『一流のサービスを受ける人になる方法』(いつか著、日本経済新聞出版社)の著者によれば、ワンランク上のサービスとは、
・デキるウエイターがテーブル担当につく
・ホテルの部屋や飛行機の座席がグレードアップされる
・お土産やプレゼントが用意されている
・特別なパーティーの招待状が届く
・入手困難なチケットが手に入り、楽屋に入れる
・普段会えない人に会える
(「はじめに」より)
など、お金では買えないサービスのこと。しかしそれらは必ずしも地位や知名度などがもたらす恩恵ではなく、「サービスを受ける側のマナーとルール」も大きく影響しているのだといいます。
だとすれば、「積極的にサービスしたくなるゲストとは、どのような人なのか」をぜひとも知りたいところ。そこで本書では、服装、アプローチ、受け答え、態度などの基本的なマナーから、ワンランク上のおもてなしを引き寄せるテクニックを紹介しているわけです。Chapter 1「サービスを受けるための資格と品格」に注目してみましょう。
「おもてなし」と「サービス」の違いとは
どのような場所であれ、接客の基本は「おもてなし」の心。一流のサービスを受けるということは、「最上級のおもてなし」を受けるということだと著者はいいます。ちなみに、日本人ならではのホスピタリティ精神を表しているといわれる「おもてなし」という言葉には、2つの語源があるのだそうです。ひとつは「もてなす」の丁寧語、もうひとつは「表裏なし」の意。
さらに「もてなす」の語源を探ると「モノを持って成し遂げる」で、お客様に対する扱い・待遇のことを指すのだとか。ここでいう「モノ」とは、目に見える物体と目に見えない事象のこと。そして「表裏なし」も、表裏がない心でお客様を迎えるという意味。つまりは"物心両面でお客様に対して最善を尽くし、真摯にお迎えすること"が、おもてなしの真の意味だということです。
「おもてなし」は英語で「hospitality(ホスピタリティ)」と訳されることがありますが、おもしろいのは、フランス語だと「オスピタリテ(受け入れる)」という意味になるということ。また"hospitality"の「hos」を持つ単語には「接客」と「虐待」という相反する意味があるのだとか。おもてなしは礼儀であり、己に対する礼儀ができないと、相手に対する礼儀が成り立たないという考え方です。
サービスのプロたちは、「サービスは有料、おもてなしは無償」であることを知っているのだと著者は指摘しています。ならば、おもてなしは気持ち次第ということになるでしょう。したがって、残念なサービスしか受けられない人の多くは、おもてなしやホスピタリティに込められたサービススタッフの心を理解せず、サービスされる側とする側に上下関係や主従関係を持ち込む人だといえます。逆にワンランク上のサービス=おもてなしを受けられる人は、サービススタッフとの関係を「人間同士のおつきあい」と捉えられる人だということになります。(14ページより)
高級感よりも清潔感が大事
著者は、セレブリティの洗練された外見には、どこか共通項があるように思うのだそうです。ブランド物でゴテゴテと飾っている人はむしろ少数派で、清潔感があるということ。そこには理由があり、つまり彼らは自分が相手に与える印象を誰よりも重要視しているというのです。だから人と会うときは心身ともにベストの状態であろうと心がけ、日ごろから内面も外見も磨いているということ。身だしなみが、もっとも基本にして最高の礼儀であると知っているわけです。
そして自分自身がこだわっているだけに、彼らは相手の清潔感に関してもとても敏感。といっても、「きれいか汚いか」を判断しているわけではなく、見ているのは、自分と会うために相手がどれだけ気を使い、努力をしてきてくれたかということ。いわば、清潔感を自分への誠意や信頼感のバロメーターにしているというのです。人は身なりで判断されるので、ワンランク上の自分を目指したいのなら、日ごろからケアを怠らないことが大切だということです。(25ページより)
「歯」こそ清潔感の決め手
「人の第一印象は0.8秒で決まる」といわれることがありますが、たしかに人は一瞬にして相手を視覚でとらえ、「こんな人」とカテゴライズする能力に長けているもの。そこで、最初に安心され、「気楽に話せる人だな」と思われることが重要になってきます。
そして第一印象を決めるのは顔の良し悪しや服装や態度だけではなく、歯も重要な要素だと著者は指摘しています。自分の歯をどれだけ気にかけているかで、人となりが見えてくるものだというのです。
実際のところ、白く歯並びのいい歯は、面接やビジネスにも有利。笑みを浮かべた際にきれいな歯がのぞけば、面接官もその人に「清潔で健康的な生活を送っている」という印象を持つはず。また、ビジネスの商談の場においても、信頼感を持ってもらえるといいます。
だからこそ、歯を白くする以外にも、半年に1度は歯の定期検診に行くべきだと著者はいいます。「お金と時間がかかるから」という理由で、長い間、虫歯を放っておく人もいますが、虫歯の痛みはかなりのストレスになり、仕事に支障をきたすこともあるもの。ましてや、虫歯がひどくなってから歯科医院に通うのは不経済でもあります。社会的な成功を収めた人の多くが定期的に歯科医院に通うのは、その方が効率的だからだというわけです。
もちろん歯の他にも、爪をきちんと切り揃え清潔にしておく、鼻毛に気をつける、吹き出物ができやすい人はスキンケア用品で予防する、眉毛を整える、そしてブレスケアなど、細心の気遣いをしておくことが大切。なぜならそれは相手への気づかいであり、ひいてはその気づかいが人もお金も引き寄せるからだということ。(29ページより)
予算がないうちは一点豪華主義
全身をブランドもので固める必要はないとはいえ、安物ばかりを身につけていると、すぐに見破られて中身まで値踏みされてしまうものだと著者。そればかりか、自分自身が周囲に引け目を感じてしまうこともあるでしょう。
とはいえ、高級品を揃えるためには経済的な負担がかかります。そこで解決策として著者が提案しているのが、「一点豪華主義を狙え」ということなのだとか。服に限らず、時計、靴、ベルト、帽子など、高級品を身につけられるようになれば、その金額に見合った人と見られるようになり、同時に自分自身のモチベーションもアップするといいます。(36ページより)
姿勢が悪いとサービスの質も落ちる?
たとえブランド物の服や高価な靴、腕時計を身につけていたとしても、姿勢がだらしない人は、なんとなく貧相に見えてしまうもの。逆に、白いTシャツにジーンズという飾り気のない服装であったとしても、背筋をピンと伸ばして颯爽と歩いている人は魅力的に映ります。
パソコンやスマートフォンに向かう時間が増えたことも影響してか、最近は首を前に突き出したような、猫背の人が少なくありません。しかし猫背の姿勢で立ったり歩いたりしていると、どうしても下向き加減になり、両肩も下がり気味になるもの。著者によればこうした姿勢の悪さや歩き方は、特に海外に行くと悪い意味でとても目立つそうです。
欧米のセレブリティには、幼いころからマナーのひとつとして正しい姿勢を身につけている人も少なくありません。だからホテルやレストランでは、ひと目で「育ちのよくない人」と判断されかねないともいいます。場の雰囲気を大切にするホテルやレストランの場合、"それなりの"サービスしか受けられないということもありうるというのです。それほど、姿勢は大切だということ。
よい姿勢をキープするためには、まず頭からかかとまで1本の線がまっすぐ貫いているところをイメージすることが重要。そうすれば、背筋が自然に伸びてくるそうです。そして歩くときにもそのまっすぐなラインを崩さないようにし、肩甲骨を引き寄せて胸から前に出るように踏み出します。歩幅はやや大きめに、スピードはややゆっくりと。立ち方、歩き方を少し意識するだけで、発するオーラに品格や余裕が感じられるようになるといいます。(70ページより)
他にもセレブリティに学ぶ習慣や、さまざまなサービスの受け方など、一流のサービスとその"受け方"が多角的に紹介されています。サービスの本質を知るためには、多くの場面で役立ちそうな1冊だといえるでしょう。
(印南敦史)