あなたが持つあらゆるスキルについて、それを超えると人からお金を払ってもらえる線が存在します。あなたのスキルがその線以下なら、反対にあなたがお金を払って誰かにそれをやってもらうことになります。この境界線を私は「バリューライン(価値を生み出す線)」と呼んでいます。この考え方でいくと、キャリアはどんな意味を持つでしょうか? キャリアとは、バリューラインを超えるように自分のスキルを磨いていく、ある特定の分野のことであると言えます。新しいスキルを多く身につければ、それだけバリューラインを超えるチャンスも多くなります。私の父は多芸多才な人でした。素晴らしい造園家であり、一日に何百ポンドもの魚をとる優れた漁師でもありました。また、工場の技術職に就いていて、おもにコンピューターの操作や、部品ピッカー(部品を収納庫から出して、ベルトコンベアーに載せるマシン)のメンテナンスを担当していました。ほかにもたくさんの物を修理することができました。
父の友人や親戚たちも、同じようなスキルを持っていました。大工や配管工、電気技師、そのほかさまざまな専門家の友人がいました。猟師や、自然の中を歩いて価値あるものを見つけてくる友人もいました。彼らはみな、得体の知れないマイクロビジネスを営んでいて、いつも何かしら新しいことに手を出しているように見えました。
要するに、私は、父の友人たちがどうやって生計を立てているか理解できなかったのです。農家らしき人もいたし、父と同じ工場で働いている人もいました。ほかの人についても謎だったのです。実は、今日に至っても、彼らが何をして生計を立てていたのか知らないのです。彼らはいつも何かしらのプロジェクトに取り組んでいて、おおむね満足しているように見えました。また、それで生活も成り立っているようでした。
私は成長すると、将来自分は大学へ行って、ひとつのキャリアを築いていくのだと思うようになりました。そして、父やその友人たちのことは、こと職業に関しては、奇人変人かのように見ていました。彼らははっきりしたキャリアを持っていませんでした。彼らはただ何かをして、なんとかやりくりしているだけのように見えたのです。
ですので、私は大学に行き、キャリアを築きはじめました。それからしばらくして、私に何が起きたのでしょうか...。
私はサイドビジネスを手がけていました。最後には、本業から離れ、サイドビジネスに注力するようになっていました。複数のサイドビジネスを手がけ、収入も複数の事業から得ていました。
現在、私は一日をどのように過ごしているでしょうか? 常に何らかのプロジェクトに取り組んでいて、おおむねそれに満足していて、生活も成り立っています。
いったい何が起きたのでしょうか? 何がこの変化を引き起こしたのでしょうか? すべてはバリューラインと呼ぶものが関係しています。
バリューラインの下にいると、お金を払わないといけない
人生のなかであなたが身につけるいかなるスキルも、あるレベルを超えれば、人からお金を払ってもらえるものになります。スキルがそのレベルを超えないときは、反対にあなたが誰かにお金を払ってやってもらいます。この2つを分けるラインを私は「バリューライン」と呼んでいます。
例えば、配管工事を考えてみます。経験豊富な配管工なら、家のどんな配管の問題も直せることでしょう。地下室が水浸しになった? 配管工に頼めばすぐに問題を見つけて直してくれます。もちろん、経験豊富な配管工は自分の家の配管問題はすべて自分で解決できます。
あなたが配管のスキルを持っていないのなら、配管工に電話をかけて修理を頼まねばなりません。配管に関していえば、あなたはバリューラインの下に位置しており、あなたが電話で呼んだ配管工は、バリューラインの上に位置しているのです。経験豊富な配管工は配管の問題からお金を得ます。配管スキルがないあなたは、配管の問題にお金を払うのです。
あらゆる場面で同じことが当てはまります。YouTubeで人気の動画を作っている人もいれば、それを見て楽しむ人たちもいます。料理をしてお金をもらっている人もいれば、レストランで食事をする人たちもいます。ガソリンを他人のために入れる人もいれば、誰かに入れてもらう人もいます。魚を捕る人もいれば、スーパーや魚市場で魚を買う人もいます。
こうした場面で、お金を稼いでいる人たちは、バリューラインの上にいるわけです。お金を払う人は、バリューラインの下にいます。
キャリアとバリューライン
では、この考え方の中で、キャリアはどんな意味を持つでしょうか? キャリアとは、ひとつのスキル、あるいはいくつかのスキルセットを、バリューラインよりも上に持ち上げ、人びとがお金を払ってくれるようにする、ある特定の分野のことだと言えます。
例えば、私の初期のキャリアは研究データをコンピューター分析することでした。この仕事は、プログラミングや、データ解析能力など、かなり高度なスキルセットを必要とします。こうしたスキル領域では、私はバリューラインより上にいました。だから、こうしたスキルを使って仕事を得ることができました。
しかし、こういうことも言えます。お金を稼ぐためには、必ずしもバリューラインの「はるか」上にいなくてもいいのだと。多くのキャリアパスでそれがあてはまります。一部の、バリューラインをはるかに、はるかに越えた人たちが、はるかな大金を稼ぐというだけの話です。
実際、バリューラインを超えるスキルを複数持っているということが、私の市場価値を高めていました。私は世界最高のプログラマーなどではありませんでした(今でも違います)。また、データを扱っている分野に関しても、真の専門家と言うには心もとない知識しか持ちあわせていませんでした。それでも、データのかたまりが何を意味するのか、データをどのように整理すればいいのかはわかっていたし、人びとがデータを活用して自分の疑問を解決する手助けができるくらいの知識はあったのです。
私はそれなりに高度なスキルを持っており(ワールドクラスではないにせよ)、キャリアの基礎となるには十分なものでした。
このことは、ほとんどすべてのキャリアパスにあてはまります。あらゆるキャリアパスは、その人が磨いてきた、ごく少数のスキルで成り立っています。彼らは、そうしたスキルを将来にわたり磨き続けることで、キャリアの階段を昇ってゆきます。
今日では、それぞれのキャリア領域の中で、こうした鍵となる少数のスキルに磨きをかけていくことが、ますます賢い戦略だとみなされるようになっています。資格をたくさんとるほど、有利となります。プロジェクトをたくさん達成するほど有利です。履歴書に、そのキャリアに特化したスキルをたくさん並べるほど、有利となるのです。
スキルの多様性
ところが、別の分野に移れば、その戦略もうまくいかなくなります。例えば、建設会社はシステムアナリストは雇わないでしょう。製造企業は、あなたが製造に関係ないスキルを持っていても、関心を示さないでしょう。
この点と、バリューラインからそれほど上に行かなくてもお金は稼げるという事実を合わせると、人生で収入を得るためのまったく違った戦略が見えてきます。ひとつのキャリアバスケットにすべての卵を入れてしまうかわりに、数多くの多様なスキルをテーブルの上に載せ、数多くの多様な状況でお金を稼げるようにするのです。
あなたは、もはやひとつの仕事に縛られてはいないのです。さまざまな分野で仕事を得られる幅広いスキルセットを持っているからです。スタートアップや副業に取り組んだり、フリーランスの仕事をすれば、お金を稼ぐ機会がいくらでも得られます。風が吹けば、完全に異なるキャリアに乗り換えることだってできます。
また、それだけでなく、現在のキャリアパスの中で、自分の価値をさらに高めることもできます。ほとんどすべてのキャリアにおいて、スピーチやプレゼン、プロジェクト管理などのスキルを持った人間が活躍できる場所があります。このほかにも、キャリアパスを歩んでいくうちに、身に付ければ雇用主が喜ぶ、あるいは、あなたの市場価値が高まるスキルが、いくらでも見つかるものです。
スキルを構築し、バリューラインを見つける5つの戦略
それがわかったとして、何ができるでしょうか? 現在のキャリアパスを歩みながら、同時に人生を楽しみながら、「バリューライン」を超えるスキルを効果的に身につけるには、どうすればいいでしょうか? 以下、私が多忙な生活の中で、バリューラインを超えるスキルを築くために駆使した5つの戦略を紹介します。
戦略1:毎日、何かを学ぶ時間をつくる
構築したいスキルを念頭に、毎日、具体的に何かを学ぶ時間を作ってください。眠りにつくときに、朝起きたときには知らなかった何かを学んでいるとしたら、良い一日だったと言えるでしょう。
もちろん、毎日の学びが意味を持つためには、自分がどんなスキルを構築しようとしているのかを理解していなければなりません。逆に言えば、このポイントさえ押さえておけば、何を学んだとしても、スキルの構築に活かすことができます。
知識を取り入れるには、書籍、YouTube動画、ウェブサイト、『Duolingo』のようなアプリを利用すればいいでしょう。重要なのは、昨日は持っていなかった知識を、今日、確かに学んだと感じられるだけの、十分な量を吸収することです。
以下、サンプルを、2つほど紹介します。
私はスペイン語を学んでいます。語学は、誰もが学びたいスキルの一例だと思います。言語は「バリューラインを超える」スキルのよい事例でもあります。
言語を学ぶなら『Duolingo』を強くお奨めします。このアプリは、言語学習を、リーディング、ライティング、スピーキング、画像に合うワードを選ぶなどのたくさんのレッスンに分解して、さまざまな角度からその言語を学ぶことができるものです。私の場合、一連のレッスンを、30分から1時間かけてやると、新しいことを学んだという気分になれます。
もうひとつのサンプルは、ギターの弾き方を学ぶことです。YouTubeに、ギターの弾き方を教えてくれる素晴らしい動画がたくさんあります。また、お金を払って誰かから直接、あるいはSkypeでレッスンを受けることもできます。私の場合、1回分のレッスンをやり終えたら、新しく学んだことと、これまで学んだことを組み合わせたエクササイズに取り組みます。
戦略2:毎日、学んだことを応用する
新しい知識を貯めこむだけでは意味がありません。学んだことを現実の世界で応用することが大切です。獲得した知識を、人から価値があると認めてもらえるものに変換する能力が、「バリューラインを超える」スキルを築く能力なのです。
例えば、私はスペイン語のレッスンを終えると、身につけたスキルを試すために、スペイン語の簡単な文章を、読むか、翻訳してみます。新しいスキルを、翻訳という実践的な文脈の中で活用できるでしょうか? また、ギターのレッスンを終えたら、今日習ったコードやテクニックを使って曲を演奏してみます。そして、弾けるまで繰り返し練習します。
この戦略は、どんなスキルにも適用できます。戦略1で、毎日何かを学んでくださいと言いました。今度は、新しく学んだことを、これまで学んできたことと合わせて、実践で使ってみるのです。
戦略3:プロジェクトに取り組む
はじめのうちは、学んだことを応用するといっても、かなり単純なことしかできないでしょう。初歩段階のスキルを大きな文脈の中に入れるのは簡単ではありません。とはいえ、できるだけ早く、学んだことを、より大きなプロジェクトに応用しはじめることが大切です。
例えば、ギターでイントロ部分ばかりを練習するのではなく、できるだけ早く、曲全体をマスターするように心がけてください。言語を学んでいるなら、単語をランダムに覚えるのではなく、何かしら実際の文章を翻訳してみます。プログラミングなら、「Hello World!」を表示させるだけでなく、自分が実際に使いたい小さなソフトウェアを書いてみます。
プロジェクトに取り組むことが重要な理由が2つあります。第一に、取り組むプロジェクトがあれば、戦略2の「応用」がやりやすくなります。第二に、プロジェクトに取り組んでいけば、最終的に、魅力的で面白い何かを作り上げることができます。これがまさに目指すべきゴールです。プロジェクトに取り組むすべての時間が、そのゴールへ向かうステップとなるのです。
戦略4:最後までやり遂げる
どんなスキルを構築するにしても、どんなプロジェクトに取り組むとしても、中途半端なところでやめないでください。取り組むプロジェクトを選んだら、最後までやり遂げること。
なぜか? 人がプロジェクトを放棄するのは、大きく2つの理由があります。ひとつは、プロジェクトが思いのほか困難だったというもの。しかし、それこそが、そのプロジェクトを最後までやり通すべき完璧な理由になります。困難なプロジェクトは、あなたに、スキルを高めるための試練を与えてくれるからです。
もうひとつの理由は、自分のスキルと時間をほかのところで使ったほうがいいと感じたというもの。この場合でも、途中で放棄すべきではありません。プロジェクトをやり通すことで、忍耐力が培われるからです。忍耐力は、人間が持つことができる最強のパーソナルスキルのひとつです。何かを最後までやり通せるというスキルは、非常に価値のあるものです。
また、「完了した」プロジェクトだからこそ、ブラシュアップする意欲も湧くし、人とシェアしたいと思えるのだということを忘れないでください。
戦略5:作ったものを売ったりシェアしたりする
これは、つたないスキルで作った、最初の(あるいは2つ目の)プロダクトにはあてはまらないかもしれません。とはいえ、できるだけ早く、作ったものをシェアしたり売ったりし始めることが大切です。
例えば、関心のあるトピックで情報動画を作ることに決めたとします。これは、そのトピックを掘り下げられるだけでなく、映像製作のスキルも学べることも意味します。よっぽどひどい出来でないかぎり、できるだけ早くYouTubeにアップしてください。その動画が何らかのメッセージを伝えているならそれで十分です。自分の眼から見てそれほど素晴らしい出来である必要はありません。
スキルがまだ十分満足いくものではないからといって、シェアするのを恐れないでください。自己批判的な人にとって、スキルは決して十分満足いくものにはなりません。私は今でも、自分が優れたライターだとは思いません(自分の才能はOKレベルな文章を大量に書くことだと思っています)。才能がどうであれ、私は書いたものを世に出し、お金を稼ぐために少し広告をつけてみたのです。スキルやプロダクトを世に出すのは、遅いより早いほうがいいのです。きっと後でそうしておいてよかったと思うでしょう。
中間地点:Do It Yourself(自分でやる)
もしここまでを読んで、なるほど趣旨はよくわかったけど、その程度のスキルで仕事になるとは限らないよね、と思ったあなた。私も完全に同意します。簡単に仕事にはなりません。
とはいえ、スキルを身につければ、少なくともスキルのある他人にお金を払う必要はなくなります。少なくとも払う頻度は減らせます。配管のスキルを身につければ、蛇口を変えたり、シンクの水漏れを直したりなど、自宅の配管問題を解決することができます。
電気工学のスキルがあれば、コンセントをつけたり、天井にファンを取り付けることができます。料理のスキルがあれば、外食に出かける頻度も減るでしょう。私は外食よりも家で料理をするほうが好きです。家で食べるもののほうが美味しいからです。
このほかにも、多様なスキルを身につけていれば、それらを使って少しのお金を稼ぐチャンスに何度も巡りあうでしょう。誰かのトイレを修理したり、車をメンテナンスして40ドルをもらうかもしれません。空き時間に本を書いて、Kindleストアで20ドルを稼ぐかもしれません。人生が変わるほどのことではありませんが、積み重なれば大きな違いとなります。
結論
結局、以上のことからあなたが学ぶべきメッセージは何でしょうか? 空き時間を利用して幅広いスキルを身につければ、より多くの経済的安定と、より多くの経済的機会を作りだせるということです。
スキルをたくさん持つほど、生計を立てるためにできることの幅は広がります。生活費も節約できるでしょう。副業への扉も開きます。私の経験では、それは予想以上に大きく育つものです。
退屈だったり、暇な時間があるなら、その時間を新しいスキルの習得や、既存スキルのブラッシュアップに充ててください。本を読み、動画を見て、スキルを学んでください。学んだことを現実の問題に応用してください。そうすれば、スキルが身につくだけでなく、自分にとって有益な何かを作り出すことができるでしょう。多様なスキルを身につければ、それだけ良いこともたくさん起きるでしょう。
気がつけば、あなたはいつも何かしらのプロジェクトに取り組んでいて、おおむねそれに満足して、生活も成り立っていることでしょう。もしそうであればそれは、あなたがバリューラインを超えるスキルを根気よく築いてきたからなのです。
The Value Line: Building More Skills for a Better Life | The Simple Dollar
Trent Hamm(原文/訳:伊藤貴之)
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