息子さん2人を連れて27泊28日の旅に出ているフリーランス翻訳者の堀込泰三さん。第1話に引き続き、第2話をお届けします。3人は今、どこにいるのでしょうか? そして、どこへ向かっているのでしょうか?
7月28日 23時25分。
せっせとノートに向かう長男(8歳)に、「先に寝るね」と告げて目を閉じた。
長男「おっけー、あとちょっとしたら電気消して寝るから」
――ここ数日、毎晩こんな調子だ。
次男(4歳)は、とうの昔に寝息を立てている。それもそのはず。釣りに海水浴にヤドカリ捕りと、太陽の下で朝から晩まで遊びつくしているのだから。私も毎日、眠い目をこすりながらPCに向かっている。
それなのに長男はこの調子だ。
釣りと台風とバイトとゲーム

7月25日、奄美群島を台風が直撃した。徳之島で台風接近のニュースを聞いた僕らは、宿のオーナーの忠告で、奄美大島の中心地、名瀬に避難していた。わりとしっかりしたビル(ホテル)に宿を取ったので、大した影響を受けずに済んだ。
台風で丸1日暇を持て余した僕らは、ホテルに併設の釣具屋に何度も足を運んだ。長男は3年前の沖縄で釣りを覚えて以来、すっかりはまっている。荷物を増やしたくないので、いつも宿で釣りざおを借りるか、レンタルで済ませてきた。今回も、徳之島の釣具屋でレンタルしようとしたら、「レンタルするより買った方が安いよ」と島人のおっちゃん。
パパはほとんど物を買ってくれないことを知っている長男が、やっぱり今回もダメだよねと目で訴えてくる。でも、これから長い旅路だ。たったの数千円で、楽しみが買えるなら。
よっぽど嬉しかったのだろう。買ってもらったその日、長男はそれを枕元に大事そうに飾って寝た。

そして、名瀬のホテルの釣具屋さんである。何度も足を運ぶうちに、6万円もする釣りざおが気に入ったらしい。また目で訴えてくるが、残念ながらそれを買ってやる甲斐性は、私にはない。「将来バイトして買えば?」という一言が、長男のハートに火をつけた。
明日の時間を気にせずに、何時間でも話せるのが旅の醍醐味だ。
「バイトって何するの?」「パパはどんなバイトしたことあるの?」「いくらもらえるの?」
バイト経験が豊富な私は、ひとつひとつの質問に、丁寧に答えた。
「え、リゾートバイトって何?」「何歳からできるの?」
長男の興味は尽きることがないようだ。でも、バイトは早くても高校生からだと知ったとたん、ほかにお金を稼ぐ手段はないかと聞いてきた。我が家はお小遣い制ではなく、お手伝い1回につき10円を渡すシステムを取っている。6万円の釣りざおを買うには、6千回もお手伝いをしなければならない。もっと効率的に稼ぐ方法はないのか、と。
そこで私は、小学生でもアプリを作って儲けている子がいると教えた。
「アプリってどう作るの?」「ゲームでもいいの?」「お金かかるの?」
などなど、関心はバイトからアプリへ。必要なものはプログラミングスキルとアイデアの2つだと教えてやると、「プログラミングってどうやって覚えるの?」
――そんなわけで、この秋から、プログラミング教室に通うことになるかもしれない。実は、私も前々から通わせたくて、小学校でもらってくるチラシを見せては誘っていたのだが、本人にその気はなかった。ところがこの変わりよう。やはり、目標が人を動かすのだなと思う。習い事は、強制したって続かないのだから。
その日から、毎晩せっせとノートに向かうようになった。ゲームのアイデアを書き綴っているようだ。ちょっとのぞかせてもらうと、イラスト入りで、たくさんのアイデアが書かれている。どれも目新しいものではないが、まずはそこから始まるのだろう。かくして、未来のスティーブ・ジョブズは、奄美大島の台風がきっかけで誕生した...のかもしれない。
旅は、思いがけない成長をもたらしてくれるのだ。
旅の途中経過

長男のエピソードはこれくらいにして、ここまでの旅を少し振り返ってみたい。
船中1泊
徳之島(とくのしま)2泊
奄美大島名瀬(なぜ)2泊
加計呂麻島(かけろまじま)1泊
請島(うけじま)2泊
沖永良部島(おきのえらぶじま)(7/30現在滞在中)
どの行き先も、長男の意向だ。沖永良部島も鹿児島県。こんなに鹿児島県に長居することになるとは思ってもなかった。
特に請島は、おととし隣の与路島に行ったこともあり、今回はまったく考えていなかったのだが、どうしても行きたいという長男の「だって、請島の請は、ごんべんに青だよ!」という力説に負けて訪れることになった。
大人は頭が凝り固まっているので、「請」という文字を見ても、「下請け」とか「請う」とか、意味から入ってしまう。でも子どもは違う。その文字から、きっといろいろな青を想像したのだろう。

実際に訪れてみると、なるほどそこはたくさんの青であふれていた。こんな風に、漢字の感じで行き先を決める旅もいいもんだな、と改めて思う。
旅で成長するのは、子どもだけではないのだ。
島人とのふれあい

島旅の魅力は、何もないことに尽きる。たとえば、請島で泊まった集落には、商店はもちろん、自動販売機すらなかった。ここまで何もないと、あるのは人と景色だけだ。
幸運なことに、この旅ではその両方に恵まれている。
最初に泊まった宿のオーナーは、元バックパッカーであり、たくさんの島を訪れた経験を語ってくれた。加計呂麻では、集落の商店でビールを飲むおっちゃんおばちゃんに混ぜてもらった。素泊まりなのに、宿のおじーがおにぎりを握ってくれたこともある(これがまたうまかった)。たまたまバスに乗り合わせたおっちゃんが、息子らの似顔絵を書いてくれたのもいい思い出だ。請島の宿のおばーは、「旅はいいねぇ」とニコニコしながら、息子たちをかわいがってくれた。それに、70年前の今ごろ毎日のように空襲があったことを、淡々と語ってくれた。

景色はいわずもがな。美しい空と海、岩、山、ヤシの木、ハイビスカス、サトウキビ畑。見るものすべてが、心を癒してくれる。
沖永良部島では、たまたま花火大会の日程と重なった。こうした偶然が、思いがけない旅を作っていく。
旅の行方

8/7に妻と那覇で合流する。それまでは、まったくのノープラン。長男の気まぐれに付き合いながら、風まかせならぬ息子まかせの旅を楽しもうと思う。
※第3話は、8月10日ごろ公開予定です。
(堀込泰三)