外資系エグゼクティブの逆転思考マネジメント』(櫻田毅著、ぱる出版)の著者は、コーチングや研修、講演などを通じてビジネスパーソンの成長支援を行なっているという人物。それ以前は、日系の証券会社から米国系資産運用会社の日本法人に転職し、コンサルティング部門長としてチームを率いてきたのだそうです。そんな経験と実績から感じるのは、成果を出しているエクセレントマネージャーと、そうでない人との「マネジメント」に対する考え方の違いだとか。

自身の役割について問われたとき、悩みを持つ管理職の多くから返ってくるのは、「チームの一体感をつくること」「部下を育成すること」「部下のモチベーションを高めること」など、仕事や部下の管理に重点を置く答えばかりだといいます。著者にいわせれば、それこそが「管理思考マネジメント」。しかしエクセレントマネージャーの場合は、おそらくその多くが「成果を出し続けるチームをつくること」と答えるだろうと著者はいいます。チームの一体感や部下育成は、そのための手段にすぎないということ。

そして、成果という具体的なゴールから目をそらさずに行う彼らのマネジメントは、常識だと思われているマネジメントを安易に信じず、むしろその逆を行く場合があるのだといいます。

というのは、「常識」の中にはさまざまな妥協が含まれていることが多く、もう一度原点に立ち返ってあるべきマネジメントを見つめ直せば、非常識とも思われるやり方が実は最も効果的だという場合がたくさんあるからです。(「はじめに」より)

いわば、そのようにあえて常識を逆転する考え方が、本書の軸でもある「逆転思考マネジメント」だということ。そこで本書において著者は、管理思考と逆転思考を対比させながら話を進めています。きょうは「Chapter7 チーム文化をつくる ★上司はどんな場面でも『我慢の判断』をしてはならない」から、いくつかを引き出してみましょう。

マネジメント・スキルとマネジメント・スタイル

管理思考は、マネジメント・スキルにこだわる。

逆転思考は、マネジメント・スタイルでチームをつくる。

もちろん管理職にとって、コミュニケーション・スキルや交渉力、企画提案力や判断力などの「マネジメント・スキル」は重要。しかし、同じレベルのスキルを持っていても、それを発揮するための土台となる「マネジメント・スタイル」によって、チームの雰囲気や活力は大きく変わってくると著者はいいます。

外資系では比較的よく使われる言葉だというマネジメント・スタイルとは、チーム運営や部下との関わりにおける「軸となる姿勢」のこと。善し悪しやレベルの高低ではなく、あくまでもその人が大切にしている姿勢をさすそうです。ちなみに著者が採用面接の際に重視するのは、候補者が

1.経験に裏打ちされた自分のマネジメント・スタイルを明確に語ることができるか。

2.それがチームとして最高の結果を出すことに結びついているのか。

(194ページより)

この2点だといいます。なぜならしっかりとしたチーム運営で成果を出しているエクセレントマネージャーは、自分らしい確固たるマネジメント・スキルを持っているものだから。チームが成果を出していけるかどうかは、マネジメント・スキルもさることながら、マネジメント・スタイルに大きく影響されるということです。(192ページより)

「我慢の判断」と「ベストの判断」

管理思考は、部下との関係に配慮して「我慢の判断」をする。

逆転思考は、成果を出すために「ベストの判断」をする。

最近は、「部下の主体性に期待する」とか、「良好な関係構築のため」などの理由で、我慢をする管理職が少なくありません。しかし大切なのは「我慢の判断」ではなく、「ベストな判断」だと著者は指摘しています。なぜなら、マネジメントの目的は「チームとして結果を出すこと」だから。部下との良好な関係を築くのは、そのための手段。なのに「部下とうまくやっていく」ことにばかり目が向いてしまうとしたら、それは典型的な管理思考のマネジメントだというわけです。しかし、生き残りをかけた厳しいビジネスにおいて、「我慢の判断」でよしとされるようなマネジメントなどあり得ないわけです。

さらによくないのは、上司の「我慢をしている」という気持ちはチームにも伝わってしまうということ。当然のことながら、それではよい関係など築けるわけがありません。その点エクセレントマネージャーは、常にベストの判断をしていることを、その理由とともにしっかり部下へと伝えるもの。だから、結果的にはその姿勢が部下に伝わり、部下も制約条件下でベストな判断を探し、それを実践する姿勢を身につけることになるわけです。これは、よいことも悪いこともある仕事の環境のなかで、それに応じてなんとか成果を出していこうとするチームの文化となるそうです。(200ページより)

対症療法と本質的な解決

管理思考は、現象に目を向けて対症療法を行う。

逆転思考は、構造に目を向けて本質的な解決を行う。

どんな現象にも、必ず理由があるもの。しかし、その現象が何度も繰り返されるときには、「裏に構造的な理由が隠されている」と考える必要があるのだと著者。つまりそういう場合は、表面的な対症療法によって解決しようとするのではなく、構造を突き詰めて本質的な解決を図らなければならないということ。

そしてエクセレントマネージャーは、チームが問題の裏側にある構造に目を向けられるように、常に「ビッグ・ピクチャー(Big Picture)」を共有しているといいます。ビッグ・ピクチャーとは、対象としている案件の全体像のこと。案件の目的、組織的な役割、関係者、進捗状況、ビジネスとしての戦略性、これからの計画、可能性のあるリスクなど、個別のことがらから少し離れたところから眺めたときに見えてくる「大きな絵」です。事実、「いまからビッグ・ピクチャーを説明する」「ビッグ・ピクチャーはなんだ?」などのように、外資系では頻繁に使われる言葉なのだとか。

全体像が見えないまま対症療法や部分最適化を行なっても、それが必ずしも本質的な解決や全体から見た最適な対策になっているとは限りません。そこで、ビッグ・ピクチャーを強く意識しなければならないということ。また、上司であっても「絶対にこれが正解だ」と自信を持っていい切れるときばかりではないはず。しかし、それでもできうる限りのベストな判断を行うためには、違う視点からの部下の意見にもしっかり耳を傾ける必要があります。だとしたらなおさら、常にビッグ・ピクチャーを明らかにし、部下が正しい情報のもとで考えることができる状況をつくっていくことが大切だということです。

本質的な問題解決とは、問題の構造的な理由を見つけ、それを取り除くこと。そのためには、常にビッグ・ピクチャーを意識した情報共有が求められるわけです。(214ページより)

書かれていることの多くはたしかに、従来の日本の企業でよく聞く常識とは対極にあるものばかりかもしれません。しかし、だからこそ、なかなか焦点の当たりにくい本質が浮き彫りになっているともいえるはず。

著者自身の具体的な体験談もふんだんに盛り込まれているため、強い組織をつくるためにはきっと役立つのではないかと思います。

(印南敦史)