運動を始めたばかりの頃は、思い切ってキツめのインターバルトレーニングをしたり、寒い日に頑張って走ろうとしたりして、数分後に息切れしてしまってがっかりすることってありますよね。どうしてそんなことになるのか、どうしたらそれを乗り越えられるのか。今日はそんなお話をしてみましょう。

運動中、とりわけ、寒いときや空気が乾燥しているときの運動で息切れしてしまうのは珍しくありません。スポーツ選手の約15%、そして喘息を抱える人の90%以上は、運動誘発性気管支攣縮(EIB)と呼ばれる症状を持っていると言われています。

もし、最初の咳が出た時点で運動をやめてしまったら、せっかくのチャンスを失ってしまうことになります。実は、息切れを抑えて、思う存分運動ができるようになる、簡単な方法がいくつかあるのです。実際、オリンピック選手やプロのスポーツ選手にも、EIBを抱えている人はたくさんいます。ですから、息切れを理由に日々の運動を諦める必要はないのです。

運動誘発性気管支攣縮とは?

人間の気道は、先へ進むにつれて枝分かれしてどんどん細くなっていき、やがて肺胞に到達。ここで酸素が血流に入ります。気管支攣縮とは、これらの管(気管支と細気管支)が収縮して気道を狭める現象です。気道が狭まると、肺に十分な空気を送るのが難しくなり、息苦しさを感じます。

これは、喘息の発作で起きるプロセスと同じですが、必ずしもそれが喘息の発作だというわけではありません。喘息の持病がなくても、EIBを起こすことはあるのです。喘息の場合は、運動中だけでなく、それ以外のときにもそうした症状が襲ってきます。

乾燥した冷たい空気は、EIBを引き起こす要因だと考えられています。運動して呼吸が速くなってくると、気管支の表面にたくさんの空気が流れます。その空気が冷たく乾燥していると、気管支から水分と熱が失われ、気管支攣縮(または気管支けいれん)を起こすことがあります。砂漠気候のような暑く乾燥した空気でも、同じ反応を引き起こす場合があります。

一般に、気管支攣縮は、運動開始後5~20分程度で起こります。特に、長時間ジョギングしたり自転車に乗ったりするような、継続的な運動をしている場合によく見られます。一方、短時間で行う激しい運動や、ウェイトトレーニングのような無酸素運動では、気管支攣縮が起こることはあまりありません。

動誘発性気管支攣縮を起こさずにトレーニングをするには

EIBを制御するには、3つの基本的な手法があります。誘発する要因を避けること、気道が収縮しないように準備運動をすること、そして薬を服用することです。

誘発する要因を避ける:冷たく乾燥した空気を避けるもっとも簡単な方法は、凍てつくような寒い日には外に出ないことです。筆者は軽いEIBを経験しているので、とても寒い日には家の中のランニングマシンで走るようにしています(そこまで寒くないのなら、冬に外を走るのは大好きですが)。EIBを持つ人にとって、水泳はもっとも身体に優しいスポーツの1つです。それは、プール周辺の空気が、たいていは温かくて湿気を多く含んでいるからです。

スモッグが多発する都市の汚染物質はもちろん、アイスリンクの整氷機から出る排気などの、空気中の刺激性物質も、EIBを引き起こす要因の1つです。いつ、どこでひどい息切れが起こったのかを覚えておきましょう。そうした場所へ、絶対に足を向けてはいけないわけではありませんが、用心するに越したことはありません。

口元を覆う:口元を覆うスキー用マスクは、肺に入る空気を温め、湿り気を保ってくれます。90ドル(約1万円)ほどで高価なヒートマスクを手に入れても良いですし、1ドルのバンダナで安く済ませることもできます。どちらも同じ原理で、同様の効果が期待できます。

準備運動に時間を掛ける:米Lifehackerではこれまでも、適切な準備運動の大切さを紹介してきました(英文記事)が、EIBを制御したい人にとっては、準備運動はさらに重要です。『Medicine & Science in Sports & Exercise』に掲載されたレビューによると、運動誘発性気管支攣縮を防ぐための準備運動としては、間隔が短く、強度の高いインターバルトレーニングを採り入れるのが理想的なのだとか。こうした繰り返しの運動により、肺が収縮しない「不応期」が生まれ、症状を起こさずに運動する余地ができるというわけです。『Runner's World』のAlex Hutchinson氏は、理想的な準備運動について次のようにまとめています

  • 準備運動には、全体で少なくとも20~30分の時間を掛ける。
  • 軽いジョギング、サイクリング、または水泳からスタートし、徐々にペースを上げていく。
  • 全力の80~90%の強度で、各2~5分程度続けるインターバルを数回行う。

薬を服用する:上述の方法で十分にEIBを抑えられない場合は、病院に行き、インヘラー(吸入タイプの薬剤)について訊いてみましょう。アルブテロールなどのβ2作動薬のインヘラーによる治療が推奨されています。運動する直前に行えば、気道を開いたままにしておくことができます。この方法で、80%のケースはうまくいきます。それでもだめなら、医師がほかの薬を出してくれるかもしれませんし、そもそも精密検査を受けていない場合には、診断を見直すかもしれません。

息切れを引き起こすその他の条件

運動中に咳や息切れが起きる理由は、ほかにもいくつかあります。もし症状が深刻な場合は、必ず医師に相談してください。考えられるほかの原因について、いくつか紹介しておきましょう。

  • 「pursuiter's cough(選手の咳)」または「track hack(トラック咳)」と呼ばれる咳は、運動のあとに起こるものですが、喘鳴は伴わず、治療が必要なほどひどい症状ではありません。大して気にならないほどの咳がたまに出る程度なら、大騒ぎするほどのことではありません。そのまま走り続けて大丈夫です。
  • 風邪をひいたり、アレルギー反応が出たりした場合も、呼吸が乱れる可能性があります(ただし、頻繁に起きるようなら、それがEIBを引き起こす可能性もあります)。
  • 声帯が気道を塞ぐと、運動誘発性喉頭閉塞(EILO)が起きます。声帯は本来、運動中も気道が正常に開き続けるように動きますが、何らかの原因で気道を塞いでしまうことがあります。EILOの症状はEIBと誤診されることもあります。EIBの治療がうまくいっていないなら、EIBではない可能性もあることを医師にはっきり伝えることも大切です。
  • 心臓の状態によっては、息切れや胸の圧迫感といった症状が起きることがあります。その可能性がある場合には、一度確認してみると良いでしょう。

医師がEIBかどうかを診断する際には、運動の前後や、吸入器から少量の空気を吸い込んだあとで、呼吸の力強さを計測するはずです(ほかの病気の可能性を排除するため、さらに別の検査をするかもしれません)。

EIBの症状が軽ければ自分で様子を見ることもできますが、症状が重かったり、心臓疾患のような、深刻な病気の可能性があったりする場合には、絶対に病院で診てもらってください。

このように、運動中の息切れはとてもよくある問題で、対処法もたくさんあります。運動中に息切れを覚えたとしても、それはあなただけではありません。女子七種競技と走り幅跳の選手だったジャッキー・ジョイナー=カーシー氏や、元アメリカンフットボールリーグ(NFL)の人気選手ジェローム・ベティス氏も息切れを経験していました。入念に準備運動をし、誘発する要因を避け、必要な場合は薬の力を借りた上で、外に出て運動を楽しみましょう。

Beth Skwarecki(原文/訳:風見隆/ガリレオ)

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