Inc.:フランスの哲学者・数学者のブレーズ・パスカルは、友人に書いたある手紙の終わりをこう締めくくりました。「もっと時間があれば、もっと短い手紙を書けたのですが」
この文言はとても有名で、有名な言葉にありがちなことですが、アブラハム・リンカーンやウィンストン・チャーチルなど、別の有名人のものとよく勘違いされています。パスカルがこの一文で言いたかったことは、この手紙は思いついたことを単純に書き留めていったものであり、筆をとる前に構想やアイデアを練ったりはしなかったということです。
もちろん、パスカルの時代は、ワープロソフトが使える私たちの時代ほど、編集作業が簡単ではありませんでした。パスカルはあっちに行き、こっちに行き、時に脱線しながら、羊毛紙に言葉を書きつけていったはずです。結果、意図していたより長い文章になってしまったのです。
実は、私たちがビジネスプロセスやシステムをデザインするときも、同じことが起こっています。シンプルでエレガントなデザインにしたいのなら、それだけの労力を注がなければ、難解でまとまりのない製品やサービスが出来上がってしまいます。言い換えると、シンプルは難しいのです。
シンプルは難しい
優れたビジネスリーダーは、このことをよく理解しています。ジェフ・ベゾスがAmazon.comをどのように設計したかを考えてください。あなたがAmazonを使っているのならよくわかるはず。買いものをするとき、あらゆるもの(アドレス帳、クレジットカード情報、発送オプションなど)を文字通りワンクリックで選んでいけます。使い勝手は驚くほどシンプルです。Amazonがワンクリック注文を導入したとたん、収益が急上昇したのもうなずけます。
しかし、ベゾスとそのチームが、デザインをシンプルにするために、どれほどの労力を注いだかということはあまり語られていません。彼らは、ユーザーテストに何千時間をも費やして、現在の、流れるようなプロセスを築き上げたのです。繰り返しますが、シンプルは難しいのです。
また、手にしたことがあるAppleの製品を思い出してください。見た目が素晴らしいだけでなく、ほとんど直感的に操作できます。そのため、Appleは製品にマニュアルを同梱していません。これらは子どもが手にとってもすぐに使えてしまうほどシンプルなのです。
スティーブ・ジョブズについて多少の知識があるなら、ジョブズがデザインの狂信者で、デザインをシンプルに使いやすくすることに徹底的にこだわり、そのために膨大な時間を投資したことをご存じのはず。復唱してください。「シンプルは難しい」と。
シンプルは競争優位
自分のビジネスのプロセスとシステムについて考えてください。顧客が直感的に製品を使えるように、どれくらいの時間を費やしていますか? 分厚いユーザーマニュアルを作って、読んでもらおうなんて思っていませんよね?
このことについては、よく考えなければなりません。競合他社がもっと使いやすいサービスを提供している場合はなおさらです。オンラインで注文するたびに、請求先、送付先情報を入力しなければならないのと、ワンクリックで完了するのとでは、どっちにお金を払いたいですか?
箱から出してすぐに使い始められる製品と、ユーザーマニュアルとにらめっこしているうちに眠り込んでしまうような製品とでは、どちらのデバイスを買いたいですか?
顧客はシンプルを好みます。そして、シンプルが市場の勝者となるのです。
シンプルであることは非常に難しいものですが、大きな競争優位になります。ですので、時間をかけてよく考え、短い手紙を書いてください。きっと顧客もそのことに感謝するでしょう。
Simple Is Hard: Design Secrets of Jeff Bezos and Steve Jobs|Inc.
Jim Schleckser(訳:伊藤貴之)
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