記憶力が上がると、仕事にもプライベートにもいい影響があるというのは、数多くの研究が証明しています。しかし、そんな研究を知るまでもなく、誰もが多かれ少なかれ記憶力がよくなりたいと思っています。
研究では、毎日できる簡単なことで記憶力を向上できるということが発見されています。記憶というのは、いくつかの異なる脳の活動からなる複雑なプロセスです。記憶力を伸ばす方法を紹介する前に、記憶とはどういうものなのかを簡単に説明しましょう。
- ステップ1:記憶をつくる
脳は、経験した出来事に合わせて特定のパターンの信号を送り、シナプスと呼ばれる神経細胞同士をつなげます。
- ステップ2:記憶を固める
何もしないと記憶はすぐに消えてしまいます。記憶を固めるプロセスを経て、長期的な記憶に変わると、後で思い出せるようになります。脳内で同じ活動パターンを何度も再生し、以前生成したシナプスを強化するこのプロセスのほとんどは、寝ている間におこなわれています。
- ステップ3:記憶を思い出す
記憶や記憶がなくなったと話す時は、大体思い出すことを指しています。何度も強化されている記憶であれば、思い出すのは簡単です。
それでは、研究によって証明されている、より覚えやすく忘れにくくなる方法を紹介していきましょう。
1. コーヒーを飲むと記憶が定着しやすくなる
何か新しいことを学ぶ前にコーヒーを飲むと、カフェインのおかげで記憶力がよくなるというのは、まだ議論の余地があります。ほとんどの研究で、新しいことを覚える前にカフェインを摂取することによる効果はないということがわかっています。しかし、最近のある研究で、勉強の後にカフェインを服用すると、24時間以内であれば記憶が思い出しやすくなることがわかりました。
被験者は、最初に画像のセットを覚え、後で同じ画像(ターゲット)と、似た画像(おとり)と、まったく違う画像(引き立て役)を見てテストをしました。おとりに引っかからず、正確にターゲットの画像を思い出して選びます。(おとりはかなり似ています)このプロセスはパターンの分離と呼ばれており、より深いレベルの記憶力を反映すると言われています。
この研究の研究者は、記憶を強化するプロセス、つまり記憶の定着におけるカフェインの効果に注目しました。学習の前ではなく、学習した後にカフェインを摂取すると効果があると考えていたからです。ですから、朝コーヒーを飲むのではなく、1日何かを勉強したり覚えたりした後でコーヒーを飲んだ方が、より多くのことを覚えられるということです。
2. 瞑想をすると作業記憶がよくなる
作業記憶というのは、頭の中のメモ帳やクリップボードのようなもので、新しい情報を一時的に置いておくところです。誰かの名前や、これから行く場所の住所を覚えると、それを使うまで作業記憶に詳細が入ります。使わないと完全に消えます。使う場合は、後で思い出すことで強化されて長期記憶になります。
作業記憶は毎日使っているので、そこが増えると生活がかなり楽になります。大人の作業記憶の最大値は約7項目ですが、項目を瞑想で増やすことができます。
研究では、瞑想の経験がない被験者が8週間瞑想をしただけで、「思い出す能力」が向上することがわかりました。また、瞑想で集中力が増すので、2週間後には標準テストの成績も、作業記憶量も上がっていました。
瞑想はなぜ記憶にいい影響があるのでしょうか? 一見反対のような気がするかもしれませんが、瞑想中は脳が情報を処理するのをやめるため、脳のストレスが減るのです。
したがって、時々は頭を空っぽにするために休憩を取りましょう。ストレスが軽減するだけでなく、記憶力も少し上がるはずです。
3. ベリー類を食べると長期記憶がよくなる
ベリー類を食べると記憶力が落ちるのを食い止められることが、研究によってわかっています。イギリスのレディング大学とペニンシュラ大学医学部の研究では、12週間普通の食事に加えてブルーベリーを食べると、空間的な作業記憶のパフォーマンスが上がることがわかりました。ブルーベリーを食べ始めて3週間後から効果が出始め、その効果は研究の間は続きました。
70歳以上の女性看護師の記憶力をテストしたこのベリーの研究では、毎週イチゴかブルーベリーを少なくとも2人前定期的に食べると、記憶力の低下が抑えられました。(カリフォルニアのイチゴ委員会が部分的に支援している研究なので、イチゴの効果については議論の余地がありそうですが...。また、毎日約4.5kgのイチゴを食べなければ効果が見られないという、イチゴに特化したほかの研究もあります)
この件に関してはさらなる研究が必要でしょうが、科学者はベリー類がどのように脳にいい影響を与えるかをかなり解明しつつあります。特にブルーベリーは、脳内のシナプスのつながりを強化すると言われている、フラボノイドが多く含まれることで知られており、長期記憶がよくなることの説明になりそうです。
仮に、ベリー類が記憶力の向上に効果がなかったとしても、健康にはとても良いです。
4. 運動で記憶力がよくなる
ネズミと人間の脳の研究で、定期的な運動によって記憶力がよくなることが証明されました。高齢者の運動は、定期的でなくても、記憶力の低下を遅らせることが証明されています。また、定期的に運動をすれば、空間記憶を向上させることが証明されていますが、あらゆるタイプの記憶がよくなるかどうかはわかりません。
もちろん運動によるメリットは計り知れず、定期的な運動は脳の記憶力だけでなく、認知力も向上させることがわかっています。したがって、頭脳を明晰に保つ方法を探している人は、散歩に行った方がいいということです。
5. ガムを噛むと記憶力がよくなる
記憶力をよくする簡単な方法は、何か新しいことを勉強している間ガムを噛むことです。正反対の結果になっている研究もあるので、確実ではありませんが、被験者に完全に記憶を思い出してもらう研究では、実験の間にガムを噛んでいた場合、より正確で反応も速かったのです。
ガムを噛んでいると、記憶を思い出すのに効果があるのは、脳の記憶に関する重要な領域である、海馬を活性化するからです。(なぜ活性化されるのかはわかっていませんが)
また、ガムを噛むと酸素が増えるからだという説もあります。酸素が増えると集中力が増し、新しいことを覚える時に脳のつながりをより強化できるのです。ある研究では、学習中にガムを噛んでいる被験者は心拍数の値も高いことがわかりました。そのせいで、脳により多くの酸素が流れ込んでいる可能性があります。
6. 睡眠によって記憶がより定着する
記憶を保つのに最も重要な要素のひとつが睡眠だというのは証明済みです。睡眠中に、記憶を定着させるプロセスのほとんどが起こっているので、睡眠不足だと勉強したことがなかなか覚えられないのも当然です。
短時間の昼寝でも記憶力はよくなります。ある実験では、被験者に絵の描かれているカードを覚えてもらいました。カードを覚えた後で、あるグループは昼寝をし、別のグループは起きたまま40分休憩をしました。休憩の後で、どれくらいカードを覚えているか、両方のグループをテストしました。
驚くべきことに、昼寝をしたグループは平均で85%、起きていたグループの平均は60%で、昼寝をしたグループの成績のほうが、非常によかったのです。
記憶が最初に脳(特に海馬)に記録された時は、まだ脆く簡単に忘れられてしまう状態です。多くのことを覚えなければならないときは特にそうです。昼寝をすることで、脆い記憶が長期の記憶倉庫である新皮質に押し出され、上書きされるのを防げるというわけです。
睡眠は、勉強の後で記憶を定着させるために重要なだけでなく、勉強する前にも同じくらい重要です。研究によって、睡眠不足は新しいことを覚え、記憶を定着させる能力に影響を与えることがわかりました。
というわけで、昼寝をするのに言い訳は無用です。そして、夜はもう少しゆっくり寝ましょう。
6 Ways to Remember More and Forget Less (Spoiler Alert: Coffee!)|Inc.
Jeff Haden(訳:的野裕子)
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