本当に頭がよくなる1分間アイデア法』(石井貴士著、SBクリエイティブ)は、57万部を突破した『本当に頭がよくなる 1分間勉強法』(中経出版)などで知られる著者の最新刊。これまでにも「ノート術」「勉強法」など多くの「1分間シリーズ」を送り出してきましたが、今回はアイデアの出し方に焦点を当てています。

驚かされるのは、「1分間アイデア法」と名づけられたそれがとてもシンプルであること。なにしろ、「ひらめきを紙に書き留める習慣をつける」だけのことだというのです。

エジソンはメモ魔でした。とにかくひらめいたことを、何でもその場でノートに書いたのです。ダ・ヴィンチはいつもノートを持ち歩き、生涯で1万6000冊のノートを残したと言われています。(中略)では、思いついたら、どのくらいのタイミングで紙に書き留めたらいいのか?というと、それは「1分以内」が正解です。(「まえがき」より)

でも、なぜ「1分以内」なのか? 理由は、「ひらめいたらすぐに書き留めよう」よりも、「ひらめいたら1分以内に書き留めよう」と思っていた方が具体的で行動しやすくなるからだといいます。「すぐに」だと1秒なのか10秒なのかわかりませんが、「ひらめいたら1分以内」と決めておけば、59秒の余裕が生まれるという考え方です。

本書では、そんな考えを軸に、アイデアを生み出すためのさまざまなメソッドを紹介しているわけです。きょうはそのなかから、Chapter 1「ひらめきを大量に生むための『フック式アイデア法』」を見てみましょう。

ひらめきは「質」ではなく「量」で決まる

ひらめきを紙に書き留めたものがアイデアになる。もしもそうなのだとしたら、ひらめきの量が多くなればなるほど、アイデアの量も多くなるということになります。だとすると、「どうでもいいひらめきも書き留めておくべきなのか?」という疑問が出てきますが、そのことについて著者は「ひらめきに、質(クオリティー)は関係ありません」と答えています。

理由は明確。それ自体は「くだらないひらめき」だったとしても、そこをきっかけとして「次のひらめき」が生まれることがあるから。つい「ひらめき=素晴らしいアイデアだけ」と考えてしまいがちですが、実際のところひらめきには、くだらないアイデアもあれば、革新的なものもあって当然。だからこそ、ひらめいた瞬間に書き留めることが必要だということです。

それに、そのひらめきが「いいもの」なのか「悪いもの」なのかをジャッジしていたら、それだけで書き留めるまでの1分を消費してしまうケースもあると著者。ひらめいたら、「ジャッジせずに書き留める」ことを習慣にすべきだということ。「質」より「量」を求めることで、その後の「ひらめきの連鎖」を生むことができるともいいます。

そもそも「使えるひらめき」なのか、「意味がないひらめき」なのかは、あとから考えればいいだけのこと。もし、思いついたときに「意味がないひらめきだ」と感じたとしても、1週間後、1年後に、それをもとにした素晴らしいアイデアが生まれる可能性もあるかもしれない。そればかりか、自分にとっては「くだらないひらめき」でも、周囲の人がそれを「ものすごいひらめきだ」と感じるかもしれない。つまり、ひらめいた時点でアイデアの良し悪しをジャッジするのは無意味だということ。重要なのは、ひらめいて1分以内に書き留めることだけだと、著者はここでも主張しています。(24ページより)

アイデアが、さらなるひらめきを生む

ひらめきを紙に書き留めると、そこからさらにひらめきが生まれることもあるとか。つまりは、「ひらめきを生むための、材料となるひらめき」も存在するということです。ひらめきには、それ自体で完結しているものもあれば、役に立たなそうに見えるものもあるとか。でも、役に立たなそうに見えたものが、10年後に意外なことに役立ったりすることも。だから、ひらめきは生まれた瞬間に評価してはいけないのだそうです。そして重要なのは、「ひらめきがどんどん生まれてくる状態をつくること」だと著者は記しています。(29ページより)

ひらめきを生むために「フック」を増やす

でも、「ひらめきの量を増やす」ためには具体的にどうしたらいいのでしょうか? この問いに対して著者は、「フックを増やす」ことが大切だと主張しています。フックとは洋服のハンガーのように「ひっかける」もの。たとえばホラー映画を見た後には、それがフックになって怖い夢を見たりすることもあるでしょう。また、好きなアーティストがフックになって、「自分もアーティストになるぞ」というひらめきが生まれることもあるかもしれません。

つまり、フックが多ければ多いほど、ひらめきは生まれやすくなるということ。なにもないところからひらめきを生み出すよりも、より多くのフックを持っておいたほうがひらめきを生みやすいということです。フックが増えれば増えるほど脳内が活性化され、ひらめきが起きるわけで、逆にひらめきが起きない人はフックが少ない人ということになります。

さらに著者は、「ひらめきの数はインプット量に比例する」とも主張しています。インプットが多いということは、頭のなかにそれだけ多くのフックが存在するということ。フックが10個しかない人と、100個ある人であれば、当然のことながら100個のフックの方がより多くのひらめきを得ることができるというわけです。(32ページより)

「B級の経験」よりも「A級の経験」を増やす

著者はこの項で、キャリアデザインスクール「我究館」館長の杉村太郎氏のことばを引用しています。

「経験には、2種類ある。A級の経験と、B級の経験だ」(37ページより)

というもの。ちなみにA級の経験とはActor(俳優)としての経験で、B級のBは傍観者のBだそうです。たとえば「本を読む」というのは、情報の受け手になることなのでB級の経験。それに対して「本を書く」は自分が発信者として行動しているためA級の経験。同じように「テレビを観る」はB級の経験であり、「テレビに出る」はA級の経験だということです。

情報社会である現代においては、インターネットで調べれば、あらゆる情報を入手することが可能。しかし、ただ検索しただけで自分が体験していない以上、それはB級の経験にすぎないといいます。映画を1000本観た人と、1000本の映画に出演した俳優では、後者の方が経験値が高いということ。

とはいえもちろん、最低限の知識がない状態だとしたら、無駄に失敗してしまうことが多くなります。そこで著者はつねづね、「最低2000冊の本を読め」と提唱しているのだそうです。そのくらいのインプット量は前提のうえで、自分を傍観者から体験者へ変えていくことが大切だという考え方。

ジェットコースターに乗っている人をテレビで観るのではなく、実際に自分がジェットコースターに乗ってみる。つまり観ている側ではなく、体験する側になった方がフックは増えていく。そして将来的に、それらが必ず役に立つということです。(37ページより)

シンプルだからこそ理解しやすく、さまざまな領域に応用できそうでもあります。アイデア出しに四苦八苦している人は、手にとってみるといいかもしれません。

(印南敦史)