ビジネスパーソンの生き方は千差万別で、どの道を選ぶのが正解ということはありません。読者の皆さんにとっても、今後「転職」「起業」「現在の会社に残る」という選択を考える場面が出てくるかと思われます。(「はじめに」より)

そう語るのは、『3年後、転職する人、起業する人、会社に残る人』(佐藤文男著、クロスメディア・パブリッシング)の著者。自身も総合商社をスタートラインとして、外資系金融→メーカー→人材紹介(人材サーチ)会社と3度転職し、その過程で成功も失敗も経験してきたのだそうです。そして、43歳で人材サーチ会社を起業し、今年で19年目。そんな実体験をもとに書かれた本書のターゲットは、おもに20代後半から30代にかけてのビジネスパーソン。この層にとっての重要な選択肢となる「転職」「起業」「現在の会社に残る」の3つの道について解説しているのです。

転職を考える人にとっては、会社に残った場合のことを踏まえておくのは必須ですし、会社に残るにしても、今や起業家的な思考は欠かせません。起業する人も、個人事業的な会社でもなければ、まずは新卒採用ではなく中途採用による転職者を受け入れる必要が出てくるでしょう。(「はじめに」より)

つまり求められるべきは、それぞれのキャリアパスや立場、必要な考え方などを知っておくこと。きょうは第1章「人生の戦略を立てる」から、「転職する人」「起業する人」「現在の会社に残る人」、それぞれの人生戦略に焦点を当ててみます。

転職する人の人生戦略

「転職することにより階段を上っていく」というプラスの要素(キャリアアップ)がないと、転職は成功しない。そう断言します。そして大切なのは、やみくもに転職してはいけないということ。まわりに影響されず、転職を「自分の歩んできた道をさらに一段アップさせるための手段」と考えるべきだというわけです。戦略として重要なのは、「自分が転職でどういうステージに上がるか」。より専門性を高めるか、マネジメントに近づくか、目標を持ちつつ転職するステップを意識すること。

そして転職の際に重要なポイントは4つあるといいます。1番目が「職種」。いまやっている仕事を引き続きやりたいのか、違うことをやりたいのかなど、自分の立場で職種の今後を検討するということです。次の「業種」は、いまの仕事と同じ業種で選ぶのか、違った業界に進むのかという選択。3番目の「勤務地」には、地方のみならず海外という選択肢も。次いで、大企業がいいのか、ベンチャーに飛び込むのかなど、起業の「種類」が4番目。これらについて考えながら、自分の転職の方向性を見極めていくことが大切だということです。

さらにもうひとつ忘れるべきでないのが、40代、50代の自分もイメージすること。なお著者は、20代での転職はMAX1回、30代で転職のべ回数のMAXは3回と主張しているそうです。理由は、ひとつの仕事をおぼえるには、少なくとも3年程度の期間は必要だから。また一般的にも、在籍期間が3年未満であまりにも短いと、「本当に成果のある仕事をしたのか?」と疑われがちです。(20ページより)

起業する人の人生戦略

起業とは、"0から1をつくる"こと。雇われ社長とは異なる次元の仕事なので、起業することにはぜひ誇りを持ってほしいと著者。そして自身の経験からいうと、起業したい人は「自分が起業するのに向いているのか向いていないのか」をまずじっくり考察することが重要だと記しています。

「10年間で100社のうち6社しか残らない」といわれる状況において忘れるべきでないのは、どんなにいいビジネスモデルがあったとしても、「人をうまくまとめて上に引っぱっていく力がないと起業は発展しない」ということ。オーナー経営者にはワンマンが多いといわれますが、その場合は、人をうまくまとめられるワンマンであることが必須だという考え方です。とりわけ起業する際には、転職とは違い、その人の実務能力やスキル以上に、まわりの人を巻き込んだりプロデュースしたりする能力が重要。そこで、これを客観的に分析する必要があるわけです。

ちなみに「自分が経営者に向いているか」の見極め方として、「友人が多いか?」「まわりに人が集まりやすいか?」「クラブ活動やサークル活動などで人をまとめてきた経験があるか?」「人望を得やすいか?」といった指標をクリアしているかどうかが大きなポイントになるといいます。

また別の確認方法として、自分が会社を興す場合に、「一緒に仕事をしたい」と何人の仲間がついてきてくれるかを確認してみることも大きな指標になるとか。現実的に友人があまり多くない人は、その時点での起業については慎重にすべき。それでも起業したいなら、やみくもに会社を大きくせず、マネージャー兼プレーヤーとして「少数の職人集団」を目指すのもひとつの手。自ら「人望のある方ではない」と認める著者も、そのスタイルを維持しているそうです。

さらに起業するにおいては、財務経理の知識も不可欠。お金まわり(キャッシュフロー)や簿記の知識は、将来に役立つものであり、起業に際しては、登記に向けてどういう書類が必要かの情報収集も必要。加えて、事業を立ち上げるときに「どんなコアメンバーがいるか」も大きなポイントに。

起業の場合、転職とは違い、会社を興したら継続することが大切です。(中略)途中で終わらないためにも、自分に合ったふさわしいやり方を考えてほしいと思います。(35ページより)

起業をするなら、そこまで慎重になる必要があるわけです。(28ページより)

会社に残る人の人生戦略

みんながみんな転職をするべきではなく、会社に残る人、すなわち生涯一社で定年まで勤め上げることも非常に貴重だと著者は記しています。会社に残る人は、最終的には社長や役員、あるいはエグゼクティブ・スペシャリスト(専門家)を目指してほしいとも。そのために大切なのは、社長や役員になるために自分はどうしたらいいかを考えていくこと。たとえば30代や40代をどう過ごすか、会社で昇格していくためにはどういうルートがあるのかを探ることが不可欠。いまのところ特に転職や起業をイメージしておらず、会社に残るという場合でも、次のステージへ向けた自己研磨は常に求められるものだといいます。

そして多くのビジネスパーソンのキャリアに関わってきた経験から、「出世する人には間違いなく共通の習慣があります」といい切る著者はここで、「DODA(インテリジェンス)」が運営するサイト「キャリアコンパス」のなかで自身がコメントした「出世する人の10の習慣チェック」を紹介しています。

<これができたら間違いなし!? 10の習慣チェックリスト>

⬜︎出勤したときに1日のスケジュールが組めていますか?

⬜︎自分の会社や業界のマナーと、一般的なマナーの両方を身につけていますか?

⬜︎この1年間のうちで海外に行きましたか?

⬜︎自分のスキルアップのために投資をしていますか?

⬜︎1年後、3年後、5年後の目標を決めていますか?

⬜︎社内と社外、両方のネットワークを築けていますか?

⬜︎打ち込める趣味は持っていますか?

⬜︎物事をプラスに捉えることができていますか?

⬜︎意識的に世の中のトレンドをつかむ情報収集をしていますか?

⬜︎自分の適正体重をキープするための生活の基礎はできていますか?

YESが8~10個:出世の確率90%

YESが5~7個:出世の確率60%

YESが3~4個:出世の確率30%

YESが2個以下:出世の確率5%

(44ページより)

いま高確率を出せなかったとしても、将来の自分を形成していくにあたって、これはひとつの指標になるかもしれません。(41ページより)

決して大上段に構えることなく、自分の経験やタイプを踏まえたうえで話を展開しているからこそ、著者のことばには強い説得力があります。将来どのように進んでいくべきかで悩んでいるビジネスパーソンにとっての、大きな力になってくれそうです。

(印南敦史)