『投資バカの思考法』(藤野英人著、SBクリエイティブ)の著者は、25年におよぶ経験を持つファンドマネージャー。特に2008年10月にスタートした「ひふみ投信」は、リスクが低くリターンが高いファンドに贈られる「R&Iファンド大賞」を4年連続で受賞しているのだそうです。つまり本書には、投資のプロとしての経験と知見、メソッドが凝縮されているということ。
そして、先の見えない未来に不安を抱え、身動きが取れない人のために「なにを見て、どう考え、どう決めるのか」を明かしたという本書においては、次の7つの力が重視されています。
1.洞察力...主観を排除し、情報をフラットにとらえる力
2.決断力...やらないことを捨てる力
3.リスクマネジメント...変化を受け入れる力
4.損切り...過去にとらわれず、いまを評価する力
5.時間...時間を身につける力
6.増やす力...経済とお金の本質を知る力
7.選択力...未来の希望を最大化する力
(「はじめに」より)
この7つの力は投資の世界だけではく、仕事や人間関係などあらゆる局面で必要とされるものだといいます。よって本書でも、各章ごとにこの7つの本質を掘り下げています。それらをより深く理解するためのベースをつくる意味で、きょうは序章「そもそも、『投資』とは何なのか?」に焦点を当ててみたいと思います。
まずマーケットの正体を見破る
投資家が投資で稼ぐためには、まずなによりも「マーケット(株式市場)の正体」を理解することが重要。そして著者は、「マーケットでは角を下から上に築き上げて攻撃する牛(ブル)は「強気(買い)」を表し、熊(ベア)は、上から爪を振り下ろすため「弱気(売り)」を表しているのだと説明しています。すなわちマーケットとは、「牛と熊の融合によって形成される」と解釈できるということ。
牛...強気/買い
熊...弱気/売り
(36ページより)
となると気になるのは「どちらが強いか」ですが、これは本質的に「同じ」。なぜなら株は、「売り」と「買い」が結合しないと売買が成立しないから。売りたい人と買いたい人がいるから、マーケットが成り立つということです。そして株式市場には、この他に「2つの神様」が共存しているそうです。
捨てる神...株を売る(捨てる)神様
拾う神...株を買う(拾う)神様
(37ページより)
株の売買が成立するのは、捨てる神(売る人)と拾う神(買う人)がいるから。誰かが捨ててくれなければ拾うことはできないため、捨てる人も神様。牛と熊が同一の価値であるように、捨てる神も拾う神も同等に存在意義があるということです。(34ページより)
投資が難しいのは、未来が読めないから
ところで株価とは、どうやって決まるのでしょうか? 著者によれば株価とは、
「EPS(1株あたり=純利益)×PER(株価収益率)」
(41ページより)
という図式で表せるのだとか。EPSが100円でPERが5倍であれば、株価は500円。EPSは情熱、工夫、がんばりといった「人」の要素が強く、PERは人気、金利、為替の影響を受けるのだそうです。
ちなみにマーケットの未来を予測する分析法には、いまだに決定打が出ていないといいます。しかし仮に分析法が見つかったとしても、すべての投資家がその分析法を使うことになると、「誰も儲けられない」という矛盾が生まれることに。なぜなら株式市場では、損する人がいなければ得する人は現れないから。
来月の日経平均株価が「上がるのか、下がるのか」は誰にもわからないもの。ただし長期的に見ると、企業の利益の伸びと株価は同じ動きをするといいます(現在上場している約3500社は、すべてが同じ動きをする)。営業利益と株価は一致するということで、お客様を3倍に増やして営業利益が3倍になったら、株価も3倍に。逆に営業利益が3分の1になったら、株価も3分の1になるということ。そこで私たちは、日経平均の動きではなく、「この会社は伸びる可能性があるか」にフォーカスしなければならない。長期的に利益が上がる会社を応援することが、投資の本来の目的だということ。(40ページより)
投資が難しいのは「会社はグチャグチャで社長がウソつき」だから
著者は「成長する会社」を見つけ出すために、原則として社長に会い、投資するかどうかを決めているそうです。ところが問題は、社長の多くがウソつきだということ。もちろん違法性のある嘘ではなく、多くの社長は自社をよく見せたいという思いから、よい部分を誇張し、悪い部分を過小評価するというわけです。だからこそ、社長の話は「きれいに整理された嘘」だと冷静に認識したうえで情報収集すべき。
「成長する会社」を見極めるためには、「会社は、善でもあり悪でもある」「会社には、嘘も真実もある」ことを受け入れることが大前提。会社の成長という未来を見通す投資家になるためには、「本音と建前」を受け入れる必要があるということ。会社や社会への理解が深ければ深いほど、投資家としての成熟度も上がり、リターンも上がるといいます。(45ページより)
「全力を尽くす」ことこそが最強の武器である
約3500社のなかから成長する会社を予測し、社長と社員のつく嘘と真実を見極め、敵を撃破しながら自らのファンドを形成する。それが投資の世界だと著者。この場合の「敵」についていえば、著者が運営している「ひふみ投信」の前には「3つの敵」が立ちはだかっているそうです。
第1の敵...定期預金
定期預金の金利はそれほど高くないものの、パフォーマンスを上げなければ定期預金にさえ負けてしまうといいます。
第2の敵...ライバルファンド
マーケットという宇宙のなかではライバルもファンドを形成しているため、お客様に満足していただくためには、ライバルファンドよりも早く正確に、「成長が期待できる会社」を見つける必要があるということ。
第3の敵...インデックス(平均株価指数)
市場全体の動きにも目を配ることが必要。日経平均株価やTOPIXを上回る成績が求められるといいます。
そして「会社の成長を予測し、敵と戦い、嘘を見抜く」ための方策は「全力を尽くす」ことに尽きるそうです。この場合の全力とは、「自分が持つすべての能力、知恵、経験を出し尽くす」こと。そして投資の世界でそれができる人を、敬意を込めて著者は「投資バカ」と呼んでいます。不透明な時代でも確実に結果を出すためには、全力を尽くせる投資バカになる必要があるということです。(51ページより)
投資は難しそうで、しかもリスクが大きそうなイメージもありますが、かといって「投資しなければ損もしない」という考え方は短絡的だと著者はいいます。短期的には多少の負けがあったとしても、長期的には「勝ち続けることは不可能ではない」とも。もしもそうであるならば、本書を通じて投資に対する考え方を深めることにも意味があるのではないでしょうか。
(印南敦史)