フィクションが、真実より良い仕事をするのは間違いない。
ドリス・レッシング
Buffer Blog:私のチームメイトが読んでいる本は、ノンフィクションに偏っています。彼らは、仕事に役立つ本や、世界をより良く理解する本、生産性を高める本などを好んで読んでいるようです。
面白いことに、フィクションを読んでもそうした自己改善本を読むのと同じくらいの効果があります。たとえ、心の中にしか存在しない物語世界を探検していてもです。
事実、何世紀にもわたって、本や詩などがセラピーに使われてきました。フィクションは他者を理解し、創造力を高め、脳を訓練するのを助けるユニークな力をもっているのです。
自己改善本のかわりにフィクションを読んで罪悪感を抱くようなら、以下の、9つのメリットを思い出してください。
1. 共感力:想像力は理解力につながる
人の気持ちになって考えたり、共感力を高めたりするために、フィクションを読むことほど効果的なものはありません。数々の研究で、物語をイメージすることが他者を理解したり、世界を新しい視点で見たりすることに関わる脳内領域を活性化することがわかっています。
心理学者のレイモンド・マー氏は機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)を使った86の研究を分析し、物語を理解するために使われる脳内ネットワークと、他者と交流するために使われる脳内ネットワークが、著しく重なりあっていることを発見しました。
特に、他者の考えや感情を理解しようとする交流においてそうだ。科学者たちは、他者の意図を推測するこうした脳の機能を「心の理論」と呼んでいる。物語はこの機能を発揮するユニークな機会を提供する。読者が、登場人物たちの切望や不満に共感し、隠れた動機を推測するとき、あるいは、登場人物が友人や敵、隣人や恋人と出会っていくのを追いかけるとき、この機能が働く。
本の中で登場人物の状況や感情を追いかけるとき、私たちはそれが自分自身に起きているかのように感じます。ブログ「Fast Company」は次のようにレポートしています。
ワシントン大学のふたりの研究者が、フィクションを読む人々の脳を調べたところ、物語の中で出会った風景、音、動き、味覚について、生き生きとした心的シミュレーションを創りだしていることがわかりました。つまり、被験者たちの脳は、本の中の出来事を実際に経験しているかのような反応を示したのです。
2. 離脱:読書はストレス解消にもっとも効果的
脳は24時間フル稼働できません。私たちはみな、脳を休ませて、その性能を回復させるための時間を必要としています。
トニー・シュワルツ氏は、これが、私たちの生活でもっとも見過ごされている要素の1つだと言っています。
最速のレーシングカーでさえ、少なくとも1~2回のピットインをしなければレースには勝てません。同じことが私たちの脳にもあてはまります。毎日の生活の中に「ピットストップ」がなければ、高い性能でレースを続けることは不可能です。
フィクションを読むのは、脳を休ませるためのベストな方法の1つです。「The New Yorker」誌は次のようにレポートしています。
読書をすると、脳が心地よいトランス状態(瞑想に似ている)になることがわかっている。また、読書は、深いリラクゼーションや心の平安と同じくらい、健康に良い効果がある。普段から読書をする人は、読書をしない人に比べて、よく眠り、ストレスが低く、自尊心が高く、抑うつになりにくい。
サセックス大学の研究は、読書がストレスを克服するもっとも効果的な方法であり、音楽鑑賞や散歩よりも効果が高いことを明らかにしました。
静かに読書を始めてから6分以内に、被験者たちの心拍数は低下し、筋肉の緊張が最大68%緩和されました。心理学者たちは、読書がこれほど効果的なのは、心の集中が、体のストレスを緩和するリラックス状態を作り出すからだと考えています。
3. 睡眠:よく読む人はよく眠る
実際、読書が作り出すリラックス状態は、睡眠を促すのに完璧な環境と言えます。
就眠習慣を作るのは、睡眠パターンを安定させる優れたやり方です。ポイントは、1日の最後の営みが、その日のタスクからあなたを完全に解放するものであることです。
BufferのCEOであるジョエルは、夜、短い散歩にでかけ、家に戻るとベッドに直行してフィクションを読むという習慣をもっています。ジョエルによると、この習慣のおかげで、1日の仕事から解放され、翌朝はリフレッシュして目覚められるのだそうです。
作家のティム・フェリス氏も、就寝前の読書の力を信じています(ただしフィクション限定です)。
寝る前にノンフィクションは読まないこと。ノンフィクションを読むと、先のことばかりを考えてしまうようになる。ここでは、イマジネーションをかきたて、今という時間を意識させてくれるフィクションを読むようにする。狂信的なノンフィクション読者には『Motherless Brooklyn』や『異星の客』をお勧めしたい。
4. 人間関係の改善:本は「リアリティ・シミュレーター」
人生は複雑です。人間関係の問題や、人生の課題には、シンプルな解決策などないことが多いです。この現実を、どうすればもっと受け入れやすくなるでしょうか? 変化、複雑な感情、未知のアイデアを探求するためにフィクションを使うのです。
トロント大学の認知心理学名誉教授であるキース・オートリー博士は、ニューヨーク・タイムズ誌に対し、「コンピューターのシミュレーションのように、読書をすると、読者の心の中で、ある種のリアリティ・シミュレーションが生成される」と語っています。
オートリー博士によると、フィクションは「極めて有益なシミュレーションである。なぜなら、現実社会を切り抜けるには細心の注意が必要で、無数の因果関係を見極めていかなければならないからだ。コンピューター・シミュレーションが、飛行機の操縦や天気の予測といった複雑な問題への対処を助けてくれるのと同じく、小説や物語、ドラマは、社会生活の複雑さを理解するのを助けてくれる」のだそうです。
作家のアイリーン・ガン氏は、SFは、私たちが変化を受け入れるのを助けてくれる、と話します。
SF小説の役割とは、特に未来を舞台とした作品の場合「万物は変化する、そして私たちはその中で生きていく」ということを、人々が理解できるようにサポートすることです。変化はいつでも私たちを取り巻いています。しかも、そのスピードは、おそらく400~500年前と比べれば速くなっています。世界の一部の地域では特にそうでしょう。
5. 記憶:本を読む人は高齢になったときに認知機能の低下が起こりにくい
ある情報を物語として聞かされると、長期にわたって忘れにくくなることが知られています。
また、読書をする人は、しない人に比べて、高齢期における記憶機能の低下がゆるやかであることがわかっています。高齢の読者は、同年代の人たちに比べて、認知機能が低下する割合が32%低いのです。
記憶機能の低下がゆるくなるのに加え、読書をする人はアルツハイマーになりにくいことが、2001年の『米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences)』に掲載された研究で示されています。
6. 包括的になる:物語は心をオープンにする
ハリーポッターを読むと、より包括的、寛容、オープンマインドになれるでしょうか? ある研究はイエスと言っています。
「応用社会心理学(Applied Social Psychology)」ジャーナルに掲載された研究では、小説「ハリーポッター」を読むと、読者の社会的弱者への態度が変化するかどうかが調べられました。
実験は三度行われましたが、ハリーポッターの差別に関する箇所を読んだ生徒たちは、移民やLGBTなどに対する態度を変化させました。
ブログ「Science.Mic」は、こう書いています。
研究者たちは、ハリーポッターを読むことで、マイノリティの立場を理解する能力が向上することを認めた。また、幼い子どもでも教師の助けがあれば、本の中でハリーがたびたび「マッドブラッド(穢れた血)」の味方をするのは、現実社会に存在する、偏見への寓意であることを理解する。
読書が人の心をオープンにすることに疑う余地はありません。リサ・ブー氏のすばらしいTEDトークがこのことを端的に表現しています。
7. ボキャブラリー:フィクションの読者は言語に習熟する
私たちは、自己を表現し、他者とつながるのを助けてくれるボキャブラリーが欲しいと思っています。
それにはフィクションが助けになります。2013年にエモリー大学で行われた研究では、9日間以上、ロバート・ハリスの『ポンペイの4日間』を読んだ人の脳と、読まなかった人の脳を比べました。
本を読んだ人の脳は、読まなかった人の脳に比べて、特定の領域(特に、言語の理解に関連する左側頭葉)がより活性化していることがわかりました。
ウェブサイト「testyourvocab.com」は、テストを受けた数百万人を分析して、読書がボキャブラリーを育てるのに有効であることを発見しました。これはある意味予想通りですが、予想外だったのが、本の種類によってその効果が明らかに異なっていたことです。フィクションをよく読む人は、著しく多くのボキャブラリーをもっていました。
研究者は言っています。
「フィクションを読むのは、ノンフィクションを読むのに比べてボキャブラリーの増強に効果がある」というのは、以前からわれわれの仮説ではあった。これは、フィクションではノンフィクションよりも幅広い言葉が使われる傾向があることを考えると、理解できる。しかし、その効果にこれほどの違いがあるとは思っていなかった。
8. 創造性:フィクションは曖昧さを許容する(すなわち創造性を育てる)
映画では、ハッピーエンドな結末をよく見かけます。一方、フィクション(小説)の結末はもっと多様であることが多いのに気づいていますか?
それが、フィクションが創造性にとって完璧な環境である理由です。「創造性研究(Creativity Research)」ジャーナルに掲載されたある研究では、学生たちに、フィクションの短編かノンフィクションのエッセイのどちらかを読んでもらい、それぞれのグループが、感情面において確実性と安定性をどれくらい必要としているかを調べました。
研究者たちは、フィクションの読者はノンフィクションの読者に比べて、「認識しない機能」を必要としないことを発見し、次のように付け加えています。
これは、フィクションの文学作品を読むと、情報の処理が向上することを示唆しており、そこには創造性も含まれる。
9. 喜び:読書は人を幸せにする
上記で述べてきたことは、すばらしい内容ばかりです。とはいえ、私が毎日読書をする最大の理由はなんでしょうか? それは、読書が好きだからです。読書は私を幸せにし、孤独を遠ざけてくれます。英国の、読書をする成人1500人にアンケートをしたところ、76%の人が、読書のおかげで生活が改善され、気分も良くなっていると答えています。
ほかにも、このアンケートで、普段から読書をする人は、生活に満足し、幸福で、自分がしていることに価値を感じる傾向が強いことがわかりました。
私たちは自分を幸せにするべきなのです!
The Surprising Power of Reading Fiction: 9 Ways it Make Us Happier and More Creative|Buffer Blog
Courtney Seiter(訳:伊藤貴之)
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