Crew:クリエイティブな仕事でベストを尽くすには、最初だけ意識するだけでは不十分です。

自己不信や内なる批判という最初の困難を乗り越えても、クリエイティブの勢いを保つという問題が出てきます。

私たちは、最初のインスピレーションの高まりが去った後や、複数のプロジェクトの間に苦労して得たクリエイティブな勢いを、失ってしまいがちです。そうなると、すぐに雑念に負けてしまったり、アウトプットが遅くなってしまいます。それまでに費やした時間と努力は、クリエイティブのインスピレーションという、移り気なものに左右されてしまいます。

では、批判や疑念という名の暗く長い道のりで、最終目標を見失わないようにクリエイティビティを保つためにはどうしたらいいのでしょうか。

その答えは、日々の仕事への向き合い方にあるのです。

日々の勢いを失ってしまうのはなぜか?

私たちが雑念に負けてしまう理由を説明する必要はないでしょう。ちゃんとした仕事のほかにも、メールやSNS、携帯電話の通知、イベント、友人との付き合い、家族との時間など、私たちの生活は多忙を極めており、1日で処理できるキャパシティーを超えています。近代的生活において、「忙しさ」は、一時的な副作用などではなく、避けることのできない日常になっているのです。

ある研究によれば、一般的な労働者は1日に平均で56回の中断が発生しています。また、そこからの仕事に再び集中するために1日の労働時間のうち2時間を費やしていると言われています。

加えてこの結果は、ポジティブに見積もった場合です。他の研究では、1回の中断はおよそ25分間分の生産性を犠牲にしているという結果が出ています。つまり、56回の中断があれば、1日を非生産的に過ごしていることになります

もし、このような逆境を乗り越え、何も考えずに仕事がはかどる心的空間に入ったらどうなるでしょう。そのような状況では、目の前の作業に集中し、仕事に勢いを感じることができます。そんな魔法のような空間を、私たちはフローと呼びます。

フロー状態の心理学と幸福度への影響を長年研究しているミハイ・チクセントミハイ博士は、以下のような発見をしました。

人生最良の瞬間は、消極的で受け身でリラックスしている時間に訪れるのではありません。それよりも、難しくて価値あることを達成するために自発的な努力によって体または心が限界まで伸びている状態のときに訪れます。

つまり、プロジェクトに深く没頭しているときこそ、このレベルのフローに到達できるのです。スキルや経験が成長し、プロジェクトの要求するニーズと合致するようになると、私たちは高揚感に包まれます。そうなるとクリエイティビティは第2の天性となり、ほとんど注意を払ったりイライラしたりすることなく、次々に課題を解決できるようになります。

しかし残念なことに、仕事が1つ終わるたびに、私たちはそのフロー状態を手放してしまいます。

クリエイティブな勢いをつかむ

クリエイティブなアウトプットは、まるでニュートンの第一法則に従っているかのように感じられます。つまり、運動している物体はそのまま運動を続け、止まっている物体はそのまま止まっているという傾向があるように思えるのです。

静止しているときにはそのままでいるよりも、勢いを生み出す作業がより多く必要です。作家でありアーティストでもあるオースティン・クレオン氏は、クリエイティブな勢いを保つために、「チェーンタスキング」という方法を取っているそうです。

1つのプロジェクトが終わると、休憩を取ったり、次のプロジェクトの心配をすることはしません。逆に、1つのプロジェクトの終わりの勢いを、次のプロジェクトへの火種として利用するのです。

プロジェクトをチェーンタスキングすることで、1つのプロジェクトで得られた勢いをそのまま継続することができます。それはまるで、ギャンブルで大当たりをしたにも関わらず、そのままギャンブルを続けるようなものです。

直感に反するかもしれませんが、この方法は、分野を超えたアーティストやクリエイティブな人たちが昔から行っている方法です。

俳優であり映画監督であるウディ・アレン氏は、映画の編集が終わった日が、次の脚本を書き始める日だと述べています。

小説家のアーネスト・ヘミングウェイ氏は、文章の途中で書くのを止めたと言われています。そうすることで、翌朝書き始めるときに何を書けばいいか迷うことがないからだそうです。

このような習慣は、仕事への勢いとフローをとらえ、プロジェクトの奥深くへ入っていくための手段として有効です。新しいことに取り組み始めたばかりの初期段階において不安定にならないためには、仕事に取り組むときの集中力が有効的です。

クリエイティブな勢いを得て、維持する

当然、クリエイティブな勢いを保つことは、ただプロジェクトからプロジェクトに移行することよりも難しいです。「とにかく続けるべし」と口で言うのは簡単ですが、精神的にも肉体的にもそれができないことがあるものです。どこかでやりきって放心状態になるのは目に見えています。

勢いとは、常に動き続けることではありません。苦しんで得たフロー状態を維持することだと考えてください。

以下に、フロー状態を乱す要因になる雑念を退け、クリエイティブな勢いを保つ方法をいくつかご紹介します。

仕事(と雑念)のスケジュールを組む

1日に56回訪れる中断は、クリエイティビティにとって最大の敵です。集中という名の陶器店にボウリングのボールを投げ入れられるようなもので、私たちの心は乱されます。そして、大きなストレスが私たちに残るのです(お店の片づけに膨大な時間がかかるのは言うまでもありません)。

ベストセラー作家でウェブデザイナーのPaul Jarvis氏によると、このような中断に立ち向かうためには、1日の中で、似たようなタスクをひとまとめにするのがいいそうです。この方法なら、必ずしも大きなプロジェクトだけをチェーンタスキングする必要はありません。もっと気軽に、ブログ記事を1本書いたらもう1本、現在のデザインプロジェクトが済んだら新しいプロジェクトというように、タスクを続ければいいのです。

仕事をまとめてスケジューリングすることで、目指す目標が明確になり、最初のタスクが終わっても仕事を継続できる勢いを得ることができるでしょう。

その反対に、あえて雑念をスケジューリングするという方法も考えられます。

ウェブ制作会社「Crew」のCEOのMikael氏は、「Admin Tuesday」という日を設けています。その日は会議やその他の「雑務」をやる日と決めることで、他の日に仕事に集中して取り組めるという方法です。

どちらの方法を取るにしても、自分の勢いとフローの時間を守れるようなシステムを、時間をかけて築く必要が私たちにはあります。

失敗から学ぶ

オースティン・クレオン氏の場合、チェーンタスキングによって複数の本を書き続け、最も成功した部分を寄せ集めてさらに大きく深く広げていくという方法を取りました。しかし、その逆もまた効果を発揮します。

シンガーソングライターのジョニ・ミッチェル氏は、前回のプロジェクトでもっともダメだった部分が、次のプロジェクトのインスピレーションになると語っています。つまり、彼女は過去の作品の悪いところを次の作品の原動力にしているのです。

失敗を切り捨てずに、未来に向けた材料にしましょう。

真の"集中タイム"を

真の集中タイムは、単に携帯電話をマナーモードにするだけでは得られません。フロー状態に入り、勢いを集めるためには、他の世界を完全にシャットアウトすることが必要です。

そのためには、ヘッドフォンを装着し(音楽の仕事をしている場合)、コンピュータの通知をオフにし、ケータイは別室に置きましょう。

有意義な仕事をしたいなら、それに見合った空間と時間を確保することが必要です。

時間よりも頻度を重視する

動き始めたあとは、時間よりも頻度が重要になってきます。

作家のJoe Fig氏は、Chuck Close氏やJoan Snyder氏などの画家にインタビューをするうちに、彼らの共通点を見つけたそうです。

彼らが成功しているのは、絶え間なく仕事をしているから。週7日で、複数の仕事を。

たとえ1日に1時間でも仕事をする時間があるのなら、あなたは前進することができます。

しかし、時間が魔法のように現れることはありません。数時間でも数分でもいいので、日々仕事をする時間を何とか確保し、締め切り前と同じように時間を大切にすることです。

波に乗ることを恐れない

語られることはあまりありませんが、実は勢いを得ることと同じくらい、勢いを止めることにも困難が伴います。"一時的なクリエイター"から"常時のクリエイター"になると、さまざまな変化が訪れます。チャンスが増えると同時に、他者と自分自身への責任が劇的に増加するのです。

これについてライターのセス・ゴーディン氏はこう語っています。

多くの人が、勢いを怖がり過ぎています。プロジェクトの立ち上げ、新しい仕事や役割などを目の前にすると、コントロール不能になるかもしれないと考えてしまうのです。カフェで100人を相手に歌うシンガーことと、勢いを得てスターになることは違います。ロックスターになると取り巻きも出演回数も増え、次回作への期待がいやおうなしに高まります。

このように期待が高いと感じてしまうと、潜在意識が警鐘を鳴らし、私たちは尻ごみしてしまいます。自分よりも大きい何かの一部になることを、恐れてしまうのです。

誰しも、今の自分よりも大きな存在に成長する可能性があります。だからと言って、それを恐れて立ち止まるべきではありません。意義あるものを生み出すにはリスクが必要であり、転げ落ちた石が1つで落ちるのか、地滑りを起こすし、一緒に崩れるのかは、誰にもわからないのです。すべてを受け入れ、自分の作品に身を委ねましょう。

次に、作家のMerlin Mann氏はこのようなことを言っています。誰もがもっとクリエイティブになり、意義ある仕事に取り掛かりたいはずだと。

自分の目標を何にしようと、最終的に自分の注意が向かう先こそが、あなたという人間を表している。

私たちは、言葉ではなく、行動で判断されるのです。クリエイティビティを意識し続け、それをもっと大きく、もっと強いものにしていくことができれば、インスピレーションに欠けた自己否定という名の暗闇でも、前に進むチャンスを得て、意義ある仕事に取り組むことができるでしょう。

How to keep your creative momentum from fading away|Crew Blog

Jory Mackay(訳:堀込泰三)

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