ヘミングウェイの文章力や、セリーナ・ウィリアムズのテニス技術、ピーター・ティールのスタートアップを売り込むテクニックなど、ずば抜けたスキルが眠っている間に身に付いていて、朝起きたら本当に使えるようになっていたら......そんなことを想像したことはありませんか? 空を飛んだり、ビーチで寝転んだり、不安や悪夢が消えてなくなったりすることも、想像してみてください。

何世紀もの間、人間は夢遊状態を、高次元の知識や創造力、自己認識につながる道だと考えてきました。昔のヒンドゥー教徒やギリシャの哲学者、発明家のニコラ・テスラや画家のサルバドール・ダリ、映画監督のギレルモ・デル・トロ、ジェームズ・キャメロン、クリストファー・ノーラン、作家のティム・ファレス、スティーブン・キングなど、あらゆる人が夢を研究し実践してきました。

夢は知識と経験の倉庫のようなもの。しかし、現実を探るための手段として見過ごされることがよくある。 ── チベット仏教僧侶 Tarthang Tulku

実際に夢をコントロールすることができるのか?

ほとんどの人が、夢を見ている時はスポーツを観戦しているようなものです。ラインの外側に座って映像やアイデアが通り過ぎていくのを見て、運が良ければ、目覚めた後に少し思い出すことができます。しかし、夢への道を実際にコントロールできるとしたらどうしますか?

Lucidity Institute」創設者のStephen LaBergeさんは、明晰夢を見ることの臨床研究をしている第一人者です。「明晰夢」とは、意識のある状態で夢を見たり、夢をコントロールしたりすることができる状態です。

LeBergeさんはスタンフォード大学で、明晰夢を見るために、夢を見ている状態を意識しながら、目が特定の動き(例:右ー右ー左ー右ー左)をするような訓練を受けた人の研究をしていました。被験者の目の動きが、あらかじめ定められたパターンと一致するか、常にポリグラフ(うそ発見器)で観察します。実際、被験者の睡眠中の目の動きは、高速でランダムな動きから、ゆっくりとコントロールされた動きへと変化するのがわかりました。人間は、睡眠中も認知機能をコントロールできることが証明されました。

LaBergeさんの著書「Exploring the World of Lucid Dreaming」では、明晰夢を見ることは、単にすばらしい非現実的な体験なだけでなく、夢をコントロールすることができると、覚醒している間の創造性や問題解決能力、学習能力、恐怖心の克服、より良い判断力、ストレスの軽減、自分の内面の存在やマインドフルネスの意識を向上させることに、大いに貢献すると書いてあります。

一度でも、自分が夢を見ている状態や、自分の可能性が思っているよりもはるかに大きいと認識する経験をすると、覚醒している間に、同じようなことが実現できると思うようになる。── Stephen LaBerge

明晰夢は人間の能力をどのように向上させるのか

ほとんどの人が、パフォーマンスを視覚化したり、頭の中でイメージトレーニングすることにはメリットがあると聞いたことがあるでしょう。しかし今や睡眠の研究者は、スキルの強化や学習を促進させるよりリアルな状況を、自分のあらゆる感覚を総動員して作り出して明晰夢を見る方が、もっと強力なイメージトレーニングになると信じています。

どのように効果があるのかを解説するために、ベルン大学のDaniel Erlacher博士の2つの研究をご紹介しましょう。

  • 眠っている間に膝を深く曲げる一連の動きをするように言われていた、明晰夢を見る被験者は、心拍数と呼吸がわずかながらも明らかに増加した。
  • 別の被験者は、2メートル先にあるコップにコインを投げ入れる能力を調べられていました。その後、3つのグループに分けられ、最初のグループにはコインを投げ入れる練習をするように、2番目のグループには眠っている間に夢でコインを投げ入れる練習をするように、最後のグループには何もしないように言いました。その後、コインを投げ入れる成功率が、最初のグループは15%上昇し、2番目のグループは8%上昇し、最後のグループはたったの0.5%しか上昇しませんでした。

明晰夢を見ている状態では、脳がまるで実際にその動きをしているかのように、筋肉や体の他の部分に同じメッセージを伝えたので、身体的にもその結果が表れました。しかし、レム睡眠で筋肉は麻痺状態にあるので、筋肉は実際には動いていません。

明晰夢は、筋肉運動のスキルを向上させるだけでなく、大事な会議や、重要なプレゼン、外科手術、辛い話し合いなど、人生のあらゆることのリハーサルをするのに使うことができます。

だからこそ、怪我や疲労や恥ずかしいという恐怖を感じずに、現実では練習できないような難しいことを実験することができるのです。自分の限界や、どれくらい無理ができるのかを試し、実際に筋肉を動かさずに同じ神経を鍛えることができる、練習環境を準備しましょう。

睡眠中にクリエイティブな能力を伸ばす方法

人間は、情報と記憶と経験の宝の山を、無意識下の倉庫に詰め込んでいます。ほとんどは、意識によって重要でないと仕分けされたものです(だから無意識下の情報にはアクセスできません)。

しかし、クリエイティブなことをしている時は、より関連があると思われる、脳の潜在的な領域に入り込めます。だから、起きている時に頭に浮かんだアイデアを効率よく理解したいと思うなら、夢が潜在意識にあったものを顕在意識に浮かび上がらせる、強力なツールになるのです。

すべての人にとって、潜在意識というのはその人のクリエイティブな側面を表したもの...つまり、その人の女神のようなものです。── レイ・ブラッドベリ

時には、夢を思い出す能力だけあればいいということもあります。ポール・マッカートニーが「イエスタデイ」の作曲をしたのは、ちょうど鮮明な夢を見た後でした。しかし、ほとんどの場合は、意図的に問題を解決しなければならないので、答えを探すために潜在意識に遊び場のような場所をつくります。

Hacking Creativity」ではSteven Kotlerさんが、発明家で未来学者のレイ・カーツワイル氏は、技術的な問題や、ビジネスや個人の問題など、複雑な問題を解決するために明晰夢を使うと書いています。眠りに落ちる前に、解決法が頭に浮かぶような想像をするのです。

一晩中、解決法のフィルタの一部が、夢から出たり入ったりしています。最初は意識がおぼろげにあって、カーツワイル氏は問題に戻っています。それから、意識がどんどん薄まっていき"明晰夢"の状態になります。リラックスするのを抑制しようとする論理的な意識が、自分の内面の奥にある夢から生まれた驚くような洞察に辿り着きます。

Kotlerさんは、明晰夢を見るために大事なのは、単純なパターン認識に騙されることだと言っています。頭と体をリラックスさせる方法がわかっていれば、特定の問題やメリットに意識を集中でき、新しく異なる方法で情報とつながる脳のより深いところに到達できます。

明晰夢を見るための誘導法

もっと自信を持ち、クリエイティブになるために睡眠時間を使いたいと思っている人は、夢をコントロールする方法を学ぶことから始めてみましょう。

どちらも自分の内面や身の回りのことに意識的になることと関係があるので、私は明晰夢とマインドフルネスの実践をよく比較します。明晰夢を見ることは、自分が夢を見ていることが意識できる能力なので、自分の思考に意識を向け続ける能力を伸ばしたり、周囲の環境や環境との相互関係に非常に意識的になるなど、以下のようなテクニックがたくさんあります。

1. 夢を思い出す練習

ベッドサイドにノートを置いて、目が覚めたらすぐに覚えていること(夢の内容)すべてを書き留めます。最初は小さな手がかりや思いから始まり、そこから積み上がっていきます。一晩に少なくともひとつの夢を、できるだけ細かいところまで思い出すことを目指しましょう。頻繁に夢を思い出して書き留めるようにしていると、夢を見ている時に起こっていることが認識できるようになっていきます。

2. 夢の兆候を見極める

夢を7〜12ほど記録すると、そこにあるパターンが見えてきます。不思議なことに、よく登場する人や場所があるのです。よくある夢の兆候を見極めると、後で明晰夢状態に入るための入口として使うことができます。

3. 現実を調査する

夢を記録した日は、身の回りに起こる物事に注意を払い、特に夢の兆候と共通するものがないか気をつけてみましょう。目的は、夢を見ている間にやっていることを、気付かないうちにやっていないか、現実を調査することです。

例えば、何かを見て、パターンや色や質感に気が付くとします。目をそらしたり、もう一度見てみたりして、何もかも同じかを確認します。1日中このように自問自答し続けます。

今、夢を見ているか、それとも覚醒しているか? どうしてそれがわかったのか? 今何を着ている? 自分の名前は何? 今どこにいる? 5分前には何があった?

夢の中では、物や文字や出来事や人が、奇妙なかたちに変わっており、前に見た正しい形状とは違います。

4. 明晰夢への誘導

眠りに落ちながら、次のような明晰夢へと誘導する一連の行動を実践してみましょう。

意識に集中できるように、体のあらゆる部分に入っている力をすべて抜いて脱力し、その日にあった出来事や心配事を頭の中から消して空っぽにします。

夢を見ている状態に気が付けるように、祈ったり、念じたりします。

眠りに落ちながら、何度も何度も自分が明晰夢を見ているという想像を頭に思い浮かべます。眠っている間に意識したい、探し求めているメリットや、解決したい問題など、思い浮かべるものは何でもいいです。

5. 睡眠サイクルを分断する

多くの人が、5〜6時間の睡眠時間を2つのセッションに分け、1時間ほど起きてからまた眠りにつき、リラックスを誘導するテクニックを使うことで、明晰夢を見ることに成功しています。こうすると、レム睡眠の時間が長くなるので、より鮮明で長い夢を見ることができます。

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明晰夢を見ようと熱心に取り組んでいると、すぐに、もしくは数週間後にかなりストレスが溜まります。私はまだ、自分が明晰夢を見ている状態を認識できていません。

しかし、私は睡眠時間を個人的なバーチャルリアリティの世界にして、自分のクリエイティブ能力を広げたり、新しいことを学んだり、面白い人と話したり、奇妙でネガティブなイメージを美しく創造力をかきたてる何かに変えたいと思っているので、この実践を続けていきます。

少なくとも、本当に空を飛べるようになりたいんです。

How lucid dreaming can improve your creativity while you sleep|Crew

Rosanna Casper(訳:的野裕子)

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