける人」になりたいのであれば、『行動の科学――先送りする自分をすぐやる自分に変える最強メソッド』(マイケル・ボルダック著、吉田裕澄訳、高野内謙伍監訳、フォレスト出版)が役に立つかもしれません。

著者は、「目標達成コーチング」のエキスパートとしてキャリアを積み、セールスの神様と呼ばれる人物。ビジネスコンサルティングの世界的権威であるブライアン・トレーシーからも、世界ナンバーワン目標達成コーチだと認められているのだといいます。

ちなみに7歳のとき、父親が母親を殺害するという事件を体験しているのだそうです。そのショックから重度の吃音症と極度の対人恐怖症となり、16歳のときには養父母の家からも追い出されて高校を中退。絶望的な少年期を過ごすも、友人に誘われて参加したセミナーをきっかけに自己変革に目覚め、見事に吃音症を克服したというのです。そのような経験の持ち主だからこそ、本書に書かれたメッセージの数々にも有無をいわさぬ説得力があります。

「プロローグ 最速で行動し、最短でゴールに向かう方法」から、いくつかの要点を抜き出してみましょう。

行動する者の前に開かれる3つの道

前述したように華やかなキャリアの持ち主である著者も、いまから約10年前には先延ばしや先送りの問題で難しい時期にあったのだそうです。なかなか前に進めなかったということですが、あるとき世界トップクラスのサクセスコーチによる大規模セミナーに参加したことが、道を大きく切り開くことになったのだといいます。

そのとき教えられたのは、「成功を得ようとする人たちに示される道は3つある」ということだったのだとか。

・「ちょっとやってみる、かじってみる」道。

・ストレスの道。

・コーチングの道。

(26ページより)

これらはどういうものなのでしょうか? それぞれについて見ていきましょう。(25ページより)

壁に当たるとすぐに逃げ出す なにもマスターできない1つ目の道

1つ目は、とりあえず「ちょっとやってみる、かじってみる」という道。自分の望むゴールを設定したほとんどの人は、とりあえずゴールに向かって行動を起こしていくもの。しかし、ほどなくして必ずなにかしらの障害に直面することになります。大なり小なりの壁にぶつかるということ。

多くの人が理解しているとおり、これは大きなゴールへチャレンジしようとするときに避けては通れない事柄。ところが、1つ目の道にいる人は、そこで簡単に行動をやめてしまうというのです。理由は明白で、「壁を乗り越えないことには、なにかをマスターすることなどできっこない」と知っているはずなのに壁を嫌うから。

しかし、だとすれば当然、この道にいる人はゴールに到達することは不可能。いわば理想の人生を生きるためには、必要なことを必ずマスターすると決断しなければならないわけです。

いまそう断言する著者もかつては、自分にまったく自信がなく、自分の可能性を信じることもできずにいたため、「ちょっとかじってみる」ということすらできなかったといいます。毎日を生きていくだけで必死だったというのです。

でも、やがて友人のすすめで成功に関する本を読んだり、オーディオコースで勉強したり、セミナーに参加したりと「学ぶ」ことをおぼえたのだとか。そして学んだとおりに大きなゴールを設定し、そのゴールに向け、あきらめることなく行動を続けようという確固たる決意を持つようになったのだといいます。(27ページより)

行動する者の前に立ちはだかる壁 ストレスフルな2つ目の道

2つ目は、ストレスの道。ゴールを目指し、なにかをマスターすることにコミットし、行動を続ける。すると、1つ目の道と同様に、必ず壁にぶつかることになります。しかし壁にぶつかったとしても、ちょっとやそっとのことであきらめたりはしないもの。壁にぶつかりストレスを感じても、壁を越えられずにストレスを感じても、行動することをやめないということ。やめることなく試行錯誤を続けるからこそ、いつかこの壁を乗り越えることができるというわけです。

もちろんこれは素晴らしいことですが、この道にいる人には、次になにが起こるのでしょうか? この問いに対する答えはシンプル。やっと突破できたと思っても、すぐにまた次の壁が現れるわけです。せっかく乗り越えても、またもやストレスを感じながらの試行錯誤の繰り返しが待っている。いわば2つ目の道は、ストレスまみれの人生だということ。

かつての著者も、この道の上を歩いていたそうです。当時はコーチングビジネスで月100万円を稼ぐという目標を持っていたのだとか。それまでひと月に稼いだ最高額は30万円だったといいますから、大きなゴールではあります。

しかし、「成功者はたくさんの行動をし、決してあきらめない」ということを学んでいた著者は、障害に直面しても次々と行動し続けたのだといいます。そして、試行錯誤の末に障害を乗り越えるという成功体験を得ることに。

ところが、すぐにまた次の障害が目の前に。そしてまた試行錯誤を繰り返し、ストレスを感じながら行動することに。1つクリアしてもまた1つ増えるのでストレスの連続で、徒労感と疲労感に苛まれる一方だったそうです。できることなら、こういうストレスフルな生き方は避けたいところです。(28ページより)

ゴールへのショートカット ストレスの少ない3つの道

3つ目は、コーチングの道。たとえどの道を進んだとしても、結局のところ必ず障害には直面するもの。何度もいうように、ゴールに向かってチャレンジする以上は、避けることのできない現実だということ。障害がなくなるなどということは、決してないわけです。

ただし3つ目の道が他の2つの道と決定的に違うのは、過度にストレスを感じることなく障害を乗り越え、ゴールを達成することができるという点だと著者はいいます。すでに自分のほしい結果を得ている人、お手本となる人を見つけ、その人をコーチとして、具体的なゴール達成の方法を教えてもらうわけです。

・大きな成功と幸せをもたらすのはどのような考え方なのか、やり方なのかを試行錯誤を繰り返し、答えを探し出す。

・コーチから自分の理想の人生を歩むための考え方ややり方を具体的に教えてもらう。

(31ページより)

さて、この2つから、どちらの道を選ぶべきでしょうか?

この問いに対する答えについてのヒントとして、著者はタイのバンコクでの自身の経験を引き合いに出しています。次のアポに向かう途中で、道に迷ってしまったときのこと。一緒にいた友人は、著者が遅れてしまうのではないかとたいへん心配していたそうです。

しかし、このときの著者はコーチングの原則を使い、タクシーを停めて自分の行き先を伝え、運転手に目的地まで誘導してもらったのだそうです。おかげで簡単に、時間どおりに目的地にたどり着けたのだとか。

シンプルすぎる話ですが、つまりはこれと同じで、コーチが目的地までのルートを教えてくれるものだということ。教わったことを実際に行動に移していくことによって、想像していたよりも早く、簡単にゴールまで到達することができるという考え方です。著者自身も人生のあらゆる場面において、3つ目の道(コーチング、モデリングの道)を行くことによって短期間で大きな成果をあげることに成功しているのだといいます。(30ページより)

つまり、これらの道を使いこなすことによって、行動して成功をつかむことができるのだと著者。とはいえ「それほど簡単なことではない」のも事実で、そこに限界を感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかしそのことについては、第1章「先送りはあなたを殺す」に次のような記述があります。

すぐにやれない人など存在しない

「めんどくさい」「明日やればいいや」「ほかにやることがある」「忙しいしお金もないからやっぱり無理」...。

人間なら誰しも、こんなことを考えたり、やるべき課題をほったらかしにしてしまったことがあるはず。ただし、もしも先送りをしてすぐに行動できないことで悩んでいたとしても、性格や人格に問題があるわけではないと著者はいうのです。自分自身に失望したり、否定する必要がないのは、「すぐにやれない人など存在しない」から。

すぐに行動に移せないことで困っている人は、単に「すぐやれない状態」にあるだけ。私たちの行動は、私たちの感情が原因となって決まるもの。つまり、行動できないという結果は、行動できないような感情が原因となって生まれているということ。だとすれば、行動できる状態さえつくれば、誰でもアクティブになれるというわけです。(43ページより)


こうした基本的な考え方を軸に、本書では以後も「先送り」を「行動」へと移し替えるためのさまざまなメソッドが紹介されています。その多くはシンプルなものなので、応用範囲も広いはず。いまの状況をなんとかしたいと考えている方には、手にとってみる価値がありそうです。

(印南敦史)