一生懸命がんばっているつもりなのに、なぜか仕事が片づかない。そんな悩みを抱えている人は、決して少なくないでしょう。しかしその一方、世界のトップ経営者をはじめとする「一流」と呼ばれる人たちは、ハードワークの渦中にありながら、不思議と「時間」をつくり出せているもの。

どうして、そのような差が生じるのでしょうか? 『なぜ一流は「その時間」を作り出せるのか』(石田 淳著、青春出版社)の著者は、原因はたったひとつだと断言しています。それは、時間の使い方にムダがあるかどうか。当たり前すぎるようにも思えますが、「正しい行動」を知ることが必要なのだといいます。つまり時間の使い方にムダが生まれるのは、やる気が足りないからではなく、そのための正しい行動を知らなかったことが原因だということ。

そして、期待通りの成果を達成するために必要な行動を徹底的に分解し、誰にでもできるかたちにするのが、著者の専門分野である「行動科学マネジメント」。これはアメリカ生まれの理論であり、NASAやボーイング社などの組織運営に活用されて広く結果を残しているものだそうです。つまり本書、その考え方を凝縮させたのが本書だということ。

STEP2「時間と手間を10分の1に圧縮!『定型化する』技術」を見てみましょう。

一流ほど、仕事の9割に手を抜いている

そもそも仕事というものは、やっている作業そのものにはそれほど変化がないもの。ひとつひとつの案件は違っても、自分の行動や使っていることば、行わなければならない作業などは9割方同じだということです。もちろん、その仕事特有の作業はあるにしても、本当に頭を使って考えなければならないことは、せいぜい1割あるかないか。業務の基本的な行動については、そのほとんどが同じことの繰り返しだという考え方です。

ポイントはここで、つまり重要なのは、「繰り返し」の部分でつまずいたり迷ったりするムダな時間をつくらないこと。仕事ができる人は、そこを徹底しているのだといいます。

そして、そんなときに強力なツールとなるのが、仕事を「定型化」することだと著者。それは仕事を分解して「チェックリスト」に落とし込み、常にそれに沿ったかたちで仕事をする方法だそうです。できる人たちは仕事を定例化し、チェックリストでやるべき仕事を的確に押さえておくことにより、作業時間をぐっと圧縮しているということ。9割の「いつもの仕事」の部分に時間を割かずにすめば、その仕事特有の1割の部分について、じっくり時間をとることができるわけです。

また、チェックリスト上では「なにをどのようにすればいいか」が明確になっているため、それに沿って行うだけで、誰がやっても同じ結果を出すことが可能に。仕事ができる人は、チェックリストをうまく使うことによって、他人の能力をも最大限に引き出しているもの。急なトラブルに直面したり、「いつもの仕事」に費やす時間がどうしてもとれないとき、チェックリストを人に任せたり、外注するなどの選択が可能になるということです。(79ページより)

定型化する技術1. 「具体的な作業」に分解する

では、どのように「定型化」を行えばいいのでしょうか? まず真っ先にやるべきは、定型化したいと思う作業を「分解」すること。たとえばここで引き合いに出されているのが、社会人にとっての日常茶飯事である「取引先に訪問のアポイントを取る」という作業です。

電話でアポイントをとるなら、まずは「受話器に手を伸ばす」ことだろうと思っても無理はないでしょう。しかし、それはすでにアポイントを取ることに慣れているからなのだと著者は指摘しています。ところが実際には、もっと前段階があるのだとか。新人に戻ったつもりで考えてみるとわかりやすいそうです。

最初にしなければならないのは、「取引先の担当者の名前と部署の確認」。次いで「相手に確認したいことについての、事前の書き出し」も必要。また、聞き漏らしがないよう、「手元にメモとペンを用意」することも不可欠。そして電話をかけたら、まずはこちらの会社名を告げ、名乗り、担当者につないでもらい、「いま、お時間よろしいでしょうか」と確認。そのうえで訪問したい旨を告げ、日時の都合を伺う。相手が不在だったり対応できなさそうな場合は、再度連絡することを告げる。

こうして書き出してみると、アポ取りひとつにも細々とした作業があることがわかります。こういう作業は無意識なようにも思えますが、無意識にやっていることを分解して書き出すことが、このプロセスにおいて重要なのだと著者。「ここまで細かくする必要があるのか?」と疑問に思う段階まで、徹底的に落とし込むことが肝心だといいます。(87ページより)

定型化する技術2. 「できる人」の行動を盗み出す

ただし作業を具体的な行動に分解しようとしても、うまくいかない場合もあるもの。たとえば苦手な作業については、そもそもやり方が間違っていたり、効率の悪い手順を踏んでいる可能性もあります。効率の悪いやり方を分解・定型化しても、「最短ルート」でないとしたら意味がありません。そこで、そういう場合は、その作業を難なくこなしている人の行動を観察し、その人がやっていることを分析してみればいいのだそうです。

理由は簡単。分析を通じて、できる人と自分の行動をくらべてみれば、その差が明らかになるから。つまり、できる人が結果を出すために欠かさず行っている「行動」を、やっていない自分とくらべることによって、問題点をピックアップできるというわけです。行動が結果に結びついていることが明らかになれば、それを自分の仕事のなかにも取り入れていけばいいということ。こうした、結果に直結する行動を、行動科学マネジメントでは「ピンポイント行動」と呼んでいるそうです。(90ページより)

定型化する技術3. ひとつひとつの作業を「言語化」する

行動を具体化するときには、「目に見える行動」のみを抽出すべき。逆にいえば、曖昧で抽象的な表現は使わないということです。

「"なるべく"早く会議の資料を用意して」

「"ていねいに"商品を渡すように」

「"がんばって"売り上げを伸ばそう」

たとえば行動科学マネジメントにおいて、こうした曖昧さは「行動」とは呼べないのだとか。「がんばる」「一生懸命」「なるべく」といった曖昧な表現は、徹底的に排除しなければいけないとすらいいます。

「なるべく早く」とは、何日の何時のことか。「ていねい」とは、どう手を動かし、どんな表現をすることなのか、どんなことばをどのように伝えることなのか。そこまで突き詰めてはじめて、「行動」と認められるということ。だからこそ、作業内容を具体的に「再現性のあることば」で書くことが鉄則だそうです。

「なるべく早く会議の資料を用意する」→翌日朝9時15分までに資料を18部用意し、部長のデスクに置いておく。

「ていねいに商品を渡す」→目線を合わせながら、「重いですから気をつけてお持ちください」と、必ず両手で持って手渡す。そのときに、爪や手指の汚れがないようにチェックしておく。

「がんばって売り上げを伸ばす」→顧客訪問を現在の1日2件から3件に増やす。今月中にダイレクトメールを300戸配布する。2週間に1回メールマガジンを発信する。

このくらい行動が具体的になれば、誰にもやることが明確にわかり、すぐに行動に移せるというわけです。(94ページより)

定型化する技術4. 「チェックリスト化」する

チェックリストの目的は「よい行動」、つまり望んだ結果につながる行動が、いつでもどこでも誰にでも繰り返せるようにすること。誰が見ても理解できることばを使い、とるべき行動を明文化することで、迷うことなく行動に移せるということです。さらにチェックボックスを配置することで、その行動を実際に起こすことができたかどうかを確認しながら作業を進めることが可能に。

チェックを入れた行動は、「確実にこなした」という証拠。自分が「やった」ということが、一目で確認できることが重要だということです。どんなに些細なことであっても、「やるべきことを確実にこなした」という事実は成功体験。小さな成功を積み重ねながら、最終的に目標を叶えることができるというわけです。(97ページより)

他にも「計測する技術」「整える技術」「計画する技術」「集中する技術」とムダを省いて仕事を効率的に進めるためのメソッドがわかりやすく紹介されています。その何割かを取り入れてみるだけでも、仕事の効率を高めることができそうです。

(印南敦史)