思いが伝わる! 心を動かす!アイデアを「カタチ」にする技術』(長澤宏樹著、総合法令出版)の著者は、大手広告代理店のクリエイティブ・ディレクターとして10数年にわたって活躍してきた人物。

しかし東日本大震災を契機として自分を見つめなおし、「いままでずっと逃げてきたことを実現しよう」と考えたのだそうです。それは、「ハワイに住み、ハワイと日本の架け橋となるビジネスを行う」ということ。そして独立し、現在はハワイでブランドの立ち上げを軸とした事業を展開しているのだといいます。

要約するとトントン拍子だったように感じられるかもしれませんが、実はここに至るまでには、分厚い企画書のやり取りが何度もあったのだとか。つまり思い描いた企画を企画書にし、ブラッシュアップを重ねていくうち、やがてそれが具現化され...というプロセスを経て、アイデアがカタチになったということ。本書で伝えようとしているのも、まさにこの「アイデアをカタチにする」という部分です。

しかし純粋に、「そうはいっても企画を出すのは難しいでしょ」と感じる人も少なくないかもしれません。そこで企画についての不安を払拭すべく、第1章「企画力があればそれだけで生きていける」から、いくつかの要点を引き出してみたいと思います。

成功した人で、企画力がない人はいない

安定収入がない状態からハワイで暮らすことを決めた著者は、すでに安定した収入を得る手段を持っている成功者たちの話に耳を傾け続けた結果、彼らの共通点を見つけたのだそうです。それは、ハワイにいる成功者は、「企画体質が高い人が多い」ということなのだとか。つまり、

・企画の本質を見極める能力が高い

・魅力的な企画を自ら考えることができる

・考えついた企画は、即実行する行動力がある

(20ページより)

ということ。企画体質が高い人は、企画に対してとにかく貪欲。なにかアイデアが生まれればすぐ実行。しかも、そのつどよりよいアイデアを加え、企画の質を高めていくということ。結果的に採用される機会も増え、「成功者」といわれる地位にまで上り詰めていくわけです。だから成功した人で、企画力のない人はいないという考え方です。

一方、企画体質の低い人は、自ら企画を生み出すことをしないため、いわれたことに従うだけ。それでは当然、企画の本質を見抜く目も養われません。そして気がつけば、会社の枠や方にはめられていることに、あまり違和感を感じなくなってきてしまう。だからこそ、もし思い通りの人生を送りたいのなら、企画力を磨くことはマストだということです。(18ページより)

まずは足場を固めよう

企画には、人の数だけ考え方があるもの。つまり、「企画はこうあるべきだ」と決めつけることは、企画体質を弱めてしまうことにつながりかねない。著者はそう主張しています。

自分のなかに眠るアイデアを活かしてなにかを成し遂げたいのなら、まず、自分がやっていて楽しいと感じる企画の手法を見つけることが大切。自分自身の手法が見つかるまでは、貪欲に、さまざまな方法を試していく以外の近道はないといいます。そして、そんな著者は常々、「いい企画をつくるためには、自分が企画を考えやすい状態を知る必要がある」と思っているのだそうです。

・自分が企画を思いついきやすい時間帯はいつなのか?

・どの場所で仕事をしているときに、企画を思いつくか?

・なにを見たときに、インスピレーションがわくことが多いか?

(24ページより)

たとえばこのように、自分が企画を思いつきやすい環境を知る。そうやって自分の足場を固めると、やがて自然と企画が浮かぶようになるというわけです。ちなみに著者の場合は、「いい企画を作るためには、土台を固めないといけない」と思っていたため、働き方にも気を配ってきたのだといいます。大手広告代理店に籍を置きながらも、別の会社を立ち上げたり、親族の会社で取締役をしたりして、さまざまな角度から物事を見る目を養うようにしたのだというのです。

そしてそんな経験があるからこそ、「企画づくりとは、自分に合った企画スタイルを探し続けるさすらいの旅みたいなもの」だともいいます。そして、そのスタイルさえ見つかれば、自然と結果はついてくるとも。(22ページより)

企画の師匠を見つけよう

自分に合った企画スタイルを見つけるために必要なのは「外の世界に目を向ける」ことで、それは、他の人がつくった企画に目を向けるべきだという意味。当たり前のような話ですが、それをあえて強調するのは、多くの人が、「自分のなかに答えを求める」という落とし穴に陥ってしまっているから。

「自分の企画がいい」と思ったとたんに、それ以上の成長は止まってしまいます。スポーツでも、音楽でも、まずは自分の理想となる人を探すことが成長につながるように、企画づくりにおいても、外に師匠を見つけることがあなたにとってプラスになります。(26ページより)

「師匠」と聞くと思わず構えてしまいたくもなりますが、それは人でも、あるいは作品でもかまわないのだそうです。そして、師匠を見つける際の決め手となるのは、自分自身が純粋に「おもしろい!」と思えるかどうか。おもしろいと思った企画は、すべて師匠になる資格を持っているということ。そうやって出会った企画を分析していくなかで、自分に合う企画のスタイルが見つかっていくというわけです。

では、企画をどのように「分析」していけばいのでしょうか?

まずすべきは、企画のフレームワーク(骨格)を軸に、企画の大きな流れを見ていくこと。どのような目次で構成されているか、大まかな流れを確認するということです。次は、フォントやタイトルの入れ方など、ディテールの研究。こういった身近な部分で、「この企画書の、この書き方は読みやすい」と思うところを、ひとつでも多く見つけ出していくわけです。

「神は細部に宿る」ということばがあるように、秀逸な企画には、必ず細部までこだわりがあるもの。これを探して真似することが、いちばんの近道になるといいます。ちなみに著者の場合は、「クリエイティブチェック」と題したネタ帳をクラウド上でつけているのだそうです。気になる企画があれば、「クリエイティブチェック」のFacebookページ上で忘れないようにメモしておき、少し時間ができたときに、自身のブログのなかの「クリエイティブチェック」コーナーにもアップするようにしているというのです。なぜここまでするかといえば、これを定期的に行うことで、企画体質を高めることができるから。

テレビCMでも電車広告でも何でも、「いいな」と思う企画を見つけたら、忘れないようにメモしてどんどんストックしていきましょう。ノートを一冊つくってもいいと思います。(28ページより)

企画づくりに、クリエイティブな発想はたいして必要ないと著者はいい切ります。むしろ大切なのは、秀逸な企画から謙虚に学ぶ姿勢。いってみれば、秀逸な企画を探しては、フレームワークとディテールを分析し、メモをとる。そして、そのメモをストックし、企画づくりに「応用」する。これが、企画体質を高める最初のステップになるということです。(26ページより)

「自分で考えた企画」は捨てよう

企画は誰もが考えることのできる技術で、決して特別なことではないはず。にもかかわらず、多くの人が企画に消極的なのはなぜでしょうか? それは「企画書」で表現することに、ヘンな苦手意識があるからだと著者は分析しています。とはいえ自分自身もかつては企画書を書くことが大の苦手で、何度も失敗を繰り返してきたのだとか。そこで数年にわたって模索を繰り返し、やがて企画書をつくった分だけ確実に手応えを感じられるようになったのだといいます。

そしてそんな経験があるからこそ、「企画が通過しない」「自分の企画はなぜかダメだといわれる」というふうに企画がパッとしない人こそ、これからの心がけ次第ではいくらでも「選ばれる企画」にすることができると断言しています。

そのためにまずすべきは、「自分の企画」を捨て、伝わりやすい印象を受けた他の企画書が、「なぜ伝わりやすかったのか」を分析すること。自我を捨て去り、いろいろな人の企画の長所を参考にして企画書をつくるようにするわけです。著者の場合はそれに加え、営業担当者からクライアントに頼んでもらい、採用になった他者の企画書を一枚でも多く見せてもらうようにもしたのだといいます。また、つくり方を徹底的に分析し、次の企画書に応用するようにしていたのだそうです。

そして、こういうやり方を繰り返しているうちにわかってきたのは、「いい企画書のなかには共通のルールがある」ということ。使うことば、図の見せ方、細部にまで、相手を驚かせることができるような仕組みがあることに気づいたということ。いうまでもなくそれは、地道な努力の積み重ねがもたらしたものです。(30ページより)


企画をつくり、成功させるためにはいくつかの障害を乗り越えることも必要でしょう。しかし本書を読み進めていくと、もっと本質的な部分、すなわち頭のなかにあるものを具体的なカタチにすることの楽しさや喜びを意識できるはず。自分をその気にさせるためにも、ぜひおすすめしたい一冊です。

(印南敦史)