『年収の伸びしろは、休日の過ごし方で決まる ズバ抜けて稼ぐ力をつける戦略的オフタイムのコツ34』(池本克之著、朝日新聞出版)の著者は、これまでに2社の上場や成長にかかわり、7社の社外取締役を務め、300社以上を指導してきた経営コンサルタント。本書ではオンとオフの使い方について、独自の考え方を披露しています。
まず注目すべきは、著者が辣腕経営者や一流のビジネスパーソンなどについて、「オンとオフについて『切り替え』や『メリハリ』といった認識を持っていない人が多い」と感じているという点。オンとオフは表裏一体であり、意識的に切り離すものではないと考えているように見えるということで、それは著者自身の考え方でもあるそうです。
一流のアスリートは、試合で最高のパフォーマンスを出すために、日常生活でも自己管理を徹底しています。
一流のマーケッターは、世の中の流れをつかむために、仕事を離れても常に情報のアンテナを張り巡らせています。
できる人は「時間の価値」を重要視します。いかに効率よく仕事を進めるか、いかに無駄な時間、何も生まない時間をなくすか。
なぜなら、時間価値を高めることが成果につながることを知っているからです。(「はじめに」より)
それはオフタイムでも同じで、むしろオフタイムの時間価値の方を重要視する傾向にあるとか。CHAPTER 1「『オフ』を活かせば、成長速度は2倍になる」から、基本的な考え方を引き出してみます。
仕事のストレスをオフで解消するのは三流
ストレスへの対峙の仕方は、ストレスが引き起こす心身の変化にアプローチする「情動処理型」と、原因となる問題に直接アプローチする「問題解決型」の2通りの方法に大別されるそうです。ゴルフやカラオケなど、オフタイムの遊びで気晴らしや気分転換をし、ストレスを発散するのは前者の「情動処理型」対処法。現代社においてストレスは心身の不調を引き起こす原因になりかねないだけに、一時的にでもストレスを洗い流す=ストレスを発散することは、自分のメンタル・マネジメントともいえるはず。しかし著者はそれを認めたうえで、「発散することが根本的な解決にはならない」ことに注意すべきだとも主張しています。
一方、「ストレスそのものをなんとかしよう」「ストレスと向き合って根本的な問題を解決しよう」と考えるのが後者の「問題解決型」。遊びでのストレス発散は根本的な解決策となりえないからこそ、オフタイムの遊びをストレス発散のためには使わないのがこちらのタイプ。むしろ、あえて遊びにストレスやプレッシャーを持ち込むことで、それに上手に対処するためのトレーニングをしているようにさえ見えるといいます。
たとえばゴルフをするにしても、「目標のスコアを出せなかったら、奥さんにバッグを買ってあげる」など、「自分自身になにかを課す」ということ。遊びのなかで、それなりにハードルの高い"ペナルティ"を自分に課すことで自分にストレスやプレッシャーを与え、そのなかでなんとかいい結果を出す努力をする。それが、仕事の現場に"あって当然"のストレスに対峙し、マネジメントしながら大きな成果を出すためのトレーニングになっているというわけです。
仕事のストレスを遊びで発散、解消するとは、ストレスを「-1」、オフの遊びを「+1」と考え、「-1」+「+1」=「0」にするという発想。しかしそれでは、いつまでたっても「0」のままです。そこで発想を変え、「ストレスはあって当然なのだから、『-1』ではなく『±0』と考える。そこにオフの遊びで学んだり身につけたりしたことを持ち込めば、結果は「+」に。「情動処理」のため、ストレス発散のために遊ぶのではなく、「問題解決」のため、ストレスと対峙できる自分づくりのために遊ぶという発想。遊びではあるけれど、自己鍛錬の場でもあると考える姿勢が大切だということです。(16ページより)
利益を出し続ける人は「ゲーム感覚」で仕事に臨む
仕事はつらくて当たり前。そこにどうおもしろさを見つけるかは、人それぞれです。すべてに当てはまる正解はありませんが、ひとつだけいえることがあると著者はいいます。それは、真剣に仕事をしているからこそ、仕事がおもしろくなるということ。楽しくないから「この程度でいいか」とお茶をにごしたり、「しんどいから、怒られない程度にいわれたことだけをやっておこう」というスタンスで臨んでいる仕事からは、おもしろみなど見出せなくて当然。
では、なぜ真剣になれないかといえば、仕事は遊びではないから。逆に遊びや趣味がおもしろいのは、真剣に取り組んでいるから。だとすれば、仕事に"真剣になれる遊び的な要素"を取り入れれば、おもしろさも見つけられるという考え方です。つまり、仕事をひとつのゲームだと考えればいいのだと著者。仕事をいい加減にやるという意味ではなく、仕事をゲーム(遊び)にし、休日に楽しむように真剣に取り組むということ。
たとえば、世の中の流行や経済情勢、業界の動向などの情報を取り入れながら、今月の成績を先月よりもアップさせる。目標スコア(売上)達成を目指す。思うようにノルマというステージをクリアできないときには、ゲーム(仕事)の進め方や目標設定に問題はなかったか、顧客や取引先にバリューの高い商品やサービスを提供できていたか、などをチェックする。スコアをアップさせるために真剣に考え、ステージクリアのために真剣に知恵を絞る。こうして仕事への取り組みに真剣さが生まれてくれば、少しずつおもしろさが見えてくるかもしれないということです。
なお仕事というゲームがおもしろいのは、ステージクリアした先にある答えが、普遍的なものではないこと。環境や社会情勢などの外的要因によって答えが常に流動しているので、これが見つかればゲームクリアという「正解」は永遠に出てこない。でも経験を積むたびに、使えるアイデアや武器などのアイテムは増えていく。それが、ビジネスパーソンとしての成長の証になるということです。(21ページより)
好きなことは仕事にせずに、儲かる仕事を好きになる
「好きなことを仕事にしたい」と考える人は多く、「好きなことを仕事にしよう」というメッセージを見る機会も少なくありません。しかし著者は、「本当に好きなことは仕事にしない方がいい」と考えているそうです。なぜなら「好き」を仕事にすると、それまでは楽しんでいればよかったのに、利益を考えなければいけなくなるから。だとすれば、「好き」は「好きのまま」にしておく方がいいという考え方。「趣味」は「趣味のまま」で楽しむべきで、利益を得る手段としての仕事にせず、あくまでも趣味や遊びとしてとことん突き詰めればいいというわけです。
大切なのは、「好きなことを仕事にする」のは、「好きなことを好きなようにやってお金を稼ぐ」ことではないということ。たとえば料理を仕事にするのであれば「お金を払ってもらう対価としての料理」を提供する義務が発生することに。顧客がお金を払って満足できるものを"提供し続けなければ"いけないということです。料理が好きなだけではビジネスにならないのです。
そもそも仕事とは常になんらかのストレスと隣り合わせにあるもので、「楽しいもの」「楽しむもの」ではないと著者は記しています。しかしそれでも、仕事はおもしろい。なぜなら、あまり関心がない仕事だったとしても、毎日がんばって営業に奔走し、結果として新規の契約数や顧客数が増えたとしたら、それは仕事として「おもしろい」ことになるから。
事実、できるビジネスパーソン、一流と呼ばれる経営者の多くは、「自分が好きなことを仕事にした人」よりも、「自分ががんばった仕事を好きになった人」であるように著者は思えるそうです。いってみれば、あとから仕事を好きになっているということ。
重要なのは、自分の人生のなかに、「好きなこと」と「仕事」をどう配置するか。好きなことをとことん突き詰めれば、仕事とは別の学びも生まれるはず。その学びが、仕事にフィードバックをもたらしてくれることもあるかもしれない。だから、「好きなことは仕事とは切り離し、好きなままでとことん楽しむ方がいい」という考え方です。(25ページより)
稼ぐビジネスパーソンは、休日こそ早起きをする
仕事よりも趣味の方が楽しいのは当たり前。楽しい遊びにすら真剣になれない人が、楽しくない仕事に真剣になれるはずがない。そう断言する著者は、遊びこそ真剣に手を抜かない一流のビジネスパーソンは、オフタイム、休日の存在をとても大事にしていると記しています。
具体的には、長期のスケジュールを組むとき、休日の予定を最初に考える人が少なくないのだとか。充実した休日をしっかり確保できるように考え、仕事の段取りを組み立てる。そうすることで、仕事にも高い集中力を持って取り組むことができるというわけです。
そして、休日をムダにしない最大のコツは「早起きすること」。「明日は休みだ」と思うと、前の晩につい夜更かしをし、翌朝は寝過ごしてしまいがち。しかしそれでは、せっかくの休日の活動時間が激減してしまいます。そこで一流は、「休みだから、朝は5時に起きよう」と"逆"を考えるのだそうです。平日よりも早く起き、1日を有効活用しようと考えるわけです。
そのため休みの前日はできるだけ早めに仕事を切り上げ、早く帰宅して早めに寝る。早起きするには、早寝するのがいちばん有効で健康的な方法だからです。そうすれば、休み当日は早朝から予定をたくさん入れることが可能に。休日は、前の晩から始まっているという発想です。
ちなみに「せっかくの休日なのに、なんてムダに過ごしてしまったんだ」と後悔することが多い人のために、著者は「もしものプラン」をあらかじめ用意しておくことを勧めています。「明日、突然1日オフになったけれど、なにもやることがない」というときのために、休日の過ごし方のストックをしておくということ。
「まだ行ったことがないから日光に行く」「信州に美味しいそばを食べに行く」など、やることがない休日が取れたときのために、選択肢(バックアップ・プラン)をいくつか用意してリスト化しておき、片っぱしからクリアしていくわけです。(35ページより)
以後も「思考のクセ」のつけ方、メンタル・マネジメント、フィジカル・マネジメント、果ては旅の作法や身だしなみに至るまで、さまざまな角度から一流のビジネスパーソンのあり方を説いています。目を通してみれば、休日を有効に使うためのコツをつかむことができるかもしれません。
(印南敦史)