前回は海外視察での見るべきポイントをお伝えしましたが、今回は1つの国に絞ってご紹介しようと思います。最近、進出を検討する企業からのご相談が特に増えている国、中東のドバイです。

日本ではあまり馴染みがなく、イメージとしては石油産出国や富裕層の多い国と思われていますが、実はドバイでの石油産業の割合はGDPで数%程度です。ではどのように経済成長を遂げてきたかというと、石油産業に頼らない経済を目指し、まずハード・ソフト両面でのインフラを整備し、金融・不動産の自由を進め、経済特区を設けることで、海外企業の誘致や投資を積極的に呼び込み、さらに観光やレジャー産業を発展させ、外国人労働者を有効活用することで伸びてきました。

もともとは石油産業が少ないことでUAEの中でも恵まれない国だったのですが、先先代・先代首長から上記施策を続けることで、皆さんもご存知の裕福な国へと成長してきたのです。私が2012年に初めてドバイに訪れた時にも、想像を超える高層ビル群や、日本では見たこともないような大型クルーザーに綺麗なマリーナと海、ウィンドウショッピングすらためらってしまうほどの高級ブランドの数々や、大型ショッピングモールに停まる高級車の多さに圧倒されました。街全体がテーマパークのようでもあり、現実感の無さを感じたことを覚えています。

さて、それでは日本人や日本企業がドバイ進出を考えるうえで、ドバイについて知っておくべきいくつかのポイントをお伝えします。

1. 基本を知ろう! 文化の違いは大きな違い

まず大きな違いは文化です。UAEの中ではイスラム色が薄いと言われており、確かにリカーライセンス(アルコールを販売する権利)を持つ飲食店も多く、比較的簡単にお酒も飲むことができます。ただそれはあくまでUAEの中で比べたときの話で、日本人としては気をつけるべきさまざまな点があります。

服装について

アラブ諸国で言われる「女性はアバヤを身につけ、ほとんど素肌を見せてはいけない!」というほど、ドバイは厳格ではありませんが、やはり女性の方はあまり肌を露出する服装は控えた方がいいでしょう。男性も、人前で女性と接触するのは好ましくありません。また、実際によくある話としては、Tシャツやバッグなどにプリントされているデザインが露出度が高い女性の絵などの場合、道を歩いているだけでも注意されることがあります。

ですから、ドバイ進出を考える場合、服についても注意が必要です。私はドバイでのビジネスタイムはスーツを着ていますが、夏は気温が50度を超えるので、もし外に出れば数分でビッショリ汗をかくほどです。ただ、ほとんどの移動はタクシーかメトロですので、それほど不都合はないと思います。

話はちょっと逸れてしまいますが、気をつけなければいけないのは砂漠の砂です。以前知らずに革靴で砂漠の中を歩いてしまったのですが、砂漠の細かい砂が靴の中に入ってしまい、どんなに払っても砂が出続けてくるという大変な目に合いました。砂漠を歩く時にはぜひ靴にも気をつけて下さい。

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飲食物について

先ほどお伝えした通り、比較的お酒への許容も深い国ですが、公の場で飲んだり酔っ払うことは許されません。ただ、私たちが行く分には観光客向けの飲食店も数多くあるので、それほど心配はいりません。しかし、食べ物のお土産を持っていく場合や、日本に来た人をもてなす場合などは注意が必要です。基本的には「ハラールフード」にのっとればよいのですが、ハラール自体もローカルハラールなどさまざまな国で認証機関が存在し、独自の見解もあり統一もされていないので、十分注意してください。また、食品自体にアルコールや食肉が入っていないことはもちろんですが、食品製造機械などの清掃の際に、アルコール除菌をした場合もダメなことがほとんどなので、注意しなければなりません。

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ショッピングマートのフードコートで提供されているアラビア料理

2020年の東京オリンピックに向けて、日本の飲食店がハラール認証を取得し始めており、観光客にとっては宗教上安全なものが食べられるので、とても良いことだと思います。ただ、こちらも認証を一度受けたからと安心することなく、自らもハラールについて調べ学び、本当に問題ないかを観光客を受け入れる前に再チェックしてもらった方がいいと思います。「間違えました」では済みませんので、くれぐれもご注意ください。

2. 住民は大きく分けると2タイプ?

ドバイには大きく分けて2つのタイプがいます。ひとつはドバイローカルと言われるアラブ人です。しかし、実はドバイでのアラブ人の割合は低く、20%程度です。残りの80%はインド人が多くを占める外国人労働者です。

ドバイローカル

ドバイローカルといえばアラブ人で、多くが皆さんのイメージ通り、富裕層です。ドバイローカルは水道光熱費無料、教育費や医療費も無料、法人税、所得税も無料、その他さまざまな手厚い手当も付いており、一般年収は1500万円以上とも。日本の手取り年収の平均と比べると数倍の開きがあります。このドバイローカルをターゲットにした場合、購買力や資金力などはとても魅力的です。

彼らはアラビックコーヒーを飲みながら甘いものを食べるのが好きなので、日本の甘いものなどは興味をひかれやすいです。また、健康志向も高まっているので、体によい食べ物なども今後需要は高まるのではないかと思います。また、ちょっと変わった視点としては、友人などに自慢できるモノかどうか? ということも重要です。お金を持っているからといって何でも買ってしまうということはなく、堅実なので必要でないモノは買いません。ただし、誰もが持っていない、もしくは誰もがうらやむモノに関しては購買意欲が高いようです。

また、私がドバイローカルとはじめてビジネスをした時には、独特の時間感覚に驚きました。基本的に裕福だからなのか、それとも砂漠の民だからなのか、急ぐということがあまりありませんでした。こちらが、急ぎで返答を欲しいと依頼しても、こちらのペースというより自らのペースを中心に物事を進めていくことが多いです。また、ラマダン期間中はさらに物事が進みづらくなるので、注意が必要です。

外国人労働者

80%を占める外国人労働者と言っても年収は幅広く、サービス業に従事している人から駐在者や自らビジネスを手がけている人まで、さまざまです。一般的には、80%の中の多くを占めるインド人をターゲットとすると考えやすいかと思います。多くの人は、やはり生活用品や日常品への購買意欲が高いですが、品質が良くて値段も適正でなければ当然、購入はしません。

理由としては、ドバイ政府と中国政府が作り上げたドラゴンマートの存在が大きいです。このドラゴンマートには、食品から生活用品はもちろん、家具や建築資材、コピー商品までありとあらゆるものが売られています。あらゆるものはドラゴンマートの商品と比べられるため、国内未発売であったり高品質であったりするなど、差別化した商品が必要です。

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3. いざドバイへ

前回の記事でも、何はともあれまずは現地に行ってみることをお勧めしましたが、いざドバイに行った場合はどうでしょうか。日本からは東京であれば成田か羽田から毎日直行便が出ており、11時間50分程度で到着します。羽田便は深夜0時30分に出発し、現地時間の7時20分着です。飛行機で寝て現地の朝から動くことができます。一方、成田便は現地時間4時15分着なので注意が必要です(私も、いざ着いても何もすることがなく、ぼうぜんとしたことがあります)。

日本のイメージは?

ドバイ人に日本の印象を聞いた際、「キャプテンマジッドが有名!」と言われました。「キャプテンマジッド?」と初めはわからなかったのですが、過去に日本の「キャプテン翼」が大流行したらしく、その印象が強いようです。また、一般的に日本のイメージはよく、日本製品も印象はいいです。ただ、韓国製品と比較すると高くて品数も少ないので、もっと安くて豊富な種類の日本製品が入って来ればいいのに、と言っていました。

ちなみに、ドバイマート内のKINOKUNIYAでは日本の漫画も売ってますし、アニメのフィギュアなども売ってます。また、日本に限らずアジア人の子供がとてもかわいく見えるそうで、アジア人の子供がマートを歩いていると、みんな構ってくれたり微笑んでくれたりするそうです。ちなみに、ドバイは女性と子供にはとても優しく、メトロにも女性と子供専用の車両があるため、男性が間違って乗ってしまうと注意されてしまいます。

居心地は?

以前とある外資系企業の幹部に聞いたところ、UAEにビジネス展開するための拠点はドバイがいいと話していました。理由を聞くと、その他の地域では飲酒などの規制がとても厳しく、駐在者が息抜きもできず参ってしまうそうです。息抜きだけではなく、もちろんビジネスマーケットとしても魅力的です。世界中からビジネスマンが集まってくるため、「この商品を自国で扱えないか?」という問い合わせもよくきます。

また、何と言っても子供や家族を連れて行くにはオススメの国です。治安も非常によく、観光にはこと欠きません。さらに子供の教育にもとてもよい環境で、多国籍な子供たちが集まるので、自然とさまざまな国の言葉を覚えられるそうです。自分の子供の兄弟げんかが他言語すぎてわからなかったという話も聞きました。

遠く感じる国ですが、とても魅力的で素敵な国です。日本より進んでいる部分もたくさんありますので、ぜひ一度、仕事でもプライベートでも行ってみることをオススメします。

疋田正人(ひきた・まさと)

hikita_world.jpg株式会社ヘッドウォータース取締役兼経営企画室室長。マネージングスタイリスト。1978年埼玉県生まれ。2006年、株式会社ヘッドウォータースに入社し、半年後に取締役に就任。同社のベトナム、カンボジア、ドバイ進出を成功に導き、グローバル企業としての礎を築く。2008年、中国の大手SI会社との合弁企業の代表取締役に就任し、中国事業を一手に担う。国家レベルの大規模プロジェクトマネージメントから、国内外の事業戦略・広報戦略などの立案、企業間アライアンス、「日本の中小企業を世界で勝たせる」というミッションを掲げ、数多くのクライアント企業に対して海外進出コンサルティングを行うなど、幅広い役務を担っている。

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