世界が一瞬で変わる 潜在意識の使い方』(石山喜章著、あさ出版)の著者は、組織開発コンサルティングのプロフェッショナル。社員自らが潜在意識の構造を理解することを通じ、現場の問題・人間関係の悩みを自ら解決できるような研修・コーチング等を提供しているそうです。

コミュニケーション能力に長けた人物だといえそうですが、2歳まで生みの親にほとんど育てられず、「親に捨てられた」という感情を持ち、自分は誰からも愛されない存在だと思い込んできたのだとか。青春期にも人に怒りをぶつけ、疑い、まともな人間関係をつくれなかったのだといいます。

しかし大学卒業後に実力を発揮し、やがて当時急成長を遂げていたライブドアにスカウトされることに。日々、いろいろな人間関係に苦しむなかで気づいたのは、「表情」「ことば」「行動」といった表面上のコミュニケーションだけで、よりよい人間関係をつくるには限界があるということ。むしろ、言動やしぐさの裏側にある無意識の部分、すなわち「潜在意識」に焦点を当てなければ、本当の意味で相手と分かり合えないと実感したのだといいます。

つまり本書は、そのような考え方を軸として書かれているわけです。だとすれば、まずは潜在意識の重要性について知りたいところ。第1章「人間関係がうまくいっている人は潜在意識を使っている」を見てみましょう。

すべての答えは「潜在意識」に隠されている

著者はこの項でまず、次のAさんとBさんでは、どちらが人間関係をうまくつくれると思うかと質問しています。

Aさん:人の話に必ずことばでも相づちを打ち、なにを聞いても笑顔でいる

Bさん:あまりことばの相づちは打たず、少し厳しい表情でたまに「なぜ?」と質問する

(18ページより)

一般的な感覚からすると、Aさんの方が人づきあいがうまそうです。ところがほとんどの場合、Aさんのようなタイプはきちんと人間関係をつくれず、「よかれ」と思ってやったことも裏目に出てしまうのだと著者。逆に、ぶっきらぼうにも見えるBさんの方が、相手と人間関係をつくることができるのだといいます。そしてその答えが、「潜在意識」に隠されているのだそうです。

つまりAさんは表面的なコミュニケーションに終始し、自分の潜在意識にアプローチできていない。対してBさんは相手の潜在意識にアプローチできているため、うまく人間関係をつくれるということ。では、そのためにはどうすればいいのでしょうか?(18ページより)

コミュニケーションが苦手な人の「3つの特徴」

コミュニケーションをとりながら人間関係をよりよいものにしていくために必要なのは、小手先のテクニックに頼らず、自分自身の潜在意識をきちんと理解すること。そして「人間関係がうまくつくれない」「人とのコミュニケーションが苦手」という人は、潜在意識という観点から見れば次のような課題を抱えていることが多いそうです。

・自分の出した意見に固執しやすい(観点が固定)

・あまり他人の意見を取り入れようとしない(話を聞けない)

・自分の非力や弱さを認めず他者批判の傾向がある(他罰傾向)

・自分がなにを基準に判断しているのか自覚がない(判断基準に無自覚)

・具体論や成功者のやり方を重視する(モデル依存)

・思い込み=事実と認識している(認識の重要性)

(28ページより)

特に「観点」「判断基準」「認識」の3つは、潜在意識を理解するうえで重要だといいます。人間関係がうまくつくれず、コミュニケーションが苦手な人は、自分の考えが正しいと思って人の話が聞けないもの。つまり、「観点」が固定している。いってみれば、無意識のうちに自分が正しいという前提で他者と関わり、他人を○×しやすい傾向にあるということ。潜在意識にもアプローチできていないため、自分の思い込みに気づかず、経験・体験したことはすべて事実だと思ってしまう。だからコミュニケーションをとるたびにズレが広がり、人間関係は悪化していく。しかも自己変化に目が向かないので、悪いことや嫌なことはすべて人や環境のせいにしてしまうというのです。

一方、人間関係をうまくつくれる人は、異なる意見や考え方を楽しめる自由な観点を持っているもの。人の話を前向きに聞く姿勢があり、「すべては自分次第」とものごとを捉えることができるそうです。また潜在意識にアプローチして自分の判断基準を自覚できているため、成長スピードも速いのが特徴。自分が経験・体験して思ったことが必ずしも事実とは限らないと理解しているため、折々で自分の認識と相手の認識をすり合わせ、事実を確認する習慣もできているのだそうです。

観点が固定化され、自分の判断基準にも無自覚、そして思い込みが事実になってしまう前者は、著者にいわせれば「自己チュー人材」。逆に後者のような人は、「グローバル人材」として、これからの時代には多くの場面で求められるもの。働き方が多様化し、いろいろな価値観の人とコミュニケーションをとることが必要な時代だからこそ、「グローバル人材」を目指すべきだということです。(27ページより)

成功者は「同じ視点」を持っている

たとえば経営者やマネージャー、人気店の店長など、たくさんの人と関わっていくことが求められ、そこで成果を出せている人は、例外なく潜在意識を持っていると著者は記しています。潜在意識を理解していなかったとしても、結果的に「同じ視点」を持っているということ。この場合の「同じ視点」とは、「相手の立場(観点)」「背後にあるイメージ(判断基準)」「ものの見方(認識)」をきちんと理解したうえで人と接するということ。相手の表面的な部分だけではなく、「目には見えない部分=潜在意識」を見ているということです。

そして著者はここで、潜在意識を理解するために「本質とはなにか」を6段階で整理しています。

「データ」:単体では「意味」を持つことのないもの

例:300株

「情報」:データに主語・述語などが加わり意味を持つもの

例:「AさんがX者の株を300株購入した」

「知識」:情報が集まり「価値」になるもの

例:「AさんがX者の株を300株購入した」

  「X社は来週、記者会見を開く予定」

  「X社の社債が売りに出されている」

3つの情報が集まることで成立する、「いまが買い」というような情報の集まりを「知識」と呼ぶのだとか。

「智恵」:パターンを発見する段階

例:株価の売り時や買い時を示すチャートのパターンなど

知識がある程度蓄積されてくると、パターンを発見するようになるそうです。そして、「こういうときには、こうなる傾向・確率が高い」というレベルまで凝縮された情報・知識が「智恵」。

「法則」:一般に学問・理論と呼ばれるもの

例:学問・理論(社会学、心理学、経済学など)

パターンを発見し、それを実験などで証明でき、他社が同じことを試しても再現性がある場合、科学として認められるもの。このように、特定の分野で立証された智恵は「法則」と呼ばれることに。

「心理」:この宇宙全ての存在や現象に共通雨する法則

例:物理学、数学

この宇宙のなかにある、すべての存在と現象に共通する自然法則が心理。数学・物理学は心理に近いそうです。

データ<情報<知識<智恵<法則<心理の順で内容がより濃くなっていくということ。そして本当に成功している人に共通する点は、本質(やり方や考え方、思い方のベースにある在り方・メカニズム)を理解している点だといいます。つまり「成功したい」「幸せになりたい」と思うなら、やり方に執着したり考え方などをマネしたりするより、それらの基本となっているメカニズムや法則、在り方がなんなのかを理解する方が確実。たくさんの「やり方」をおぼえるより、ひとつの「法則」を学ぶ方が効率的だということです。(35ページより)


このあとには潜在意識のメカニズムをつかむために有効な「マインドーム理論」という考え方も紹介されており、読みごたえのある内容。潜在意識への理解度を深めることができれば、コミュニケーションが円滑になるかもしれません。

(印南敦史)